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第38章 護身に

 百合園女学院にも、友人達とホワイトデーを楽しむ少女達の姿があった。
「お姉様。この紅茶、とても美味しいですわ」
「気にいっていただけて、良かったです」
 泉 美緒(いずみ・みお)と、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、オープンテラスでお茶を楽しんでいる。
 誘ったのは小夜子の方で、小夜子は美緒の為にティセラブレンドティーを用意し、淹れてあげたところだった。
「チョコレートの方はお口にあったでしょうか……?」
 小夜子はバレンタインには美緒にチョコレートを贈っている。
 お礼の言葉もお返しも受け取ったけれど、そういえば感想は聞いていなかった。
「とても美味しかったですわ! 夢中になってしまい、すぐに全て食べてしまったくらいです」
 美緒は小夜子からもらったボンボンショコラを思い浮かべながら、微笑んだ。
「それは良かったです。美緒さんから頂いたクッキーもとても美味しかったです」
「お勧めのクッキーでしたの。気に入っていただけたのなら、お姉様といつか一緒に買いに行きたいですわ」
「ええ、是非。とても楽しみです」
「はい」
 返事をした後、美緒は軽く首を回した。
「もしかして……また肩、凝っていますか?」
「あ、はい。あの……今のはわざとじゃないのですが、もし小夜子お姉様がよろしければ……また、お願いできますか?」
「そうですね。では、楽にしてあげます」
 小夜子は立ち上がって、美緒の後ろへと歩き、彼女の肩に手をあてて、凝り具合を確認した後。
 ゆっくり、力強く、美緒の肩を揉んでいく。
「ホント、今日も凝っていますね」
「あ……お姉様、そこですわ。はう……っ」
 美緒は気持ちの良さそうな声をあげる。
「定期的にマッサージをした方が良いとは思いますが、自分ではほぐせない場所ですから難しいですよね」
「はい……」
「時間がある時には、私も手伝いますよ」
 揉み終えて。小夜子は美緒の髪を整えてあげる。
「ありがとうございます。……あの、またお願いします」
 振り向いて、嬉しそうな笑みを浮かべる彼女に、小夜子も微笑みながら首を縦に振った。

 美味しい紅茶を飲みながら、日常の他愛もないことについて話をしていたら、つい時間を忘れてしまって。
 気づけば、日が落ちかかっていた。
「こういう場にはあんまり似つかわしくは無いけど……」
 そう前置きをして、小夜子は取り出したものをテーブルに置き。
 美緒の方へと押した。
「何でしょう、お姉様」
 美緒は包んでいる布を開いてみる。
 中に置かれていたのは、ピローソード――貴族が護身用に枕元に置く小型の剣だった。
 豪華な装飾が施されており、柄にはトパーズがはめ込まれたいた。
「美緒さんの誕生石ですし、宝石の意味としても護身用としてはいいでしょうから」
「意味ですか?」
「ええ、トパーズは持ち主を災いから守るそうです。美緒さんはトラブルに巻き込まれる事が多いから、心配です。もしもの時、これが役に立つと良いのですが……。良ければ、貰ってくれませんか?」
「ありがとうございます。この剣がわたくしを守ってくださるとしたら……。それはトパーズの力と、小夜子お姉様のお気持ちですわ」
 美緒は剣を布でくるみなおして、大切そうに胸に抱きしめた。
「あまり、心配させないでくださいね」
「はいっ」
 美緒が元気に返事をする。
(……それでも、きっとまた美緒さんはトラブルに巻き込まれてしまうのでしょうけれど)
 剣が、トパーズが、美緒を守ってくれますように。
 そして、美緒が言ってくれたように、自分の想いも――美緒の守りに繋がればいいなと。
 そう考えながら、小夜子は美緒と微笑み合った。