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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
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リアクション

 第22章 4人組のバレンタインパーティー4

「あれ、何かミツエさんみたいな人がチョコの中に……?」
 諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)の姦計によってアクアの彼氏になりにきた風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)。彼は、チョコレートまみれの女子3人の中にミツエの顔を見た気がして目を擦った。もう一度確認しようとしたが、それらしき人影はチョコの中に沈んでいく。もとより、コーティングがほぼ完了されていて顔の判別は難しい。
「いえ、気のせいですよねきっとあれは別の人です」
 思い込むことにしたのか本当にそう思ったのか、優斗はそう結論付けると会場に居るであろうアクアを目で探した。女子の多い一角、わいわいとしているそこに、彼女が居る。
「アクアさん」
「……! 貴方……」
 振り向いて優斗の姿を認めたアクアは、突然剣呑な表情で見返してきた。どうしたんだろうと優斗は驚き、それから「あ」と言って慌てて謝る。
「すみません、遅くなってしまって。話を聞いてすぐに出てきたんですけど……」
「……? 何を言っているのですか?」
 アクアは怪訝気に眉を顰めた。そこで、彼に気付いたファーシーがひょこりと顔を出す。手には携帯を持っていた。
「あ、優斗さん、パーティーに来たのね」
「ええ、ファーシーさん、僕はアクアさんの彼氏になりに来ました」
「え?」「は?」
 実に両極端な反応だった。きょとんとするファーシーの隣で、アクアはますます眉を吊り上げる。そして一拍の間の後、2人は同時に口を開いた。
「優斗さん、アクアさんの事が好きなの?」
「な、ななななな何を言っているのですか貴方は!!!」
「はい、僕はアクアさんの事が大好きですから」
 ナンパに困っているというリョーコの言を信じている優斗は、爽やかな笑顔で言い切った。彼女を狙う男性達に聞こえるようにと、はっきりと。
 その言葉に、アクアは本気で怒った。好きだと告白したり、そうかと思えば、告白自体を謝ろうとしたり。それでまた、大好き、だなどと。
「な……人をからかうのもいい加減にしてください!」
「照れなくてもいいんですよアクアさん、アクアさんも僕の事が好きだってことは良く知ってますから」
「……!!! 誰がいつ、そのような事を……!!」
 赤くなって激昂するアクアの隣では、ファーシーがカチカチとメールを打っている。何だか凄く嬉しそうだ。音符さえ飛んでいる。恐らく、メールの相手は彼の捜索依頼をかけていたテレサミアなのだろうが――
「ファーシー、何を打っているのですか、文面を見せて下さい!」
「え? 待って待って、まだ途中だから……」
 慌てたり怒ったり声を荒げたり電話を取り上げようとするアクアに、優斗は変わらない笑顔を向け続ける。彼氏のふりをしてもらうなんて、いくらナンパに困っているとはいえ恥ずかしいだろう。彼女らしくなかなか素直に頼み事が出来ないでいる為のポーズであるのだと判断し、彼は言う。
「大丈夫ですよ、アクアさんのお気持ちはよく分かってますから、安心して僕に任せて下さい」
「だから、何をですか!」
「そうですね……、そうだ、僕、やっぱり彼氏としてはチョコレートが欲しいかな、とか」
「! チョコレートならその辺に幾らでも溢れていますよ」
「いえ、僕はアクアさんからチョコを頂きたいんですよ。今日はバレンタインですから」
「……チョコを渡せば大人しくなるんですね? ……分かりました。スカサハ、ちょっと」
 アクアは優斗を冷たい視線で睨みつけると、スカサハを呼んだ。
「何でありますか?」
「私達に渡そうとしていたチョコレートがありましたよね? それを下さい」
「受け取ってくれるでありますか!? ありがとうであります!」
「ええ、私が処理しておきます」
 チョコレートを受け取り、スカサハが朔達の方へ戻ったのを見届けるとアクアは優斗に向き直った。彼女には悪い気もするが、チョコも捨てられるよりは食べられた方が幸せだろう。
「私からのバレンタインプレゼントです。これで満足ですか?」
「ありがとうございます」
 優斗はにっこりと笑って箱を受け取った。
「家に帰ってから食べて下さいね」
「ようお前ら、トライブさんがチョコ持って来たぜー」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)がやってきたのはそんな時。彼は気軽な調子で、アクアやファーシー達にチョコの入った袋を掲げてみせた。

