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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

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3.ユグドラシル 大通り

「帰えってき、た、ぞ♪ 帰えってき、た、ぞ♪ えーりゅ〜〜しーおーん〜〜♪」

 ここエリュシオンは藤井 つばめ(ふじい・つばめ)にとって第二の故郷らしく、通りを歩きながら口ずさむ。ただし、彼女は歌に自信がないらしく、ものすごく小声ではあるが。

「へぇー! つばめさんってエリュシオン出身だったの!?」

 つばめがドキッとして振り返ると、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)の興味深そうな顔が見える。
 つばめはみるみる顔が赤くなり、

(き、聞かれてたー!)

 と、手で顔を覆う。
 照れるつばめに、緋雨はおかまいなしに、

「ねえねえ。浮遊要塞に使えそうな計器類の部品屋さんってどこかなぁ? あと質のいい鉱石も見たいな。エリュシオンだからきっとあるよね?」

 と、質問攻めにする。
 後ろから天津 麻羅(あまつ・まら)はその様子を見守りながら、

「おや? 緋雨よ。おぬし、カリペロニアには多々良場を作るのではないのか?」
「んー、いろいろ考えたけど、『ワンオブウェポン』を作るには、素材から開発しないと無理かなーって。どう思う?」

 緋雨はR&Dのスキルを発動しているようで、珍しく麻羅にアドバイスを求める。
 麻羅も久しぶりの質問にまんざらでもなく、

「そうか。発想は悪くないが、開発が上手くいったとして、材料の安定供給は油断を生むぞ? こほん。まあこれはわしの経験論じゃが、希少な鉱物に向かうには、作り手にもそれ相応の覚悟が求められる。『二度と手に入らぬかも知れぬ』という背水の緊張感が、鍛冶師の精神を高めるのじゃ。これはただの気持ちの問題ではない。高次元の技術の一つとしてじゃな……」
「あ! 何これ! ねえ麻羅さん、これ着てみてっ」

 と、緋雨は店先に展示してある服を麻羅にあてがう。

「自分から質問しておいて、わしのアドバイスは聞かぬのか! しかもこれ……スクール水着ではないか?」
「エリュシオンにもあるんだねー。はい、試着試着」
「ま、待て。何故試着を……」
「せっかくだからダークサイズでポイント稼がなきゃね」
「いや、ダイソウトウはわしのコスプレに興味を持たんかったではないか」
「いいからいいから」

 緋雨は麻羅を、水着と一緒に試着室に押し込む。
 と言いつつも素直に水着を試着する麻羅。

「まったく緋雨。これでよいのか? おや?」

 彼女は水着に着替え、試着室のカーテンを開ける。しかし緋雨の姿は遠く彼方の別の店に移っている。

「つばめさん、これって浮遊要塞の速度計に使えそうじゃない?」
「うん、いいと思いますよ」
「エリュシオンの計器なら、浮遊要塞の魔術とも互換性あるよねぇ」
「こらー! ほったらかしにするでない!」

 水着姿のまま店を飛び出す麻羅。

「あ、ごめん。スキル使ってるから、目に入ったモノつい研究しちゃうみたい」
「スキルか趣味か、どちらかに集中せんか!」

 麻羅が緋雨を叱るところに、秋野 向日葵(あきの・ひまわり)はじめ、対ダークサイズ組が通りかかる。
 向日葵にはノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がしがみつくように腕を組んでいる。
彼女は、ある事情でエリュシオンへ来れなかった影野 陽太(かげの・ようた)のパートナーであるが、「一緒に行けないぶん、せめて」と陽太からおこずかいをもらっている。
ノーンは全て使い果たす気ではあるまいか、という勢いでユグドラシルのグルメを堪能していて、今は右手に向日葵の腕、左手におだんご、といった様子で、かなりご満悦のようだ。
 大岡 永谷(おおおか・とと)は、ノーンとは反対側の向日葵の隣から、彼女に聞く。

「サンフラワーさん。こう言うのもなんだが、のんびり観光なんかしてていいのか?」

 慣れというのは恐ろしいもので、向日葵は「サンフラワーちゃん」のあだ名に拒否反応を示さなくなってきており、本人もそれに気づく様子がない。
 すぐ後ろを歩いているグラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)も、同様の疑問をぶつける。

「サンフラワー殿。キャノン姉妹と早々に別行動をとったが、やはりあの子らと一緒の方が、情報が入ってくるのではないかのう」
「ふっふっふ。大丈夫だよ、グランおじいちゃん!」
「おじい……」

 本来老人呼ばわりされるとキレるグランだが、女子供にそう呼ばれるとさすがに怒るわけにもいかず、堪えてこう返す。

「グランおじいちゃんはやめてくれんかのう」
「じゃあグランちゃん!」
「う、うーむ……」

 一応グランの要望に応えた向日葵だが、グランもこの反応には困り果てる。
 「グランちゃん」と聞いて思わず噴き出しそうになったアーガス・シルバ(あーがす・しるば)オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)伽耶院 大山(がやいん・たいざん)の三人。
 その空気を感じて、グランは三人を睨み返す。即座に目を逸らす三人。
 オウガが慌てて知らぬふりで、

