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リアクション
第2章
「あ、じゃあパン買ってきてよ、パン」
と、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は言った。ウィンターが困っている人はいないかと蒼空学園を訪れた時のことだ。
蒼空学園新生徒会の副会長として多忙な日々を送る美羽。
たまたまその日も忙しく、お昼を食べる暇もないのでウィンターに簡単に食べられるような昼食を買ってきてほしいと頼んだのである。
「分かったでスノー、パン買って来るでスノー」
二つ返事で了承するウィンター。
パンを買って来るくらいなら大した用事ではない。それくらいでスタンプになるならお安い御用だ、と。
そこで美羽は、小銭を渡しながら笑顔で言った。
「じゃ、ピロシキとパニーニとパオをお願いね」
と。
「スノー? パシリと言えば焼きそばパンでスノー?」
ウィンターは言った。
「あ、焼きそばパンは色々あって入手困難すぎるからいいわ。仕事も忙しいから惣菜パン的に食べられるのがいいのよねー」
さらりと言う美羽に対し、ウィンターは疑問を口にした。
「ス、スノー? 惣菜パンなら普通に購買にも売ってるでスノー? この辺で本格的ピロシキとかパニーニはどこに売ってるでスノー?」
そのウィンターに、あくまでも笑顔の美羽は言った。
「うん、探して買ってきて」
と。
怪力の籠手をチラつかせながら。
「……つまりは体のいい脅しでスノー。由緒正しいパシリの姿でスノー」
それ以上抗議することもできずに、ウィンターは美羽のパートナー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と共に街に出て行った。
それが長い旅の始まりであるとも知らずに。
「まあ、普段サボってるなら、少しはハードル高い試練にしてもいいでしょ」
ウィンターとコハクが出て行った後の生徒会室で美羽は呟いた。
「……副会長、コレ!!」
その美羽に、他の生徒会のメンバーが声をかける。
「どうしたの?」
「……変なメールが……!!」
それは一通の不審なメールだった。
内容は、『今日新しくオープンした遊園地を爆発させる』という爆破予告。
「差出人は……『ブラック・ハート団』? ……ありえないわ、この組織は1ヶ月前に壊滅し、首謀者も逮捕されたはず……!!」
美羽にも憶えがあるその名前。
ブラック・ハート団は魔法の手錠を使ってツァンダの街で爆発騒ぎを起こした組織。美羽自身もその騒動に加わり、自ら本拠地に乗り込んで組織を壊滅させたのだ。
「……残党が残っていた、ということでスノー?」
その問いかけに対し、深刻な表情で頷く美羽。
「ありえるわね。いずれにせよ放置はできないわ……ってパン買いに行ったんじゃないの?」
そこにいたのは先ほどコハクと共にパンを買いに行った筈のウィンターだった。
だが、そのウィンターはまた別の分身だったらしい。
そこに現れたのは天城 一輝(あまぎ・いっき)とパートナーのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)。
「おいおい、事件の匂いがするとか言って勝手に走っていくなよ……どうしたんだ?」
どうやら、その分身は一輝に助けを求めたウィンターの分身だったようだ。生徒会室に入ってきた一輝に対し、瞳を輝かせて言った。
「これでスノー!! この事件を阻止して人助けスタンプにするでスノー!!」
「……あなたは……?」
問いかける美羽に、一輝は簡単に事情を説明した。
「まあ……要するにそこの精霊に人助けの手伝いを頼まれたんだが……何がどうしたって?」
ウィンターが指差すメールを眺めながら、一輝は思った。
ああ、これはまたやっかいな事件に巻き込まれたんだな、と。
☆
アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)はウィンターの分身と共にランチを楽しんでいた。
オープンカフェから街の様子を眺めて、呟く。
「ふー、相変わらずツァンダは賑やかね、ウィンターちゃんはもういいの?」
おなかいっぱいのウィンターを見て、アルメリアは微笑んだ。
「大丈夫でスノー、それより何か人助けをしないといけないでスノー」
焦るウィンターだが、アルメリアとしては特に人助けに心あたりもなく、のほほんとウィンターの様子を愛でている。
何しろ、もとより可愛い子には目がないアルメリア。少女の姿のウィンターを眺めているだけでも眼福なのだ。
「アルメリア?」
ウィンターはアルメリアの顔を覗き込んだ。
「うん……蓑帽子というのもなかなか新鮮でいいわね……」
そもそも今日はぶらりと買い物に来ただけのアルメリア。
