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リアクション
その日は5月15日。
ツァンダの街付近の冬を担当している季節の精霊の一人、ウィンター・ウィンターが資格剥奪に恐怖しつつ人々に助けを求めていたその頃。
林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は街のウィンドウディスプレイを見て、寂しげに呟いた。
「うー、ことしはうきだうま、つくってないお……」
と。
『春は試練の雪だるま』
第1章
「どうした、コタロー?」
林田 樹(はやしだ・いつき)は足を止めた。
ツァンダの街にパートナー達と買い出しに来ていた樹。新谷 衛(しんたに・まもる)が大量の荷物を抱え、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)がそれを手伝いもせずに衛の尻を叩いているいつもの光景の中、コタローが一人ついて来ていないことに気付いたのだ。
コタローが覗き込んでいたウィンドウディスプレイはどこかの玩具店。そこはもう閉店してしまったのだろうか、薄暗い店内にはいつかの冬のディスプレイがそのまま放置してある。
コタローは樹を見上げ、言った。
「ねーたん……ことしは、うきだうま、つくってないお。こた、ことしは、うきだうま、じぶんれ、つくいたかった……れす」
まだ幼くて舌ったらずなコタローの言葉は聞き取りにくい。だが、その会話に慣れている樹たちには何の問題もなく意志の疎通ができる。
「え? 雪だるま? はー、こたの助らしいっちゃらしいなぁ……あ、だったら今からスキー場とか行けばいいんじゃね?
これはナイスアイディアだとばかりに、大きな荷物の向こうで胸を張る衛だが、ジーナはその衛の尻をさらに足の裏で蹴っ飛ばした。
「そういう風情も情緒もデリカシーもないこと言いやがるなです、このアホガッパ!!」
その拍子に買い物袋の中身がこぼれてしまう。苦笑しながら、樹は落ちたオレンジを拾い、言った。
「……雪遊びか、そう言えば今年はしなかったな。せいぜいかまくらでどんちゃん騒ぎをしたり……あとはバレンタイ」
そのバレンタインの記憶は恥ずかしいので封印。
「? どうしました、樹様?」
顔を覗き込むジーナに、首を激しく横に振って答える樹。
「い、いや、何でもない。けどコタロー、もう今は五月……雪はさすがにないぞ。次の冬まで我慢、だな」
そう言ってぽん、とコタローの頭を撫でる樹。コタローも理屈は分かっているのか、ウィンドウの中の雪だるまのおもちゃを、寂しそうに眺めた。
「……うー……わかったお……」
そこに、衛が何かを思い出したように、ジーナに聞いた。
「あ、そういや、こないだ会った子って、雪……いや冬の精霊だって言ってなかったか?」
その言葉にジーナもまた声を上げる。
「ああ、そういえば……人助けをしなければいけないでスノー、とか言ってましたわね……エロガッパのせいで道に迷ったのを助けてもらったのでしたわ。
助けられたのはこっちなのに、スタンプが押されたでスノー、ありがとうでスノー、って喜んでましたっけ」
「え、何でオレのせいなの、じなぽん」
「うっさいでやがります。マヌケガッパのせいに決まってやがるのです」
放っておくとジーナが衛を際限なく罵倒しまくるいつもの流れだ。樹はその二人に口を挟む。
「まあまあ、ジーナも魔鎧もその辺にしておけ。つまりなんだ、この辺にまだ冬の精霊というのがいるかもしれない、ということか」
その一言に、ジーナは相槌を打つ。
「そうですわ、あの子に頼めば雪だるまが作れるくらいの雪なら降らせてもらえるかもしれませんわよ?」
その言葉を聞いて、樹はひょい、とコタローを抱きかかえた。
「よし、じゃあ今日はその冬の精霊を探してみよう。でも、見つからなかったら我慢するんだぞ、コタロー?」
その樹に、コタローも笑顔で応えるのだった。
「うー! こた、がんらって、うきのしぇーれーしゃん、さがす! さがす!」
「ところで、どうして誰もオレの名前を呼んでくれないんだ……?」
という、衛の呟きを残して、樹たちは冬の精霊、ウィンター・ウィンターを探し始めたのだった。
「おい、つかこの荷物持ってくれよ! うわ、すっげ歩きづれぇ……!!」
☆
「はぁ……人助けで遊園地……っすか!?」
と、ブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)は武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)に聞き返した。
「その通りだ正義マスク!! 私の代わりに、この冬の精霊と共に本日オープンした遊園地のナイトパレードの手伝いに行ってもらいたい!!」
