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第18章 今はのんびりと

 クイーン・ヴァンガード時代にミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)に剣をささげ、以来彼女を見守っていたシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)は、ひょんなことから、彼女主催のアイドルユニット『【M】シリウス』のプロデューサーになったりと。
 今でも傍で彼女を支えていた。
 ミルザムに少し時間が出来た時を見計らい、シルヴィオは彼女を空京に誘い出していた。
「今日はミルザム様にお願いがあるんです」
 ホワイトデー大感謝祭が行われている街に足を踏み入れたところで、シルヴィオはそう切り出した。
「はい、なんでしょうか?」
 そう答えたミルザムは、目立たないよう軽く変装をしている。
 黒のスラックスに、Vネックのニット。白いスプリングコートを纏い、髪はシンプルに1つにまとめて、眼鏡をかけていた。
「アイシスは子供の頃から神官としての修練に従事していたらしくて、若い女の子がするような事は殆ど経験がないようで。よろしければ、一緒に服を選んでやって下さいませんか?」
 今日はシルヴィオのパートナーのアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)も同行している。
「シルヴィオ……」
 アイシスはシルヴィオの提案に、驚き顔だった。
 きちんと身だしなみを整えていれば、お洒落なんて必要ないと思ってきたけれど……。
(少しは考えた方がいいのかしら?)
 アイシスの様子に、くすりと笑みを浮かべながら、シルヴィオはミルザムに頼んでいく。
「ミルザム様のセンスでコーディネートしてやってください」
 アイシスと出会った後、シルヴィオは色々と彼女のものを都合したのだけれど、結局聖衣や、シンプルな服しか彼女は着なかった。
 もっとお洒落をしたらいいのにと、シルヴィオはいつも思っていたのだ。
「好みは少し違うかもしれませんが……私でよければ、お手伝いいたします。アイシスさんがよろしければ、ですが」
 ミルザムの言葉にアイシスはほんの少し戸惑いもしたけれど、頷いて頭を下げる。
「よろしくお願いします」

「もう少し派手な方がいいかしら……。でも、落ち着いた服の方が、アイシスさんにはお似合いですよね」
「あの、ミルザム様……十分派手だと思います」
 ミルザムがアイシスにと選んだ服は、青いフリルのついたワンピース、それからレースのボレロだった。
「春ですから、控えめなくらいですよ」
「でも、スカート丈もちょっと短いです」
「え? 短くありませんよ。膝丈ですから」
「膝丈って、座ったら……危険です」
 そんなミルザムとアイシスの会話に、シルヴィオは時折笑みを浮かべながら、彼女達を見守っていた。
 結局、アイシスはその服を試着し、納得した上で購入した。
「もう少し暖かくなりましたら、着させていただきます……。なんだか楽しかったです。ありがとうございました」
「いいえ。楽しく選ばせていただきました」
 女同士で、楽しそうに微笑み合う。
「さて……」
 支払は提案者のシルヴィオが行い、領収書と一緒に抽選券を貰って2人の元に戻ってきた。
「せっかくだから、2人で抽選してきたらどうだい?」
 シルヴィオは抽選券をミルザムに手渡した。
 ミルザムは抽選券を眺める。
「カップル限定ですか。どんな景品があるのでしょうね……」
「ご迷惑じゃなければ、食事の後にでも一緒に行きましょう」
「ええ、是非」
 ミルザムはアイシスに頷き、シルヴィオに笑みを見せた。
 それから3人はシルヴィオが予約しておいたシャンバラ各地の民族料理を扱った店に行き、食事を楽しんだ。
 ミルザムは踊り子として世界を回っていた頃の事を、懐かしげに2人に話してくれた……。

 買い物と食事を楽しんだ3人が、抽選会場に到着したのは会場が閉まる寸前だった。
 2人が当てたのは、ペアパジャマ。
 女性同士ということもあり、全く同じ色のパジャマを選んで、それぞれ貰って帰ることにした。
「今日はありがとうございました。楽しい休日でした」
 当てたパジャマを抱えるように持ち、ミルザムは微笑みを見せた。
 シルヴィオはこくりと頷いた。
「離れていても、貴女をお守したい」
 そう言って、シルヴィオは取り出した袋をミルザムの手に握らせた。
「これは……」
 袋の中には、紫のクレマチスの飾りをあしらった髪留めが入っていた。
「私に?」
「使ってください」
「……ありがとうございます。本当に、いつも……感謝しています」
 ミルザムは深くシルヴィオとアイシスに頭を下げた。

 付き人と合流をして、帰っていく彼女の背を見ながら、シルヴィオは小さく呟く――。
「貴女が何者であったとしても……俺の気持ちは変わらない」
 アイシスはただ静かに、祈っていた。
 新たな道を踏み出したミルザムに、悲しい事が起きたりしないように、と。