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リアクション
第10章
その頃、遊園地では最後の騒動が起きていた。
「さぁ、来ましたよ遊園地……!!」
八神 誠一は言った。ウィンターの言葉に従って、八神家の冷蔵庫から這い出した混沌としてモンスター『冷蔵庫の残り物デビル』を遊園地まで誘導してきたのである。
『冷蔵庫の残り物デビル』はますます大きくなり、今や10m級に成長していた。
「まぁー、大きなモンスターですねぇ」
奈落人、笹野 桜は笹野 朔夜の体を借りて楽しそうに呟くが朔夜は内心突っ込んだ。
『いやいや、アトラクションじゃないんですから』
「あ、そうですよねぇ私ったら。でも、冬ちゃんにも見せてあげたかったですねぇ」
『冬月さんのことだから……あ、アレじゃないですか!?』
見ると、その笹野 冬月は冷蔵庫の残り物デビルを追って遊園地まで来ていた。
「おう……何だ、偶然だな」
冬月は桜の元へとやってくる。
いよいよこのモンスターを始末するらしいと聞いて、桜はもう見物ムード満点だった。
「はいはい、集めてきましたよ〜ってどうするんですかこれ……」
と、ウィンターの分身からの連絡を受けてテルミ・ウィンストンが氷づけの爆弾を集めてきた。
そこには当然、天城 一輝の姿もある。
「確かに完全に氷づけにしてあるから時限装置も耐震装置も作動しないが……まだ危険なことに変わりはないぞ」
そこは遊園地の駐車場。もう夜中で、車はほとんどない。
テルミと一輝と共に爆弾を集めてきたウィンターは言った。
「危険でもいいのでスノー!! モンスターごと全部始末してやるでスノー!!!」
それを聞いたテルミは、嫌な予感がして聞き返した。
「あの……ウィンターさん……まさか……?」
当然のように、ウィンターは力強く頷いた。
「そのまさかでスノー!! 全部モンスターに飲み込ませてキレイさっぱり始末するでスノー!!!」
「やっぱりーーー!?」
テルミは早々に逃げ出したい衝動に駆られたが、さすがに教導団の一員としてはそうもいかない。
覚悟を決めて、準備をした。
「じゃあ、いくでスノー!!」
「とほほー……い」
やや情けない声をテルミは準備を完了する。2体の戦闘用イコプラを操って、たくさんの爆弾が入った包みを『冷蔵庫の残り物デビル』に突撃させるのだ。
「でもこれ……内部に吸収されたら、誤爆して危ないんじゃ?」
と、問いかけるテルミだが、ウィンターもいつになく真剣な表情で、答えた。
「大丈夫でスノー……みんなは、遊園地は……私とみんなで…守るでスノー」
「……分かりました。信じますよ」
その時、遊園地の入り口から『冷蔵庫の残り物デビル』がやって来た。
「頼んだでスノー!!」
テルミと一緒にいたウィンターの分身は、いや、その場にいたウィンターの分身は、みんな一斉に誠一一緒にいたウィンターと合体して、一人になった。
「行きますよ、ウィンターさん!!」
テルミがイコプラを操縦して、爆弾の包みを冷蔵庫の残り物デビルに突進させる。
知性のないモンスターである『冷蔵庫の残り物デビル』は、その爆弾の入った包みを、イコプラごと飲み込んでしまった。
「今ですよ、ウィンターさん!!」
テルミと誠一の叫びに呼応して、ウィンターは全ての力を解放した!!
「一気に決めるでスノー!!!」
そう、冬の精霊ウィンター・ウィンターには戦闘能力は皆無。
性格は怠け者。子供っぽくて我儘。嫌いなものは努力。
だがしかし、雪を降らせることと、雪を降らせることと、雪を降らせることにかけては右に出るものはいないのだ!!
