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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 魔法少女ヤエ 第15話 『故郷にて……』 ■ 
 
 
 
 東京の片隅にある小さな寺。
 そこにある墓地に永倉 八重(ながくら・やえ)の父は眠っていた。
「父様、お久しぶりです」
 八重は墓の掃除をし、花を飾り、供え物を置いた。
 点火した線香を香炉に立てると、煙がわずかな風を受けてたなびく。
 お盆らしくなった墓に……その下に眠る父に八重は話しかけた。
「私、ヤツに会いました。父様の仇、黒六道三……いえ、三道六黒に」
 パラミタで刃を交えた時のことを話す八重の言葉は苦かった。それは八重にとって、あまりにも意に染まぬ結果となってしまったからだ。
「悔しいです……一矢報いることすら出来なかった。片身の紅嵐も、私の腕が未熟なせいでこんな姿に……」
 八重は刀を包んでいる袋を紐解き、日本刀『紅嵐』を鞘から抜いた。
 深紅の大太刀。しかしそれは無惨にも半ばから折れていた。
 己の力の及ばなさ、形見の刀をこんな姿にしてしまった情けなさに、八重は肩をふるわせる。
 そこに、近づいてくる足音がした。
 急ぎ涙をぬぐって見上げれば、温厚な住職の顔があった。
「墓参りが終わったら寺に寄ってくれるかの。預かりものを渡したいのじゃ」
「預かりもの……?」
 八重には心当たりはなかったが、何かと尋ねる隙を与えず、住職はそれではと来た道を戻って行ってしまった。
 
 墓参りを終えて寺に行くと、居間へと通された。
「預かりものとは何でしょうか?」
 問う八重の前に住職は1m強の細長い包みを置く。
「お父上から預かったものじゃ。いつか八重が大きな壁にぶつかった時にこの包みを渡して欲しい、と。お父上は自分の死期を悟っていたのかも知れぬな。死してなお、お主を導きたいと思ったのじゃろう」
 八重は包みを手に取り、開いてみた。
 現れたのは紅嵐とそっくなに日本刀が一振りと手紙が一通。
 開いてみた手紙には、懐かしい父の筆跡で八重への言葉が綴られていた。
 この日本刀の名は『紅桜』。八重の為に希代の刀匠に打たせたものだということ。
 そして手紙には、三道六黒についても書かれていた。
 たしかに三道六黒は悪の道へと堕ちた。が、立会いにて破れたのならば、ヤツを恨んではならぬと。立会いで死ぬは覚悟の上、勝負を汚すようにことはしてくれるなと。
 手紙は最後に、恨みは心と剣を曇らせる。常に澄んだ心と剣であれ――と結ばれていた。
 
 
 帰り際に挨拶した住職は、八重の表情を見て目を細める。
「どうやら壁を乗り越えたようじゃのう」
 そんな住職に頭を下げると、父の最期の言葉を胸に八重はパラミタへと発っていくのだった。