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第37章 2人きりの夜

「別に誰でもよかったんだけどね。付き合ってくれて、ありがと」
 セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が、顔をそむけながらシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)言った。
「誘っていただけて、嬉しかったです。セイニィ」
 セイニィとシャーロットは、今日、セイニィからの誘いでヴァイシャリーを訪れていた。
 セイニィの目的は、春服選びだった。
 服を選ぶ姿を知り合いに見られたくはないなどという理由で、今回はヴァイシャリーを選んだらしい。
 だけれど、本当は意味があることを、シャーロットは知っている。
 ヴァイシャリーに来た理由も、シャーロットを誘った理由も。
 セイニィが口から出した言葉通りではないのだと。
 事実、彼女は服を見ただけで、何も買わなかった。
「お買いもの終わったのでしたら、展望台に行ってみませんか?」
「行きたいのなら、行ってもいいわよ。あそこが眺めいいんだって」
 シャーロットが誘うと、セイニィが場所を決めて歩き出す。乗り気なようだった。
(もしかして……私をここに誘うことが目的だった、なんて。考えてもいいでしょうか)
 そんなことを考えながら、シャーロットは先に行ってしまうセイニィを急いで追いかけた。

「空京ほどじゃないけど、明るい街ね」
「綺麗ですね。明かりがついている家には人がいるのでしょう。この夜を、皆どのように過ごしているのでしょうね」
 シャーロットがセイニィに目を向ける。
 セイニィは「そうね」とだけ言って、窓の外、それから夜空の星を眺めていた。
 そんなそっけないような言葉でも、シャーロットは喜びを感じていた。
 セイニィの動き一つが、自分に向けられる目や、言葉が、鼓動を高鳴らせていく。
 セイニィが好きだと気付いてから、こんな調子だった。
 パートナーの霧雪 六花(きりゆき・りっか)呂布 奉先(りょふ・ほうせん)シェリル・マジェスティック(しぇりる・まじぇすてぃっく)に応援されて、送り出された今日だけれど。
 まだ、これといって何が出来たわけでもない。
「まだちょっと寒いわよね。春服なんて選んでる場合じゃなかったかも」
「セイニィ、薄着ですから……。動き回る時は、軽装の方がいいんでしょうけれど、こういった時には街の女の子達のように、着込んで着飾ってみてはどうです?」
「いいのよ、この格好が好きなんだから……くしゅん」
 セイニィがくしゃみをする。
 すぐにシャーロットは自分がしていたマフラーを外すと、セイニィの首にかけた。
「喉を冷やしたらダメですよ」
「うん……借りとくわ、これ」
 セイニィはマフラーをぐるぐる首に巻いて、また外に目を向けた。
「あのさ……」
「はい?」
 シャーロットも夜景に目を向けながら、返事をした。
 夜景も素敵だけれど、セイニィのことももっと見ていたいと。
 マフラーを一緒に巻いたり、寄り添ったり、手を繋いだりも……したいのに。
「ありがとね、うん」
「はい……」
 今日のことだろうか、マフラーのことだろうか。シャーロットは軽く首を傾げた。
「ほら、シャーロットのこと、嫌いじゃないし。嫌じゃないし。わかるわよね」
「は、い。大丈夫です。それは分かってますから」
「それならいいんだけれど」
 素直に感情を表せない彼女だから。
 シャーロットのことを、彼女なりに案じていたらしい。
「それじゃ、そろそろ帰ろうか。空飛艇で、もっと上空から街を眺めながらね」
「ええ、帰りましょう。でもその前に、スプリングコートを一着買いませんか? 風邪を引かないように。私がセイニィに似合うコートを選びましょうか?」
「自分で選べるわよ。……でも、選んでくれても構わないけど」
 そんなセイニィの言葉に頷いて、一緒にその塔の中にある、衣料品店に向かっていった。

 シャーロットがセイニィに選んだコートは、エメラルドグリーンの明るいドレスコート。
 大切で大好きな彼女を、より一層、輝かせてくれるコートに見えたから。