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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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月冴祭の夜 ~愛の意味、教えてください~

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 ■ 池面に描くは想いの模様 ■



 4人で舟を借りて、樹月 刀真(きづき・とうま)たちは池での月見に繰り出した。

 頭上の月はくっきりと輝く円。
 水面の月はゆらゆら揺れて光を散らす。
 そんな絶好の月見日和だと言うのに……。
 どこか弾まぬ小舟での会話に、刀真はちらりと漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の様子を窺う。
(やっぱり失敗だった、んだろうな……)
 月夜は以前から自分の胸のことを気にしていた。それを知っていたのに、胸の大きさの好みを聞かれた刀真はつい、どちらかと言えば大きいほうが良いと正直に答えてしまった。そうしたら途端に月夜が拗ねた。
 自分の発言が無神経だったと、刀真は反省して謝ってはいるのだけれど、未だに月夜は機嫌を直してくれない。
 今回の月見のような時にはちゃんとついてくるから、嫌われているわけではないと思うのだが……謝っても駄目となると、刀真にはもうどうすれば良いのか解らなかった。
 月夜の機嫌は悪いままだが、幸い今夜は玉藻 前(たまもの・まえ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が一緒に呑んで、月夜と話してくれている。ここでもう自分に出来ることはもう思いつかないので、刀真は2人に任せ、見守ることにした……。


「こういう時は私だけ誘うものだよね玉ちゃん。なのに……刀真のばか……」
 むくれている月夜に、玉藻はふっと笑みを漏らした。
「機嫌を取るなら自分だけを誘って欲しかった……という事か。可愛いことを言うが、それを言うのなら、お前達が里帰りで色々した時、我は誘われなかったぞ?」
 小舟のへりに片肘をついて、玉藻はちびちび日本酒を飲んで月夜の話し相手になっている。
 その胸元につい目がいってしまい、月夜はまた悶々とする。
(う〜、玉ちゃんと白花の胸が、胸がー!)
 パートナーの中では玉藻も白花も胸が大きいのに、月夜だけが慎ましやかな胸をしているのだ。どうしても気になってしまう。
「だが胸の大きさの好みと個人の好みは別だろう?」
「玉藻さんの言うとおりだと思いますよ? 刀真さんは月夜さんを意識してると思います」
「でも……」
 玉藻と白花に言われても、月夜はまだ納得出来ない。
「ふむ、では証明してみようか」
 玉藻は口の端で笑うと、刀真の頭を抱え込んだ。


「な……!」
 すっかり考えに耽っていた刀真は、玉藻に頭を抱え込まれて驚いた。
 わざと押しつけているに違いない柔らかい胸の感触に、何も感じないと言えば完全に嘘になる。けれどそれに抵抗して、刀真は玉藻に頼んだ。
「月夜の機嫌が悪くなるから勘弁してくれ」
 けれど玉藻は、里帰りの時に置いてけぼりにした罰だと笑い、尚も頭を強く引き寄せる。
「いや、お前はあの時用事があるって自分で残ったんだろ」
 言い返しながら、刀真は月夜の様子を窺った。
 玉藻の豊かな胸が邪魔してほとんど見えないが、月夜がこちらを見ているのだけは分かる。何とか止めてもらわないと。
 顔に当たっている玉藻の胸から鼓動が伝わってくる。
「玉藻……鼓動が少し速い。緊張しているのか?」
「……改めて言うな。照れるではないか」
 そう言う玉藻の頭を刀真は逆に抱え込み、自分の胸に当てる。
「そこまで恥ずかしがるな、俺も一緒だ」
 鼓動の速さは照ればかりではなかったけれど……その辺りは言わぬが花だ。
「我と一緒だな」
 2人きりだったらこのまま放っては置かぬのにと、玉藻は大人しく刀真の鼓動を聞き続けた。


 月夜はやきもきしながら刀真と玉藻を見ていた。
 玉藻に抱きしめられながらも、刀真はしきりとこちらを見ている。自分のことを気にしてくれているのかと思うと嬉しいけれど、
(玉ちゃんやり過ぎ!)
 目の前でそんなに密着されたら、心安らかではいられない。
 でも、里帰りの時に白花と一緒に刀真にしたことと、その後に夢うつつにされたことを思い出し……仕方ないかなと月夜は考え直した。


 結局、刀真の鼓動を聞きながら玉藻はそのまま寝入ってしまった。
 玉藻の身体をそっとずらして月夜の様子を確かめれば、月夜もすやすやと眠っている。
 その横で、白花1人が起きていて、どこか寂しそうな瞳をこちらに向けていた。
 さっきまでのことを思うと気まずいが、さりとて合ってしまった視線を外すことも出来ず。そのまま見つめ合っていると、ふと口元に柔らかい感触がしたような気がした。
 何気なく口元に手をやった途端、脳裏に蘇ってくるものがあって、無性に恥ずかしくなってくる。
 刀真は口元を手で覆い隠して、うろたえながら白花から視線を外した。
 そのまま数度深呼吸してからそっと様子を窺うと、白花は真っ赤になっていた。白花が考えているのが自分と同じなのかどうかは分からないけれど。
 また速くなっている自分の鼓動を感じながら、刀真はそのまま月を見上げた。今は……そう、このままで。