特に目的意識もないので、今ひとつ行動力に欠けるのだった。
「スノー! ゆっくりしている場合ではないでスノー!!」
じたばたと暴れるウィンターもまたかわいいと、目を細めるアルメリアである。
そのアルメリアに声をかけたのが天城 一輝の一行であった。コレットともう一人のパートナー、ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)を連れている。
「えーと、ウィンターの分身を連れてるってことは、手伝いを頼まれたクチだよな? 全身黒タイツの連中を見なかったか?」
過去においてブラック・ハート団の連中は全身黒タイツに身を包んでいた。
今回もそうだとは限らないが可能性はあるし、他に手がかりがないのもまた事実。
「――ううん? そんな変な人を見たら気付くと思うけど、ワタシは見てないわ。その黒タイツがどうしたの?」
アルメリアの問いにローザが説明した。
「どうやら今日オープンの遊園地に爆弾が仕掛けられたらしいのですわ。
その犯行声明が蒼空学園に送られたのですの。それで、怪しい人物を目撃した人がいないか聞きこみをしながら遊園地に向かっているというわけですわ。
何しろ、そのスットコドッコイ共ときたら全身黒タイツというキテレツないでたちということですから――」
その言葉を継いだアルメリア。
「――そうね、大分目立つはずよね。じゃあ、ワタシも協力するわ。遊園地の方に向かう途中で怪しい人を見かけたら連絡するね」
とりあえず連絡先を交換した一輝とアルメリアだった。
「では、こうしていても埒があきませんし、私達は一足お先に失礼いたしますわ」
と、ローザは小型飛空艇アルバトロスで空から捜査をすることにした。
一輝とコレットは、あえて街に馴染むために普段は着ないような『今どきの若者ファッション』に身を包んでいる。
ところで、一輝は17歳くらいの背格好でコレットは7歳くらい。
気慣れない格好をしているせいで、一人ずつの格好には問題ないが、二人並んで歩くとどうも不似合いな印象を与える。
その二人を眺めてアルメリアは言った。
「そのまま歩いてると……お巡りさんに職質されない……?」
一輝は答える。
「いや、兄弟ってことにしとくから……大丈夫だろ?」
それでも、一抹の不安を隠しきれない一輝だった。
一輝達と別れたアルメリアは、ウィンターの分身と共に街をぶらぶらしながら遊園地を目指した。
「すぐに遊園地に行かないのでスノー?」
ウィンターに、微笑みを返すアルメリア。
「んー? まあいいじゃない。怪しい人物の心あたりがないってことは、見つかるかどうかは運次第ってことよね♪」
あくまでも緊張感のないアルメリアに、突然一人の女性が話し掛けてきた。
「し、失礼するでスノー!! これこれこういう翼のモチーフの首飾りを見なかったでスノー!?」
その女性はウィンター・ウィンターではなく、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
ご多分に漏れずウィンターに手伝いを求められたルカルカは、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と共に人助けができそうな事件を求めて街に出たのであるが。
「いつの間にか命の次くらいに大事な首飾りがなくなっていたのでスノー!!
ダリルと公園に入ったときには確かにあったと思ったのでスノー!!
あれは大事な人からもらった大切な大切な首飾りなのでスノー!!
シルバーの翼の飾りがついてる首飾りでスノー!!
彼はマメな方じゃないのに、きっと必死にアクセサリーショップで選んでくれたはずなのでスノーーー!!」
語尾が『スノー』なのは激しく混乱しているからである。
一気にまくしたてるルカルカに、アルメリアは戸惑いの表情を見せた。
「お、落ち着いて……公園に入った時にはあったのなら、公園で落としたとかじゃないの……?」
その言葉を受けたルカルカは、激しく首を振る。
「探したのでスノー!!
必死に探したのでスノー!!
見つからないのでスノーーーっ!!!
こんな時に限ってダリル連絡取れないのでスノーーーっっっ!!!」
そのまま激しくアルメリアの肩を掴んで縦方向に揺さぶるルカルカ。
「お、おおおちちちつつついいいててて……!! わ、わ、わ、ワタシも一緒一緒一緒に探すすすかららら」
不思議なラップ歌詞のように協力を申し出たアルメリアの手を取って、ルカルカは走り出した。
「あ、ありがとうでスノー!! 公園はこっちでスノーーーっ!!!」
遊園地はどうなったでスノー、というウィンターの呟きを残して。
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