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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!
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世界旅行


 貴族の邸宅を思わせるホールの入り口には、とても有り合わせで持ってきたとは見えない、豪華な長机と椅子が並べられていた。
 机の上の「世界旅行受付」の小さな看板と、「御見学の方は宜しければ記帳をお願いいたします」の表示がなければ、舞踏会の会場と錯覚していたことだろう。
 受付を通れば、巨大な模型が眼に入る。
 青い球体──地球。そして横に置かれた平面状の日本と、その上に、アクリル板で支えた、空に浮かぶパラミタ大陸だ。
「ここが入り口でございますわね!」
 訪れた生徒達が静かに眺める中、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が、学園祭のパンフレットを手に握りしめて、ぱたぱたと駆け込んでくる。
「合同学園祭というだけあって華やかですわ。校門脇の着ぐるみ屋さんも、ぬいぐるみのケーキ屋さんも面白かったですけれど、こちらもきっと楽しいですわ!」
 はしゃぐくらい楽しみにして、パートナーたちを誘ったのは彼女だ。
「ほら、あの衣装。可愛らしいですわ!」
 入口に座っている受付の衣装を見て、眼を輝かせている。
「あちらのお花の刺繍のスカートは何の衣装かしら。こちらは長い布を巻きつけてエレガントですわね!」
 中に入ればもっといろいろ見れるだろうと、右手にあるアーチをくぐろうとして、彼女は振り返った。
「……早速参りましょ……あら?」
 ユーリカは促したが、パートナーは受付で何やら話し込んでいるし、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の二人はジオラマに夢中だった。
「ふむ……よく出来た造形なのだよ。しかし……その手前にあるボタンは、何であろうか?」
 イグナが、模型の前にある台に両手をつき、並んだボタンを物珍しげに眺めた。
「これは、各地の情報を出すものでございます……この様に」
 アルティアがためしに「首都」と書かれたボタンを押してみると、一斉に、地球上の国の首都の部分に白い光が灯る。
「おお、これは面白いな。地球にはこんなにも国があるのか。こっちの『パラミタと地球の出入り口』は……」
 日本とパラミタの方に設置されたジオラマのボタンを押すと、新幹線のある東京や、海京からパラミタへと伸びる軌道エレベーターが光った。
 『トワイライトベルト』を押すと、ジオラマが光ったり暗くなったりして、トワイライトベルトの移動を光で示してくれる。
 だんだん面白くなってきたイグナが次々にボタンを押していくと、周囲の空中に人口や歴史や、有名な建築物など、各種の文字情報や画像が浮かび上がり、表示されていった。彼女はひとしきり光を切り替えるのに夢中になる。
 ユーリカに誘われ、イグナとパートナーをここへ後押ししたアルティアはそれを見ながら、ユーリカの視線に気付く。
「名残惜しくはありますが、そろそろ参りましょう。地球のことも色々と勉強になると思うのでございます」
 経路図を見ると、最初はパラミタの各地。それから、空京、海京を経て日本、そして地球の様々な国を紹介するらしい。かなり大掛かりそうだ。
 最初の部屋、ツァンダ周辺の地域を再現した、草原のような毛足の長い絨毯に足を踏み入れる。奥には壁面に沿って立体的なヒラニプラの山脈が見えていた。
「あ、後から行きます」
 入っていく三人に声を掛け見送ったのは、受付と話している彼女たちのパートナー・非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)だった。
 受付には、協力者である生徒有志と共に、百合園女学院の校長・桜井静香(さくらい・しずか)がいる。
 静香は、ピンクと薄い黄色の華やかな桜の振袖を着て、髪もアップにしていた。
「静香さん、こんにちは。お疲れ様ですね〜。相変わらず、服装が似合っていますね〜」
「ありがとう。今回は民族衣装を着ると決めてたから、どんな衣装にするか迷ったんだけどね」
 着物は静香の母国であり百合園の本校がある日本の民族衣装だからと、未婚の正装である振袖にしたという。
「今日は合同学園祭に来てくれてありがとう。ゆっくり見て行ってね、って言いたいところだけど……他にも面白い出し物が沢山だからね。ここだけじゃもったいないかな?」
 その言葉に、もういくつか見てきたんですよと軽く話した近遠だったが。一つ、気にかかることがあった。
「この度の合同学園祭の事で、ちょっと聞きたい事があるんですけれど、良いでしょうか?」
