|
|
リアクション
第20章 3度目の合意
「あれって、どう見てもむきプリ君ですよね……。ということは、例の如くホレグスリ企画なのですかね……」
格安で参加出来るバレンタインパーティー。その告知を見て来てみたら、入口には見知った女装筋肉男が立っていた。一旦中に入った緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)と顔を見合わせて見解の一致を確認する。もとより、分かれる訳もない。
「少し貰っておきますか。使うかどうかは後で考えるとして……持っとくに越したことはないですし」
自前で薬の作成が可能なレシピ持ちの遙遠だったが、最近は使ってなかったという事もあり今日は持っていない。とりあえず“借りて”おこう、と彼はむきプリ君に近付いた。
「お、お前達は……! 忘れるわけもないアンデッド使い!」
「お元気そうで何よりです。ところでむきプリ君、ホレグスリ持ってますよね? 解毒剤と合わせて、幾つか頂けませんか?」
「だ、誰が渡すか! 自分で作ればいいだろう」
「今、現物が欲しいんですよ。ここには材料も道具も無いでしょう?」
尻込みしつつ抵抗を示すむきプリ君に、遙遠はにっこりとした笑みを向ける。
「まあ、あなたがどういう選択をしようと自由ですが。結果は変わりませんし」
「な、何だと……?」
遙遠はただ笑っているだけだ。隣の遥遠も同じである。だが、見えない圧力を感じてむきプリ君は後退った。このまま断れば、燃やされたり凍らされたりする気がしたのだ。
「わ、分かった……」
戦々恐々として、彼はホレグスリと解毒剤を献上した。
遥遠がホレグスリの使い方を提案したのは、むきプリ君を脅して少し経ってからの事だった。
「遙遠、ホレグスリパーティー? ですし、遥遠達も飲んでみませんか? 片方だけじゃなくて両方飲むのなら……ありですよね?」
観覧車で遥遠が遙遠に飲ませて、レシピを手に入れた後に遙遠が遥遠に飲ませて、それから、こっそりと互いに飲ませるのは禁止になった。だが、合意の上ならそのルールには抵触しない。
(……まぁ……たまには激しく求められたいですしね……。遙遠がOKなら……ですけど)
そう思いつつ、遥遠は遙遠の返事を待つ。
「そうですね……」
遙遠は会場を見回した。まだ大きな異常は見られないが、彼が関わっている以上、そのうち何らかの混乱が起こるだろう。その中でホレグスリに身を任せるのも悪くない。
まあ、パーティーの行く末がどうであれ、遙遠としては勝手に楽しむだけなのだが。
「どの料理にホレグスリが入ってるか分かりませんし……それだったら、自分から飲んでも変わりませんよね、分かりました」
折角来たのだからそれなりに楽しんで帰らないと、と彼は小瓶を取り出した。
「たまには羽目を外すのもいいですよね。どうぞ」
「ありがとうございます」
遙遠と遥遠は微笑みあい、ホレグスリを一口飲む。改めて目を合わせた時、2人の頬は既に上気していて――
彼等は、お互いに引き寄せられるように抱き合った。
誰が見ていようとも本能は止まらず、2人は身体を離そうとしない。離したくない。
僅か数センチという至近距離から見つめあい、遙遠は遥遠の背を抱いて歩き出す。腕の中で、遥遠が言った。
「遙遠……ずっと傍に居させてくださいね」
「ええ、もちろんです……普段から愛しい遥遠が更に愛しく思えますね……ああ、こんなにくっついていると動きづらいですか?」
「動きづらくなんてありません、ずっとこのまま離さないで下さいね……」
自らの身体を押し付けるように、遥遠は寄り添ってくる。もっともっと、一緒に居たい。遠慮なんかしないで、思うままに抱き合いたい。その気持ちを2人は伝え合い、感じあう。
「……ここは人が多すぎますね。出来れば2人っきりになれる場所がいいのですが。……しかしどこかありますかね?」
来場者とテーブルの間をゆっくりと歩く。2人きりになれて、それでいてこの今の雰囲気を思い切り堪能出来る所。でも、その場所を探すのももどかしくて。
遙遠は、残っているホレグスリを目の前に掲げる。
「このホレグスリを飲めば多少は周りが気にならなくなりますかね……。もう少し飲みますか?」
「はい。飲ませてください、遙遠……」
請われるままに、遙遠は遥遠の口にホレグスリを流し込む。遥遠も最初に飲んだ薬の残りを彼に飲ませ、その直後――
理性が飛んで、開放感に満たされる。同時にどうしようもなく足りなく感じる、上限を忘れたような愛への欲望。
2人はますます惹き寄せられるように抱き合い、求め合った。溢れて来るのは、熱い熱い相手への想い。離れることなど、考えられない。どこかが少し触れ合うたびに高揚していく感情。高鳴る鼓動。
唇を求め、互いの存在を感じ合う。
強く優しく、どこまでも。