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第22章 心から願って

「エリザベートちゃん、来てくれたんだ!」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、ぱああっと顔を輝かせる。
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)がノーンが一人で待っていた店の前へと訪れた。
「ん? 今日は一人ですかぁ〜?」
 先月一緒だったエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の姿はなかった。パートナーの影野 陽太(かげの・ようた)の姿もない。
「おにーちゃんは環菜おねーちゃんと一緒に『ならか』にお仕事に行ってるよ。おねーちゃんはそのお手伝いだよ!」
 ノーンはそう答えた後、ちょっとだけ寂しそうな笑みを見せる。
「今はわたし1人……慣れてるけど、ほんの少しだけ寂しいかな?」
「煩い人がいないのは良いことですけどぉ。人がいないと、色々……んー、不便ですよねぇ〜」
 そう言いながら、エリザベートは軽く首を傾げる。
 エリザベートは一応まだ子供、しかも校長なので、一人でここ、空京まで勝手に訪れることは難しく、イルミンスール生達と一緒に訪れていた。
 賑やかな方がいいかなと思いもしたが……、
「たまには、同世代の子とお話するのもいいかもですぅ。食事が終わるまで、遊んできていいですよぉ」
 エリザベートはそう言って、イルミンスールの生徒達と別れて、ノーンと2人きりで店に入ることにした。

「今回はわたしの『おごり』だから、いっぱい食べてね!」
「子供におごってもらわなくてもいいですぅ」
「おにーちゃんの財布から出すからいいんだよ?」
「そうですかぁ、それじゃ、遠慮なく〜」
 エリザベートは気になる料理やデザートを次々に注文していく。
 ちょっとは寂しい気持ちもあるけれど、ノーンは基本的に能天気なので、毎日普通に地上での生活を楽しんでいた。
 エリザベートを誘ったのは、バレンタインフェスティバルの期間にも、こうして一緒に食事をしたから、そして喜んでくれたから。
 ホワイトデーはお返しをする日だと聞いているので、会えないおにーちゃん、おねーちゃんは誘えないけれど、一緒に楽しんだエリザベートにはまた喜んでもらいたいな、と思った。
 届いた数々の料理から、互いにケーキを真っ先に選んで食べ始める。
 注意してくる大人は今日は一緒じゃないから。
 ケーキやアイス、パフェにプリンと、甘くておいしいデザートを沢山食べながら、しょっぱいものが欲しくなったら、チキンやポテトに手を伸ばして食べて。
 顔や手や服が少し汚れてしまうけれど、誰も咎めはしないし、誰も拭いてくれもしない。
 ケチャップやクリームをつけた互いの顔に、笑いあって。
 美味しいお菓子や、学校のこと、パートナーのことなど。他愛もない話を沢山して。
 お腹いっぱいになった頃に、お手拭で手を拭いた後、ノーンは竪琴を取り出した。
「それじゃー、今日はエリザベートちゃんのために歌ってあげるよー!」
 竪琴を奏で始めて、ノーンは澄んだ声で歌い始める。
「お腹いっぱいですぅ……」
 エリザベートは深く椅子に腰かけて、ゆったり歌を聞いていた。
 ノーンの持つ力。幸せの歌、震える魂――彼女の存在が、エリザベートの心を躍らせ、歌が幸福の感情を呼び起こしていく。
「……お腹いっぱいですぅ」
 もう一度、エリザベートはとても満足そうな顔で言う。
 その言葉には、美味しいものをいっぱい食べたからだけではなく。
 今響いている歌声に、とても癒されていること。満足していることが、含まれていた。
 なんとなく、ノーンにもそれがわかったから。
 エリザベートをそっと包み込ような、優しい音色で音を、歌を奏でていく――。
 エリザベートへの感謝と。
 それから、冥界で奮闘中の大切な人の為に。
 願わくば、全ての人々に幸いがあることを……心から、願って。

 少女の澄んだ声が、店内に響き渡り。
 訪れた客達が全て、彼女の歌に魅了されていた。