「うん、何かな?」
「まぁ……百合園学園が布いている男子禁制に限らず、この手の禁制・結界に、物理的な意味や拘束力は元々無い訳ですけれど……精神的・社会的に、その意味はある訳で……今回の解禁とか、どういう心境の変化と言いましょうか? そういう物なのかなぁ〜? と」
「? というと?」
「まぁ、大丈夫だろうとは思いますけれど……一時解禁できる物なら、いつでも入って良いんじゃないか? とか、勘違いしたり、屁理屈をこねたりして、押し入ろうとする人が出なければ良いんですけれど……ちょっとその辺が気になったので、聞いたんですけれどね〜」
 近遠が彼なりに心配しているのだろうと、静香は真顔で。
「大丈夫だよ。この学校って、外見がお城みたいだよね。校舎を立て直した時に本当に城塞にしていて、不審者が入ろうとするとレーザーが打ち出されるようになっているんだ」
「えっ?」
 面食らう彼に、静香はすぐに冗談だよ、と朗らかに笑ってから。
「近遠さんも今日入れたからって、これから変なことしようとは思わないでしょ? いざとなったら警備員さんも、生徒もいるからね」
 静香は、スタッフの契約者たちの方に目を向ける。
「心配してくれてありがとう。……これ、出し物の紹介だよ。どうぞ楽しんで行ってね」
 静香は薄い紹介冊子を手渡す。
 近遠は頭を下げると、大分先へ進んで行ったであろうパートナー達を追いかけた。


 森の暗がりを抜けると、小さなタシガンがそこにはあった。
「これは……驚いたね」
 ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は仮面の奥で微笑んだように見えた。
 ドライアイスだろうか、漂う霧の中に浮かび上がるのは小さな薔薇の生垣。
「霧まで再現してあるとは思わなかったな」
 安全性の為か本場の霧ほどではなく周囲はぼんやりと見える程度に抑えてあり、足元には小さな灯りが点々と経路を誘導している。
 吸血鬼の男装をしたスタッフが彼らに声を掛ける。
「足元にお気を付けくださいませ」
「……捕まりますか?」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が腕を差し出すのを、ルドルフは丁重に断った。
「いや、大丈夫だよ、ありがとう」
「……そう? ロンドンの霧も濃いからね、困ったらいつでも言ってよ」
 薔薇の迷路──というほどでもないが、タシガンの町並みを再現したスペースをぐるりとうねるように歩き、そこを抜けると、次の荒野へと続く薔薇のアーチが見えた。
「ロンドンは君の故郷だと言っていたけど、今日は他校の学園祭の視察じゃなかったかな?」
 ルドルフが、あちらこちらにスタッフがいるせいで、他人行儀に丁寧語とを使い分けるヴィナを面白く思いながら言えば、
「勿論だよ。ここをお勧めしたのは特に、ね。
 パラミタも広いけど、地球も広い。こうして、色々な世界を知ることで、ルドルフさんには見識を広めてもらい、より校長職に励んでもらいたいな、というのが一薔薇学生としての意見かな」
(俺個人としては、ルドルフさんと少しでも長く一緒にいたいってところだけどね)
 そして、故郷も見て欲しい。彼の金色の瞳が、片思いの相手をさりげなくみやる。
 ルドルフは彼の気持ちを知ってはいるけれど、応えられないと返事をしている。それでも望むように友人として接してくれる彼の気持ちを察してか、彼の視線に特別な反応は返さなかった。
「ありがとう。期待に応えられるように精進しよう」
 やがてやってきたのはイギリス・ロンドン。霧の中に浮かぶ街灯、石畳。
 本場と同じとはいかないけれど、わざわざ本物の石を敷き詰めているのがお嬢様校らしいというところか。勿論これは薔薇の学舎でもできるだろう。
 ヴィナは故郷を懐かしく思い出しながら、
「そうだ、後でお腹が空いたら海賊食堂へ行ってみようか。海賊ショーをしているんだって。メニューの中にもある日本風のカレーは、インドからイギリスを経て伝わったんだよ」
 と言って、石畳を歩いていく。
「ルドルフさんの故郷はパレスチナだったよね。ここでも見てみたかったな。イギリスもこれだけ良くできてるんだから、きっと雰囲気だけでも味わえたのに。
 さっきのタシガンもそれっぽい雰囲気だったよ。タシガン、だいぶ住みやすくなったけどね。前は反地球感情が凄かったし」
「人と人が理解し合うことは難しいことだけれど、実を結べば美しい花を次々に咲かせるだろうね。排斥も偏見も無い土地、それは砂漠に咲く薔薇の如く貴重かも知れないけれどね」
 ルドルフの出身地の辿ってきた歴史故か、言葉には少々、実感が込められているようだった。
「それより、質問してもいいかな。イギリスの霧はタシガンとどのような違いがあるのかな」
 ヴィナはルドルフの質問に答え、話しをしながら、世界旅行をゆっくりと見て回る。