葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

地球に帰らせていただきますっ! ~3~

リアクション公開中!

地球に帰らせていただきますっ! ~3~
地球に帰らせていただきますっ! ~3~ 地球に帰らせていただきますっ! ~3~ 地球に帰らせていただきますっ! ~3~

リアクション

 
 
 
 ■ 団長に請う許し ■
 
 
 
 地球に行くつもりだとレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)が言うと、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)は怪訝そうな表情になった。
「地球って、もしやレリウスも里帰り?」
 レリウスは今まで故郷のことを話したことがない。一体何処に帰るのだろうかとハイラルは尋ねる。
「里帰り……というか、墓参りに行こうと思うんです。日本出身の人に話を聞いたんですが、この時期はお盆といって死者が戻ってくると言われているんだそうです。不思議な習慣があるものですね」
「墓参り?」
 レリウスは短くはいと頷き、ハイラルに頼んだ。
「……ハイラル、一緒に来てもらえますか? 団長の墓に行こうと思います。情けないことを言いますが、1人では……耐えられませんので」
「そうか、団長の墓参りか……」
 それが誰のことを指しているのか、ハイラルにはすぐ分かった。レリウスが名付け親であり兄とも師とも慕っていた、傭兵団の団長のことだ。大切な人の形をとるという剣の花嫁である自分は、その団長と瓜二つなのだから。
 けれどその思い出は掛け替えのないものであると同時にレリウスにとって苦いものでもあった。
 パラミタに来たばかりの頃は、地球のことを思い出すことすら避けていたほどに。
 それが、こうして墓参りに行くと言い出せた。それはレリウスにとって進歩なのだろう。
 だから力づけるようにレリウスの肩をぽんと叩き、ハイラルは言った。
「当然一緒に行くぜ。俺はレリウスのパートナーだからな」
 
 
 団長の墓に行くまでの間、レリウスは寡黙だった。
 色々思うところがあるのだろうと、ハイラルもその物思いを邪魔することはしなかった。
 
 
 漸く到着した墓前に花を捧げると、帽子を胸元に当てじっと目を閉じた。
 いつも考えてしまう。
 団長は自分を恨んでいないか、失望していないかと。
 団長が戦死することになった戦い……それが終わったら一度傭兵団から離れるようにとレリウスは団長から言われていた。本当に戦うことしかできなくなる前に、別の生き方も考えるべきだと。
 その戦いの中、目の前で団長を喪ったレリウスは生きる気力を無くし、団長と瓜二つのハイラルと出会うことでかろうじて気力を取り戻すことができた。そしてハイラルに薦められてシャンバラ教導団に入ったのだ。
 今は自身の無力を悔い、強くなるためにレリウスは生きている。
(……ある意味傭兵団からは離れましたが、戦うことを止めたら強くなれない。実際、未だに生身では銃を持つことさえできないんです。このまま戦うことを止めたら、俺はずっと団長に恨まれていないかと怯えて生きることになる……)
 だから、とレリウスは団長に許しを請うた。
 戦い続けること、団長の命令に背くことを。
「俺は強くなりたい。誰かを守れるほどに。次は見殺しになどしない。必ず守ってみせる。だから、戦うことを……俺を許して欲しいんです」
 
 そうしてレリウスが頭を垂れている背後で、ハイラルもまた団長へ語りかける。
(団長、あんたがレリウスを恨んでないことは分かるが、もうしばらく待ってやって欲しい。あんたの死をちゃんと受け入れて、本当の意味でレリウスがちゃんと生きていけるように俺が助けるから。それまであいつのこと、見守ってやってくれ)
 レリウスに聞かせられないその言葉を胸の内に秘め、ハイラルは団長の墓を見つめ続けるのだった。