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第13章 嬉しさ2倍

 バレンタインの時と同じように、桐生 理知(きりゅう・りち)は、辻永 翔(つじなが・しょう)をさそって、秘密の場所へと来ていた。
 今日も街には人が溢れている。
 カップルの姿が多いけれど、飾りは1月前より少しシンプルだった。
 穏やかな優しさを感じる、空間だった。
(バレンタインの時、ここでチョコ渡せてよかったっ)
 そう思いながら、街を見下ろしている翔の横顔をそっと眺める。
(でも翔君いっぱい貰ったみたい? やっぱりモテるんだ……)
 胸が苦しくなって、大きく息をついた。
(なんでこんなに胸がぎゅってなるんだろう。恋……なのかな)
 目を伏せて理知は考えていく。
(まだ良く分からないよ……)
 翔とお揃いの御守を、今日は鞄につけてあった。
(分からないけど……こんなこと考えてる時間、もったいないよね。2人きりなんだし……確かめる為にも、今日は楽しまないと!)
 そう思って理知は一人頷いた。
「翔君、お昼にしよっか。お弁当持ってきてるんだっ」
「おっ、サンキュー。俺は食後に食べるデザート買って来た」
 翔が鞄の中からコンビニのビニール袋を取り出す。
「ってあ、スプーン貰ってないや」
「大丈夫、スプーンもあるよ」
 くすりと笑いながら、理知はベンチの上に、作ってきたお弁当を取り出していった。
「えっと、いっぱい味見したから、大丈夫なはず……」
 少し恥ずかしそうに、理知は弁当箱の蓋を開ける。
「うん、美味そう」
 翔はそう言いながら、ベンチに腰掛ける。
 理知も弁当をはさんで翔の隣に腰かけて、開いた弁当箱を翔に差し出した。
 ……あ〜んと食べさせてあげようなどとは、考えもしなかった。今はまだ。
「何故かタコさんウィンナーがカニさんの形になっちゃったけど。味は変わらないからね」
「うん、これはこれでいいと思うぞ」
 言いながら、翔はウィンナーを食べて「程よい味で美味い」と微笑む。
「料理って難しいね」
 そう言いながら、ほっと理知は息をついて自分も食べ始めた。
「十分上手に出来てるじゃないか?」
 今日はぽかぽか陽気で、丘には可愛らしい花も沢山咲いていた。
「ありがと、もっと上手くなるね」
(翔君に食べてもらえるのなら、料理……好きになれそうかなっ)
 理知の頬が、ちょっと熱くなる。

 食事の後には、ブランケットを広げて。
 お昼寝しようかと理知は翔に提案をした。
「そうだなー」
 翔は腕をぐいっと伸ばして伸びをすると、ベンチにゴロンと横になる。
「どうぞ」
 理知はブランケットを翔にかけたあと、自分も隣のベンチに横になった。
 太陽の光と、そよ風。運ばれてくる花の香りがとても心地よい。
「最近忙しくて、ここになかなか来れなくなってるから嬉しいなっ」
 横になっている翔の方に顔を向けて、微笑んだ。
「翔君がいてくれてから、嬉しさ2倍だよ!」
「そっか。それはよかった。こういうのもいいよな……。あ、そうそう。デザートもう一つ買ってあるんだ。プチケーキ」
 そう言って、翔は理知に箱を一つぽんと投げた。
「あ、ありがとう。これって……」
「あー……バレンタインのお返しとも言う」
 そう言った後、翔は直射日光を避ける為か……照れ隠しか、ハンカチを顔に乗せて目を閉じた。
「ありがとう……翔君」
 理知はもう一度、お礼を言った。
 頬を赤く染めながら。すごく嬉しそうな笑みを浮かべて。