「私だって、やる時はやるのでスノーーーっ!!!」
それは、雪が降った、というより雪が空から落ちてきた、言ったほうが近かった。
5月だというのに、雲から雪が高速でぼたぼたと落ちてくる。異常な早さだった。
その雪はあっという間に周囲に積もり、まるで意志を持っているかのように『冷蔵庫の残り物デビル』を包みこんだ。
「――圧縮!!」
ウィンターが叫ぶと、冷蔵庫の残り物デビルを包み込んだ雪は、半液体状のモンスターを限界まで圧縮し、ひとつの大きな雪だるまにしてしまった。
「――頼むでスノー!!!」
そこに現れたのが、クロセル・ラインツァートとルイ・フリード、ノール・ガジェット、そして、鬼崎 朔だった。
全員が雪だるマーを装着して、一斉に構える。
クロセルが叫んだ。
「さあ、行きますよ皆さん!! いまこそ雪だるま王国の意地を見せ時です!!」
それに合わせて、雪だるマーのブーストを発動させるノール。
「了解であります!!」
朔もまた、タイミングを合わせてブーストを発動させた。
「さあ、氷結のブースト!!!」
そして、最後にルイが叫んだ。
「雪だるまの扱いにかけては、誰にも負けませんよおおおぉぉぉっ!!!」
四人分の氷結のブーストが集中し、ウィンターが圧縮した『冷蔵庫の残り物デビルだるま』が地面から伸びた氷柱に押し上げられて、空高く伸びて行く。
「まだまだあああぁぁぁっ!!!」
四人が気合を入れると、そのままさらに高く、高く氷柱は伸びて行って、やがてウィンターが呼んだ雪雲の中へと消えた。
「今でスノー!!!」
ウィンターの合図で、デビルだるまの中に飲み込まれた爆弾が爆発する。
その爆発の勢いでデビルだるまを構成していた圧縮された雪が大きく飛散し、周囲に雪となって、ふわふわと降り注いだ。
「――まぁ……キレイ……」
笹野 桜は降り注ぐ雪を見て、歓声をあげた。
その様子を見て、冬月は尋ねた。
「なぁ……今日はその――楽しかったか?」
冬月の問いに、桜は笑顔で答えた。
「ええ……とても。また来たいですねっ!!」
と。
「5月に降る雪ですか……奇妙ですが、キレイなものですね」
と、クロス・クロノスは呟いた。
結局の所、ホテルを占拠していた『ブラック・クルセイダー』は騎沙良 詩穂や橘 美咲、そして草薙 武尊たちによって制圧され、全員逮捕となった。
ホテルの厨房を借りることもできなくなってしまった。事件が収束したので、ようやく帰れることになった孤児院の子供たちを送っていくことになってしまったが、子供たちは予定していた夕食をまだ取っていないのだ。
そこに、カメリアのお供のカガミを尋ねてやって来たミシェル・シェーンバーグと矢野 佑一の二人が持っていたたくさんの五目いなり寿司が到着する。
「あー、やっとカガミさん達がいたよ……って色々と大変だったみたいだね?」
ミシェルを見て、カガミはあいさつをする。
「やあミシェルさん、どうしたんですか……はぁはぁ、わざわざ五目いなり寿司を? それはそれは、ありがとうございます。
……ものは相談なんですが……」
「おいしいー、お姉ちゃん、ありがとー!!」
カガミの提案で、ミシェルの五目いなり寿司が子供たちに配られることになった。
カメリアとカガミの家族の分ということで、けっこう多くの量が用意されていたいなり寿司だが、子供たちに一個ずつ配ると、全部なくなってしまった。
「おいしい? ありがとっ、でもボク男の子だからねー?」
子供の頭を撫でるミシェルも、自分の作ったお寿司がおいしく食べられているので、やはり悪い気はしない。
ところで、その様子を見守りながら、狐の姿になってクロスにもふもふされているのがカガミである。
「ああ……やっぱりステキな毛並み……もふもふ……もふもふ……」
どうやら毛の長い動物の触り心地に弱いらしいクロス、カガミに頼んで狐姿でもふもふさせてもらっているらしい。
「すみません……せっかく作ってしまったのに……」
と、カガミはミシェルと佑一に謝るが、ミシェルは笑顔で返した。
「ううん、ボクが作ったお寿司、喜んでもらえるならそれが一番だよ。カガミさん達には、また作ってあげるからね」
そのミシェルに、フトリがポツリと呟いた。
「……私の分はないデブ?」
「あ……フトリさんのこと、忘れてた!!」
それに笑い出す一同。
クロスは言った。
「……では、私はクロセルさん達と手分けして子供たちを送って行きますので……みなさん、お疲れ様でした……おやすみなさい」
心ゆくまでカガミの毛並みを堪能したクロスは、カメリア一向とミシェル達に手を振りながら、孤児院の子供たちを送って行った。
「さて……これからどうしよっか?」
と佑一は言った。
ミシェルは答える。
「あ、もうそろそろ12時じゃない、そろそろ帰ろうよ。佑一さんなんて放っておくと夜更かしばっかりするんだから!!」
その様子に、カメリアも笑った。
「そうか、ならば気を付けて返るが良いぞ。儂もそろそろ帰る……お、あれはコハクと美羽ではないか、帰る前にあいつらでもからかって行くとするか、では、またな!!!」
手を振りながら、見かけた小鳥遊 美羽とコハク・ソーロッドの方へと走っていくカメリア達を、佑一とミシェルは笑顔で見送るのだった。
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