ヒーローの義務として高い所から登場したケンリュウガー、牙竜はブレイズにそう告げた。
「どうしてナイトパレードが人助け……つーか、さすがにちょっと話しにくいっす先輩!!」
ブレイズは声を上げる。時間はまだ12時過ぎ、特に敵がいるわけでもない状況では高い所に魔鎧龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)を纏った姿で現れた牙竜とはさすがに会話しにくい。
「ふむ……それもそうだな……とぅっ!!」
牙竜はジャンプして、ブレイズの前に着地する。灯の装着を解除すると、そこにもう一人のパートナー、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が現れた。
「あ、見つけた!! 牙竜とナイトパレードに行くのは私!! おねーさまったら抜け駆けする気? あ、ほんのり薄化粧までしてる、ずっるーい!!」
灯は灯で一歩も譲るつもりはないようだ。
「べ、別に他意はありません! 私が一緒に行けば非常時にも魔鎧として対応できますからね。ヒーローとして引き受けた以上、半端はできませんから!! やましい気持ちは全くこれっぽっちも多少なりとも金輪際ありません!!」
しかし、そこにさらに食い下がるリリィ。
「それなら、最近の牙竜は素顔のヒーローとして活躍する方が多いんだから、魔鎧である必要はないよね!」
むぎぎぎと、こう着状態を続ける二人を尻目に、牙竜は言った。
「とまあ、こういうワケだ!! このままでは私も遊園地に行くことができない……どうかこの不詳の先輩ヒーローを助けると思って、ナイトパレードの手伝いをしてきてはもらえないだろうか!?」
その牙竜の言葉に、ブレイズは深く頷いた。
「わ、分かったすよ!! 先輩の頼みとあれば喜んで!! ただ単に先輩がモッテモテのリア充野郎に見えるけどそういうことじゃないんっすね!!」
そんなブレイズに、牙竜は鳳凰の拳による教育的指導を入れる!!
「リア充に見えるだと、この未熟者が!! ヒーローもリア充も爆発するもの、つまりヒーローはリア充でなければならんのだ!! だからブレイズよ、リア充になるのだ、そして私の手助けをすることでウィンターの人助けも進行するのだ、まさに一石三鳥!!」
両拳がボディにめりこんだブレイズは、うめきつつも了承した。
「りょ、了解っす……ところでリア充ってどういう意味っすか? オレ最近覚えたとこなんっすけど」
「いや、私も良く知らんな」
ともあれ、牙竜の手からブレイズに遊園地のペアチケットが手渡され、ブレイズとウィンターは共に遊園地に向かうことになった。
「あ、チケット渡しちゃったんですか……」
「う……牙竜が行かないんじゃ争う意味ないよね……」
それを見た灯とリリィは残念そうにため息をついた。
灯は、ブレイズと並んだウィンターにアドバイスをする。
「いいですか、細かい内容は遊園地についたらこの指令メモを見て下さい。
この人助けは遊園地の宣伝も目的なので、目一杯オシャレして下さい。あと、楽しむ心も大事ですよ、肩に力を入れずに、楽しんできてくださいね!」
リリィもまた、ブレイズに話しかけた。
「ちゃんウィンターちゃんをエスコートしてあげて下さいね!!」
「……エスコート……って……どうやるんっすか?」
「いいから、不器用でも下手でもいいから根性で楽しんで、ウィンターちゃんを楽しませるのよ!!
やっぱり男の人からリードしてあげなくっちゃ!!」
それを聞いたブレイズの瞳に炎が宿った。根が単純なブレイズは焚きつけるとすぐに燃え上がるのだ。
「そ、そうか分かったぜ!! 今日は一日楽しませてやるぜウィンター!!
オレにまかせろおおおぉぉぉっ!!!」
と言いつつ、ウィンターをお姫様だっこで抱えたブレイズは、牙竜の指令メモを受け取って地平線の彼方へと去って行った。
その姿を見送った一行。
灯は、口を開いた。
「……ところで牙竜……? 以前の責任をとってブレイズさんをリア充にするのはいいんですけど……私たちのチケットも用意してるんですよね?」
だが、牙竜は目を合わさずに、言った。
「え……? いやその……予算の問題で、ですね……」
その牙竜の肩に、リリィもぽんと手を乗せた。
「……へぇ……、私たちの分はナシってこと……? ちょっとあっちで色々と話をしようか、牙竜? 私と灯おねーさまのどちらがヒーローのパートナーに相応しいかも含めて、ね?」
微笑む二人に両腕を取られた牙竜は、そのまま空を見上げ、呟いた。
「ふ……むしろこの状況を助けて欲しい……。あ、二人とも遊園地に行ったんだっけ……。……私の分まで、楽しんでこいよ……」
爆発リア充ヒーロー、ケンリュウガーの明日はどっちだ。
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