「おお、アーガス殿! ついに、ついに世界樹でござるぞ! 生世界樹!」

 と、遠くに見えるユグドラシルの世界樹を指さす。
 アーガスもグランの目線から逃げて世界中を見るが、その壮大さに思わず目を奪われる。

「おお……素晴らしいな」

 これには山伏の英霊である大山も、

「おおぉ……」

 と、言葉を失い、数珠を合わせて頭を下げる。

「はっはっは、大山殿! 本尊ではないのでござるぞ。拝んでどうするでござる」

 オウガはツッコミ気分で大山を茶化すが、

「何を仰いますやら、オウガ。拝んでなどおりませぬ。これは礼。世界樹への敬意を表したものですな」
「あ、そうだったでござるか。失礼。拙者には違いが分からぬが……」
「ことさら形に捕われることはない。畏怖の心を世界樹に届ければよいのですからな」
「なるほど、気持ちの問題でござるな」
「うむ、まあそうだが……」
「大山殿、ずいぶん安っぽい言い方に変換されてしまったようだな」

 大山が戸惑うところに、アーガスがぽつりと一言入れる。
 オウガはオウガで、

「ええっ、何がでござるか!? 何か拙者にミスがござったか!?」

 と、全く自覚はなく、少しうっとうしいくらいに二人に問いただしている。

「あっ、サンフラワーちゃん! あそこでランチにしよっ」

 ノーンは、オシャレなレストランを見つけ、食べきったおだんごの櫛で店を指す。
 向日葵も店の外観に惹かれ、

「おいしそー、ってあれ。ノーンちゃん、さっきおだんご食べてなかった?」
「べ・つ・ば・ら♪」

 と言って、ノーンはお腹をぽふぽふ叩く。
 オウガたちも腹ごしらえを求め、

「なかなか美味そうな店でござる」
「世界樹を遠く戴きながらの昼食も悪くないですな」
「しかし……これでは、観光がメインになっておらぬか?」

 アーガスがチクリと冷静なことを言う。
 ノーンはアーガスに向かって指を振り、

「楽しくしなきゃ損だよ、おじちゃん!」
「おじ……」

 向日葵もノーンに乗って、

「そうそう、これは調査活動だよ。ここからならダークサイズの動きも観察できるしね」
「そうだな。ユグドラシルの研究の一環と言うことで」

 と、永谷も加わる。
 グランも一緒に店に向かいながら、

「別に『腹減った』で構わんと思うがのう。まあいいわい」

 と、歩いていく。
 そこへ、何故か突然緋雨が猛ダッシュで飛んでくる。

「研究!? 何のっ? どんなっ?」
「え? え?」

 ただ食事に向かうだけの面々は戸惑いながら、緋雨を見る。
 遠目に緋雨の『研究』への反応を目撃していたつばさと麻羅。
 二人は緋雨を見ながら、

「あの……R&Dってそういうスキルなんですか?」
「うーむ……緋雨よ、スキルが暴走しておらぬか……?」

 と、仕方なしに向日葵の方へ合流していく。
 レストランに着くと、速攻で席に着くノーン。
 続いて向日葵たちも同じテーブルにつき、

「ダークサイズ新人だから変に疑われるとアレだし、一応立場上」

 と、緋雨達は向日葵とは離れた席に着いた。

「そうじゃ、忘れとった。サンフラワー殿、さっきの話じゃが」

 再び向日葵を向くグラン。
 向日葵は自信満々に胸を張り、

「あたしたちの目的は、ダークサイズ浮遊要塞の阻止(と、エリュシオンの観光)! 今回のあたしたちはラッキーだよ。ダークサイズがダイダル卿の救出にテンパっちゃえば、浮遊要塞どころじゃなくなるからね」
「つまり、ダークサイズをダイダル卿に集中させるってことだな?」

 永谷が言葉を添える。

「途中まではダークサイズを助けてあげる。その後タイミングを見計らって、エリュシオンにダークサイズがシャンバラのスパイだって密告するの」
「ほう! そうなれば、ダークサイズはエリュシオンから逃げ出すしかないのう」
「なるほど。サンフラワーさん、俺は浮遊要塞のウソ情報を流してみたいと思うんだが」

 永谷の提案に、向日葵もポンと手を叩く。

「いいねえ。ダイソウトウ達が右往左往すれば、作戦成功間違いなし!」

 と、初めてダークサイズの妨害が成功しそうで、三人は突然ドキドキし始める。

「ところでダイソウトウはどこに行ったんだろう?」
「奴の事じゃ、また適当にブラついとるのじゃろう」
「ふふふ。ダイソウトウめ、その油断が命取りだもんねっ」

 ダイソウが逮捕されていることなど知らない向日葵は、ダイソウの慌てふためく姿を想像してほくそ笑む。

「なるほど、そのアイデアも悪くないですね。それにプラスして、俺の作戦にも乗ってみませんか?」

 後ろから声が聞こえて、

「誰っ!」

 と向日葵が振り返る。
 声の主は後ろを向いたまま、

「俺たち打倒ダークサイズ軍は、今までさんざん辛酸をなめてきました……しかし、諦めずに戦ってきてよかった。我に秘策あり! エリュシオンへやってきたのが運の尽きですダークサイズ! やはり彼らを倒せるのは、このクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だったようですね!」

 と、不敵かつ絶対の自信を込めた表情で、クロセルは向日葵たちの方を振り返った。

「覚悟なさい、ダークサイズ! ふふふ……ふはははははは!!」