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第12章 ティータイム

 シャンバラ宮殿での用事を済ませた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)を誘って、お茶と会話を楽しんでいた。
「街では、ホワイトデー大感謝祭が行われてるみたいね。テティスはもう行った?」
「ええ、彼方と一緒に、何度か言ったわ。……警備に」
 テティスの答えに美羽は苦笑した。
 テティスと皇 彼方(はなぶさ・かなた)は少しは進展しているのだろうけれど、相変わらず恋人同士の甘い時間は過ごしていないようだった。
「どうぞ。熱いので気を付けてくださいね」
 ベアトリーチェは理子のカップに紅茶を注いだ。
「うーん、紅茶も美味しいけど、お茶菓子が欲しいところよね!」
 言いながら、理子はちょっと多めに砂糖を入れた。
 茶菓子を入れるための皿にはまだ茶菓子は乗っておらず、今はまだ、テーブルの上には、飲み物だけしかない。
「その彼方さんと、コハクくんが茶菓子を買いに行ってくださいました」
 疲れをとるためには甘いものが一番だからと、ベアトリーチェは非番だったコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に彼方と一緒に茶菓子を買ってきてほしいとお願いをしたのだ。
「お茶菓子かー。ちょっとは期待していいのかな?」
 美羽がテティスを見ると、テティスは軽く頷いた。
「コハクさん、美羽さんの為に、美味しいお菓子を選んでくれると思うわ」
「うんまあ、そう……かもしれないけどね。ホワイトデーのお返しも選んでくれてるんじゃないかな。2人で。ね、どんなお返しくれるのかな?」
 美羽が理子とテティスに問いかけると、理子は「うーん」と考え、テティスは少し不安気な顔になった。
「板チョコでももらえれば十分かなー! 案外忘れてたりして?」
 そんな理子の言葉に、テティスは「その可能性も」と、小さく頷いた。
「これだけ街が賑わってるんだもん、2人とも考えてはいると思うよ。板チョコの可能性もないとはいえないけどね」
「……そうね。そんな気がしてきたわ」
 美羽の後に続けて、テティスがそう言い、女の子達の顔に笑みが広がった。
「彼方さんとコハクくん、いまごろ困ってるでしょうね。2人とも、お菓子選びなんて慣れていないでしょうから……」
 ベアトリーチェが皆のカップに紅茶のお代わりを注いでいく。
「そう思うのなら、一緒に行ってあげればよかったのに。……というわけにもいかないか」
 理子がそう言い、ベアトリーチェが微笑んで頷く。
 多分2人とも、ホワイトデーのお返しを選んでいるだろうから。
 今回は口を出さず、2人の思うままのお返しを用意してほしいと、ベアトリーチェは思っていた。
「たぶん彼方は、いまごろこんな顔で選んでるよ。どんなお菓子だったら、テティスに喜んでもらえるかなって」
 美羽は腕を組みながら眉間にしわを寄せて、悩み顔を作り出す。
「コハクさんはこんな顔かしら?」
 言ってテテュスは頬を掻きながら、困り顔を作り出す。
「そんなふうにテティスさんや美羽さんのために、一生懸命選んでくれていると思いますよ」
 二人の顔にくすりと笑いながら、ベアトリーチェが言った。
「楽しみだね!」
「ええ。……そろそろ、戻ってきてもいい時間よね」
 美羽とテティスは微笑み合い、時計に目を向けた。
 2人が近くの店に出かけてからもう1時間以上たっている……。

 女の子達の予想通り、コハクと彼方は悩み顔、困り顔でホワイトデーのお返しを何にするか、店の中で散々迷っていた。
 茶菓子用には無難に缶入りのクッキーを選んだのだけれど、お返しの方は何にすべきか決められない。
 コハクが美羽からもらったチョコレートも、彼方がテティスからもらったチョコレートも、2人が皆に配っていた義理や、友チョコとは違って……特別なものであったことを、互いに理解していたから。
「うーん、値段が重要? 量が重要? 美羽が好きなものを贈るべきかな……」
「値段とか量じゃなくて、真心が大切なんじゃないか?」
「でも、手作りってわけにはいかないし」
「それならやっぱ、量より質だ、質! って、質がいいのってどれだかわかんないんだけどなー。はあ……」
 そんな風に、長時間店内で悩んでいた2人に、店員が一部の地方のお返しには物によって意味があるのだと、教えてくれた。
 その結果。
「……キャンティーにしようかな」
「え、あ……うん、そうしようか」
 コハクと彼方は同じものを、互いの大切な人に贈ることに決めたのだった。
 それは、宝石箱のような箱に入った、宝石のような色とりどりのキャンディーだった。

「お帰り! コハクお菓子、お菓子〜。紅茶もう3杯も飲んじゃったよ」
 戻ってきたコハクに、美羽は笑顔で近づいて、自分の隣へとひっぱってきた。
 何時も通り、美羽は元気で明るかったけれど、コハクのことは……なんだか直視できない。
「……遅かったのね。ちょっと心配したわ。何かあったんじゃないかって」
 テティスは弱い笑みを浮かべて彼方にそう言い、「ごめんごめん」と彼方は頭を掻きながら彼女に近づいてきた。
「お茶入れるわね。外寒かったでしょ」
「ううん、あんま気になんなかった」
 座った彼方の前にあるティーカップに、テティスは紅茶を注いで、ミルクと砂糖も入れてあげる。
「ありがと!」
 スプーンでかきまぜた後、彼方はごくごくと紅茶を飲んでいく。程よい温かさだった。
「あのね、美羽」
 美羽の隣に腰かけたコハクが、小さな声で彼女を呼ぶ。
「うん」
 美羽は少し鼓動を高鳴らせながら、コハクの方に目を向けた。
「あとで渡したいものがあるんだ……。帰りにちょっとだけ、時間もらえる?」
「う、うん。もちろん」
 美羽はにっこり微笑んだ。
 頬がとても熱かった。今はまだ、コハクが持っている物を見ないようにして、代わりに彼方の手元に目を向けた。
「俺達は今日中にツァンダに戻ろうな」
 言いながら、彼方は手元をもじもじさせている。
 きちんと渡すことが出来るのかなあと、美羽は心配になったけれど、この場で口は出さない方がいいだろうと思って、今は2人を見守ることにした。
「っと、あ、クッキー買ってきたんだった」
「そうそう、出店で買ったタイ焼きもあるぜ! 出来たてほかほかだ」
 コハク、彼方が茶菓子用の皿の上に、クッキーとタイ焼きを並べていく。
「美味しそう!」
「この餡が沢山入ってそうなの予約!」
 美羽と理子が目を輝かせる。
「ふふ、待ってたわ」
 テティスが彼方に微笑み、彼方は照れたような笑みを浮かべて、頷いた。
「では、皆で頂きましょう」
 ベアトリーチェが減った皆のカップに紅茶を注いだ後、席につく。
「戴きます」
「いっただきまーす」
 女の子達が声を上げて、クッキーとタイ焼きを手に取っていく。
「おいひー!」
 理子は、タイ焼きとクッキーを同時に口の中に入れて、満面の笑みを浮かべていた。
「理子さん、喉を詰まらせてないでくださいね」
 ベアトリーチェはそう言葉をかける。
 お菓子と紅茶の美味しさ。何よりも大切な人、友達と一緒だということに、皆の顔に笑顔が広がっていった。