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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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「おいそこの店員さんよ、注文頼むぜ?」
「ボクに?」
 ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)はセルシウスから買った(ノンアルコールの)蜂蜜酒を飲んでいたが、ちょっと甘いなと思い、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)にツマミを頼んでいた。外見は二十歳以上のヴェルデだが、セルシウスの勘違いによりノンアルコール蜂蜜酒を渡されていたが、気分よく酔っている(と感じる)本人にとってはどちらでも良い事なのだろう。
「ああ、めでたいときにゃあ酒がよう回るもんだな。俺もいつもより多く飲んじまう」
 赤いモヒカンのヴェルデを一瞥したアゾートが「ふぅん」と呟き、メニュー表を見せる。
「何かオススメないのか?」
「ボク、お酒のツマミなんてわからないもん」
「おいおい。店員がわからねぇとか言ってたら駄目だろう?」
 波羅蜜多ツナギを着た出で立ちこそアレなヴェルデだが、中身や性格はまともで常識人である。
「この蜂蜜酒ってのは、カロリーが高いんだろ? なら、ローカロリーなツマミはどれだ?」
「うーん……あ、このケーキ美味しいよ!」
「……ツマミでも無けりゃ、ローカロリーでもないな」
「でもでも、前にテレビでお酒にはチョコレートが合うって言ってるの見たよ」
 アゾートが見たお酒というのはウイスキーの事である。余談であるが、ウイスキーにはビターチョコやモナカもとても合う。
「ローカロリーかどうかは分かりませんが……」
 困った顔のアゾートを見かねた店員のエリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)がヴェルデの元にやって来る。
「こちらのワカメとキュウリの酢の物、ほうれん草のおひたし、冷奴、ローストビーフ、つくね、レバー、タンなどの焼き鳥全般(手羽先除く)等が良さそうです」
 エリセルが示したメニューを見るヴェルデ。
「焼き鳥か……」
「はい。焼き鳥はさっぱり塩焼きが良さそうです。他にも白身魚のお刺身……あ、タコやイカはよろしくないかと」
「エリセル! ありがとう!」
 アゾートに礼を言われたエリセルが照れる。
「そ、そんな大したことは……」
 先祖代々蜘蛛神と契約し、子を産んだ為に蜘蛛神の血が濃いエリセルが8本の足(手?)をモジモジさせる。
「何、モジモジしてるのよ? 恋仇がいないんだし、思う存分いちゃつけるチャンスじゃない?」
「(ト、トカレヴァ!?)」
「……今、声がしなかったか?」
「い、いいえ!」
 エリセルの傍には【光学ステルス】を使って隠れるトカレヴァ・ピストレット(とかれう゛ぁ・ぴすとれっと)がいた。
「ま、店員だからそんな暇なさそうだけど……」
「……」
 トカレヴァは、コソコソしているが、別に恥ずかしがり屋ではない。彼女はアゾートの手伝いをするエリセルの護衛として影から見守り続けているだけである。すなわち、エリセルがやりすぎた行動をした場合や危ない目に遭いそうな時、止めに行くためである。
「(このヴェルデって人。見た目はヒャッハーなアレだけど、そんなに危険ぽくないのよねー)」
「まぁ、いいぜ。それじゃ、この焼き鳥の塩と、ほうれん草のおひたしと、あと宴会芸を頼むぜ」
「はい……え? 宴会芸ですか?」
「ボク、出来るよ?」
「何!? 本当か!」
 アゾートの発言に、絶対芸等出来ないと踏んでいたヴェルデだけでなく、エリセルも驚く。
「じゃ、ボクらの始祖のアーデルハイトのものまねをするね!」
 コホンと咳払いをしたアゾートが言う。
「こんな事もあろうかと、密かに超秘術の準備を進めておったのじゃ!」
「……」
「……」
「どう? 似てるでしょ?」
「そ、そうだな。お、おい、貴様は何かないのか?」
 ヴェルデがエリセルを指さす。
「え? わ、私ですか!?」
「そうだ!」
 ヴェルデのムチャぶりにエリセルが暫し考えて、口を開く。
「一応、出来ます。見た目はアレですが……」
「本当!? ボクも見たい!」
「アゾートさんがそう言うなら……」
 エリセルは、いざというときのために一発芸を練習してきていたのだ。
「(エリセル? あなた、アレは成功確率低いでしょ?)」
 トカレヴァがエリセルに呟くも、大好きなアゾートから頼まれたエリセルの決心は揺るがない。
「では……」
 エリセルは、中央が凹んだ2つの円盤を重ねたモノを持つ。
「それ、ヨーヨーか?」
「はい。これでジャグリングをします」
 エリセルは蜘蛛の糸を口から吐き出すと、それを8本の蜘蛛の肢に絡ませ、ヨーヨーを器用に操る。
「すごいすごい!」
 アゾートが喜び、他のテーブルの客も感心した目でエリセルの芸を見つめる。
「(は、恥ずかしいけど……アゾートさんが喜んでくれるのでしたら)」
 臆病で引っ込み思案なエリセルは、あまり人の目に触れるのが好きではなかった。
「(エリセルにとったら、大きな進歩かも)」
 陰ながら見守るトカレヴァがエリセルを少し嬉しそうに見つめていた……が。
シュルルル……。
「え?」
「あん?」
 エリセルの蜘蛛の糸がジャグリングする間に、ヴェルデとアゾートに絡まり始める。
「(あーあ……だから言ったのに……)」
 トカレヴァがとりあえず店員では無いヴェルデを、そっと糸から救出するが……。
「エリセル……」
「すみません! アゾートさん!! ……ハッ!!」
 糸が絡まり、エリセルとアゾートは抱きあうような姿で縛られてしまう。
「早く解かないと、ボクもキミもお仕事出来ないよ?」
「え? え? そ、そうですね……」
 アゾートと密着した今を、少し勿体無いと思いつつ、顔を赤らめたエリセルは8本の蜘蛛の肢を使って、絡まった毛糸を解くように糸を解きにかかるのであった。