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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

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「こちらの場所は、琵琶湖ですよ。日本で最大の面積の湖で……」
「済みません、エリュシオンについて、こちらのお客さんからご質問なんですけど……」
「琴理ちゃん、アッサムとアイスレモンティーひとつずつお願いしまーす」
「はーい」
 歩たちスタッフがてきぱき対応して、忙しいティータイムや足を休めるお客さんも殆どはけた頃──夕方。
 お喋りや案内の声もまばらになり、閉店の準備を進めるブックカフェ。忙しかったスタッフたちの気も緩んで、空気も緩む。
 バックヤードでふんふんとわけのわからない鼻歌を歌っている琴理に、パートナーであるフェルナンは眉を潜めた。
「ご機嫌ですね、琴理さん?」
 びくっと驚いて肩を跳ねさせた彼女は、鼻歌を止めて、
「っ! ……うん、そう? 別に何もないけど、友だちも一緒だし、紅茶好きだし、あと多分──」
 材料の仕入れとか会計とかが楽しくなって、と言いかけて、やめる。彼の眉間に少し皺が寄っていたからだ。
「フェルナンは機嫌良く……ないのね」
「……というより、足が痛いんですが」
 彼の方は、書生姿。紺の袷の下に白い立て襟のシャツ、灰色の袴といういでたちだ。その足元は慣れない下駄で、裏方の掃除や段ボールを運んだりで、苦戦していたようだった。
「日本文化が西洋と出会った時の和洋折衷と融合が何とか、と言ってましたけど……」
「今までアピールしていたのは本格的な和が多かったように思うけれど、もう少しソフトな和風もあるっていうことを知って欲しかったの。
 それに、日本は新しい文化を取り入れて自分流にすることがすごく好きだと思うし……それはパラミタでも同じだと思うから」
「写真集や絵本を選んだのは?」
「学園祭に長編小説を読むのも大変でしょう。各地の様子や価値観が理解しやすいって思ったのよ」
 開店前に、写真集や本について勉強用にまとめたメモを見直していたは首を傾げた。
「そういえば、聞くの忘れちゃってたけど、琴理ちゃんの好きな絵本って何かなぁ。あたしは『エンドウ豆の上のお姫様』が好きだったんだ」
 歩は、アンデルセンの童話から、一冊の絵本を取り出した。「ほんもののお姫様」を求める王子様のお話だ。
 ほんもののお姫様は、たくさん重ねた布団の下のえんどう豆ひとつが気になって良く眠れなかったことで王子様に認められた、という筋だ。
「これくらいじゃないとお姫様になれないのかぁ……」
 肩を落とす歩に、絵本をめくっていた琴理が色々な解釈のできる絵本ね、と頷く。こんな本が好きなんだなぁ、と思いながら、
「歩ちゃんはもう十分可愛いしお嬢様だし、お姫様らしいって思う。
 筋金入りの箱入りのお姫様なら、布団の下の小さなえんどう豆に気付くのかもしれないけど……、やっぱり、王子様に憧れる?」
 女の子なら小さい頃、お姫様や王子様に憧れたり、『シンデレラ』を読んで夢見たことがある──という子も多いだろう。
 そう思っての質問に、『白馬が似合いそうなカッコイイ王子様』に憧れる歩としては、頷いてしまう。
「そっか……昔は、私もお姫様みたいになりたいって思ったことあるけどね、可愛げがないから絶対無理だもの。だから前みたいに、からかわれる羽目になるし……」
 琴理は何故か長いため息をついた。
「……とは言っても、ちょっと前のことなんだけどね、フェルナンがお見合いさせられてて。私は、そういうことはまだないけど、ね」
 息を吐ききると気を取り直して。
「それで私の好きな絵本はね、『不思議な郵便屋さん』っていう絵本。こうページの右側が本物そっくりの、宛先や消印も付いた封筒になっていて、中には手紙が入ってるの。手紙の他にも、魔女宛の手紙には、魔女用の広告とか入ってて。
 あと、『石のスープ』のお話かな。メニューにも入れてみたんだけど……。
 お腹を空かせた兵士……旅人っていう説もあるけど、彼らが貧しい村に着いた時に、みんな食料を隠すんだけど、石だけでスープを作るって人を呼び寄せてね、これがあるとおいしいですよって少しずつ材料を出させて、最後は村の皆でパーティになるっていうお話なの。……まぁ、詐欺だって解釈もあるんだけどね」
 そこまでひと息に言ってから、
「本当にいい絵本っていうのは、絵と文が一体になってて、読んだ人の心にずっと残り続けるわよね」
 歩はうん、と頷く。
「物語に出てくる食べ物とか、たまにすごい食べてみたくなるのとかあるもんね」
 このお店のメニューにあるのは、フライパンで作ったカステラや、それに、高く積み上げたホットケーキとバター。きびだんご、お皿くらいもある大きなビスケット。それにいちご水やニシンとカボチャのパイ。
 どれも歩が聞いたことのある、小さい頃に読んだことのある本にでてきたメニューだ。
 そのままお店が終わると、二人は取り出してきた絵本を眺めながら、残ったカステラやケーキを琴理が淹れた紅茶と一緒に食べながら、並んで絵本を見る。
「……面白かったー。絵本読むのって久しぶりだったけど、やっぱり雰囲気で楽しめるねー」
「読みなれない文字も読みやすいし、もし文字が読めなくても、絵でも何となくわかるしね」
 二人とも日本出身だから、読んだことのある絵本、解釈が違う絵本、知らない絵本。話題は尽きなくて、おしゃべりは日が暮れるまで続いていた。