              ◇◇◇◇◇◇

「今は男が渡す逆チョコの時代だぜ!」
 トライブはそう言いながらチョコレートを取り出す。ファーシーとピノに渡すと、ピノは中身を見て驚いたようだ。
「……あれ? これってもしかして……」
「ああ、手作りだぜ。まあ、日頃の礼とこれからもよろしくって意味を込めてな」
 どこから聞きつけたのかファーシー達4人がバレンタインパーティーに来ているらしいと知ったトライブは、わざわざチョコを手作りして会いに来たのだ。
 それを聞いて、ファーシーもびっくりした。
「えっ、作ってきてくれたの!?」
「手作りっていっても、市販のチョコを溶かして固めただけの簡単なモンだけどな〜」
 女子が男子にチョコを渡すなんてもう古い。今の時代、逆チョコこそイケてる男のバレンタインデーだ。
「それでも嬉しいよ、ありがとう!」
「そうね、作ってくれたっていう気持ちが嬉しいわ。トライブさん、こちらこそこれからもよろしくね!」
 ピノとファーシーは、実に嬉しそうだ。2人の笑顔を傍で見ていたラスは、ファンシーな形のチョコレートを眺めて口を出す。
「……いつも思うんだけどよ、溶かして固めるってそれで『手作り』って言えんのか? 形変えただけだろ」
「違うよ!」「違うわよ!」
 すると、2人から同時に反論が返ってきた。
「溶かして固めるって、すごく難しいのよ? 途中で爆発したり、いくら冷やしても固まらなかったり……」
「それは明らかに食いもん以外の何か入れてるだろ!」
「でも、本当にむずかしいんだよ。上手に作れないと美味しくないし、つやとかも消えちゃうんだからね」
 何気にファーシーの擁護はスルーしてピノも言う。
「んなこと言って、お前今年チョコ作ってないだろ」
「え? 作ったよ?」
「作った? 俺、貰ってないけど……」
 言っている間に、ピノはペット用じゃない方の鞄からごそごそと袋を取り出した。ビニール袋の中には、模様付きの透明セロファンで包まれた手作りトリュフが入っている。開いたままの鞄からは、同じような袋が幾つも覗いていた。
 ――いつの間に……!?
「パーティーでお友達に会うかもって思って作ってきたんだよね。あ、そうだ! トライブさんこれあげるよ!」
「お? ありがとなー、ピノ!」
 トライブは袋を笑顔で受け取り、ピノの頭をなでなでしている。彼女は「えへへー」と照れ笑いを浮かべ、「みんなにも配ってくるね!」と離れていく。
「……………………」
「まあまあそう腐るなって。ほれ、俺はもちろん作ってきたからさ」
「はあ? 俺に? 何で」
 最初から数に入っていたらしいその縛り口を摘み、ラスは一歩引いて眇め見た。こいつまさか、両刀使いじゃないだろうな?
「深い意味を考えず、軽い気持ちで受け取ってくれお義兄さん」
「……軽く受け取れるか! 何だお義兄さんって!」
 予想を裏切った答えが返ってきて、チョコの袋を全力で突っ返したくなった。
 トライブに『義』をつけて呼ばれる覚えはない。断じて無い。しかし、今の仲良さそうな雰囲気を思い出すとシャレとも言えない。
「いやだって、まがり間違ってナニかあるかもしれないじゃん」
 にやにやとしながら、そ知らぬ風にトライブは言う。
「あってたまるか! ナニとか……お前、そんな……」
 袋を持つ手を震わせていたラスだったが、その動きがふと止まった。何かアブない据わった目でトライブに迫る。
「ヤったら、殺す」
「おぉ? 怖いねえ、お義兄さん」
「その呼び方止めろ! トライブ、ピノに手出したら本当に殺るからな。墓にロリコンって刻んでやるからな」
「おにいちゃん達、何の話してるの?」
 そこで、ピノが戻ってきた。慌てて、ラスは表情を戻す。
「何でもない。いいかピノ、この男に近付いたらダメだぞ。ロリコンの危ない奴だからな」
「おにいちゃんだってロリコンじゃん」
「…………違う」
 あっさりと言われ、彼はがっくりと肩を落とした。その横で、トライブはアクアにも声を掛ける。
「アクア! お前にも作ってきたんだぜ! ほら」
「……私に、ですか……? 要りません」
 今の会話を聞いていたアクアは、無表情にほぼ即答した。いや、今の会話だけではない。以前に勝手に水着姿を念写捏造された事も大いに影響した回答だ。
(何なんですか? この男は。また何か企んでいるのでしょうか……)
 何となく、カメラを持っていないかどうか確認する。とりあえず、撮影機器も携帯も手元にはない。
「……そっか。アクアが喜んでくれるかと思って頑張ったんだけど、迷惑だったみたいだな……やっぱり俺、信用ないんだな……」
 はっきりと断ったせいか、トライブは悲しげな顔で俯いた。だが、何となく口調がワザとらしい。ポーズだということは見え見えだった。
「ええ。迷惑です。持って帰って自分で食べて下さい」
 迷いも何も無く言い放つ。すると、彼の演技に気付いていないのかファーシーが言う。
「! アクアさん、せっかくトライブさんが作ってきてくれたのに……」
「関係ありません」
 彼女の口添えにもにべもない調子で返す。そこで、隣に立つ優斗がナンパから守ろうととんでもない事を言う。
「そうですよね、アクアさんには僕が居ますから。他の男性からのチョコは受け取らないなんて、僕は愛されてますね」
「……!!? ……分かりました。頂きましょう」
「……あれ?」
「そかそか、ではたーんと食ってくれ!」
 きょとんとする優斗と、ニコニコとチョコを渡してくるトライブ。
「いやー良かった良かった! んじゃ、余ったチョコを配ってくるかー」
 そうして、別の場所へ移動し始める。だが、ふと立ち止まって彼はアクアに言った。
「そうそう、こういう日にかこつけて悪さするほど、俺は野暮じゃないぜ。それに……悪さする時はもっとド派手に、徹底的にやるから」
「…………!!!」
 ばちん、とウインクなぞをかまして、トライブはアクア達から離れていった。
(さて、これはむきプリに渡すかなー。いや、どーせ受け取らないか)
 男からのチョコは断るだろう。そう思って、彼はプリムに残りを渡すことにした。