|
|
リアクション
46.クーラーの効いた部屋の中で
からりと晴れた、初夏の一日。
今日の予定は、大好きな先輩と一緒にお出かけ!
「の、はずだったのに〜」
ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、テーブルいっぱいに広げられた資料書やノートの上に突っ伏す。
「出かけるのは、いつでもできるでござる。
宿題の提出日は待ってくれないでござるよ」
真田 佐保(さなだ・さほ)が、優しく笑う。
「全部片付けてから、出かければいいでござる」
「はぁい……うう、先輩、ここ解らないですー」
佐保に教えて貰いながら、ミーナは宿題を片付けて行く。
ミーナの傍らでは、立木 胡桃(たつき・くるみ)も同様にノートを広げて唸っていたが、胡桃の方は、それほど量はなかったので、早々に片付いてしまった。
ノートを閉じて、揃えて置いて、ミーナと佐保を順に見る。
「きゅう〜」
少しして、【紅茶ですよー】というプレートを乗せたお盆を持って、胡桃は飲み物を差し入れた。
「ありがとー」
「かたじけないでござる」
「きゅきゅ」
にこ、と笑って、胡桃はミーナの宿題が終わるのを、窓際の、お気に入りの場所に座って待つことにした。
「ううっ……難しいです。体動かすのは好きだけど、座学は苦手です」
しょぼんとして言うミーナを、佐保は励ます。
「初めから、全てできるようにならずとも良いのでござる。
マイペースで頑張るでござるよ」
ひとつひとつ、丁寧に指導しながら、ミーナの宿題を、半分くらいは佐保が片付けて、ようやく全ての提出物を揃える。
「終わったぁ! これで、お出かけ!」
と万歳しながら窓の方を見ると、待ちくたびれたのか、愛用の木の実クッションを枕に、胡桃がすやすやと昼寝をしていた。
「ありゃりゃ〜」
「起こすのも可哀想でござるな」
佐保が苦笑する。
「うん……」
「外出は、次の機会にするでござるよ」
残念だけど、出かけるのは諦めて、このまま部屋で、佐保とおしゃべりタイムを楽しむことにする、と思ったところで、ふわふわ動く胡桃の尻尾を見て、ふと、ミーナに考えが浮かんだ。
「先輩〜!」
「うわっ?」
隙をつかれて突然抱きつかれ、二人はそのまま床に転がる。
(お、おお、押し倒されたでござる!?)
佐保はドキリと鼓動を早めたが、ミーナはにっこり笑って言った。
「先輩、胡桃ちゃんの尻尾、すごく気持ちいいでしょ」
「ま、まくら?」
そこで初めて、胡桃の尻尾が枕になっているのに気づいて、佐保は慌てて笑った。
「そ、そうでござるな! ふわふわでござる」
「えへへ、先輩とお昼寝です♪」
きゅう、と抱きついたまま、ミーナの目は既にとろんとしている。
ずっと参考書とかかりきりで、疲れたのだろう。
お出かけできなかったのは、とても残念だけれど。
「大好きな先輩と……一緒に、お昼寝……。
しあわせ、です…………」
すう、と寝入ってしまったミーナを見て、佐保は苦笑した。
「……拙者もでござるよ」
ちょっと期待してしまったなんてことは、いやいや、別にそんなことは。
佐保はぶんぶん首を振って、いるわけが無いのにちらちらと周囲を見て目撃者がいないのを確認すると、そっと、ミーナの頬にキスをする。
そしてわたわたと一人で慌て、ぎゅう、と無理やり目を閉じて、そしてやがて、佐保も睡魔に身を委ねたのだった。