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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 小暮秀幸の里帰り ■
 
 
 
 新入生の帰省に同行してみたいとマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が言い出したとき、早見 涼子(はやみ・りょうこ)は嫌な予感がした。
「その新入生というのはどなたなのでしょう?」
「金元なななだ」
 マーゼンの返答に、ああやはりと涼子は嫌な予感が的中したことを知った。なななのことを面白い観察対象だと思っているマーゼンがその実家に興味を持つのは容易に推測できる。
 けれど涼子はそれに賛同することは出来なかった。
(金元ななな……『自分はM76星雲から来た宇宙刑事』等、数々の常識外れの言動。しかしそれにも関わらず、上層部に特に問題視する様子が無いのは尋常ではない。上層部が何らかの意図の下にそうしているとしたら、彼女の身辺を不用意に詮索するのは止めた方が賢明と言えるでしょう……)
 かといって、まだ検証の段階にあるその危惧をマーゼンに告げるのも躊躇われた。
 代わりに別の方向から涼子は進言する。
「いくら軍人でも、強化中のプライベートな時間にまで干渉すべきではないですわ」
「それも一理あるか……」
 それでもなななの実家への興味を打ち捨てられずにいるマーゼンを言葉巧みに誘導し、涼子はその矛先を小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)へと向けさせた。同じくシャンバラ教導団への新入生ではあるけれど、なななよりはまだしも無難だろうとの判断だ。
「ふむ……近頃の日本人の若者にしては珍しく、言葉遣いもきちんとしているし、上官や先輩に対しては礼儀正しく、国軍の規律を遵守しようとする意識も高い。彼の性格から考えて、さぞかし立派な、そしておそらくは厳格な家庭で育ったのだろうな」
 なななに比べれば面白みには欠けるが、涼子が渋い顔をするなななに固執するよりも、秀幸の帰省について行った方が物事も穏便にいくだろう。
 そう折り合いをつけて、マーゼンは秀幸に帰省する際同行させて欲しいと申し出たのだった。
 
 
 秀幸の実家は東京の下町にあった。
 両親に会うということでマーゼンは軍人らしく隙のない身だしなみを整えた上で、礼法に則って敬意を表し、丁重に挨拶の言葉を述べた。
「ご子息は入学後間もないながら、抜群の成績を修め、同僚からの人望も厚く、すでに少尉に任官して、我々上級生や教官たちも一目置く存在となっております。いずれは、シャンバラ国軍を背負って立つ、立派な軍人となるに相違ございません」
「はあ、それはどうも……」
 人の良さそうな秀幸の父親は、面食らったように瞬きを繰り返した。
「秀ちゃん、がんばってるのねぇ。軍人さんになるの、夢だったものね」
 割烹着を着たふくよかな母親は嬉しそうに目を細める。
「これも小暮家ご両親の薫陶宜しきを得たが故で……ありましょう……?」
 何だか違う。
(一体、どーなってるんだ?)
 予想外の普通の両親の出現に、小暮家の躾と教育を賞賛しようとしていたマーゼンの語尾は弱くなっていった。
 
 
 どうぞと通された秀幸の部屋は畳敷きだった。
 一方は窓になっており、すだれ越しに生ぬるい夏の風が入ってきて、時折ちりんと陶器の風鈴を鳴らす。
 部屋の残りの三方はドアを残してすべてが本で埋まっており、本の重みで畳が沈んでいる。
「この本はご両親が買い与えたものなのですか?」
 涼子に聞かれ、秀幸はそうですと頷いた。
「自分は幼い頃より本が好きでして、おもちゃよりも本を買って欲しいと両親にせがんだそうです」
 両親は特に教育熱心というわけでもないが、息子が本の方が良いというならと、おもちゃの代わりに本を買い与えてくれたのだと言う。
(では、彼の性格は一体誰の影響を受けて、あるいはどのようにして形作られたのだろうか。う〜む、もしかすると彼は、ある意味で金元ななな以上の謎人物かもしれん)
 両親でなければ、誰か別の人間が彼の人格形成に多大な影響を及ぼしているのだろうか。
 それとなくマーゼンが聞き出そうと試みると、秀幸は幾分照れた様子で小学校時代の学級写真を見せてくれた。
「算数を頑張ると先生が褒めてくれたんです。数字に興味を持ったのはそれが恐らくきっかけだと思います」
 前列真ん中に座っている女性は、優しそうで、けれど凛とした雰囲気があった。
 写真で見る限りでもかなり美人の部類に入る。
(そうか、彼の形成には女教師への憧れが……)
 納得できるようなできないような……複雑な思いでマーゼンは写真の先生をじっくりと眺めるのだった。