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太陽の天使たち、海辺の女神たち

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太陽の天使たち、海辺の女神たち
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リアクション


●ビーチ花模様

「まさか、御神楽さんからの招待状が届くなんて想像だにしてませんでした」
 目を輝かせながら、マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)はビーチに降り立った。環菜に謝辞を述べ、ビーチサンダル履きで歩き出す。
 輝いているのは目だけではない。水着に着替えたマルティナの健康美はまぶしいほどだ。
 その身を包むは黒いビキニ、腰には落ち着いた柄のパレオを巻いていた。さすが御神楽環菜の主催だけあって、あちこちの学校の美女がビーチのほうぼうに見られ百花繚乱の様相を呈しているものの、マルティナはその誰にも劣っていない。
 少し寂しいのは、彼女がここに一人で来たということ。
 ボーイフレンドなんていないので、『リアルが充実して仕方がない皆さん』とは多少距離感があり、どうもにぎにぎしく騒ぐのも苦手なので、多少なりとも小さくなってマルティナは歩くのだった。
 そんなとき、
 ――あら?
 彼女は気づいた。
「ローラさん、お久しぶりです。この前のバーゲン以来ですね」
 声をかけた相手、それはローラ・ブラウアヒメルだった。ちょうど撮影が小休止になったところらしく、海から彼女は上がって、タオルを肩にかけて冷たいドリンクを口にしている。
 マルティナに気がつくとローラも、満面の笑みで応じてくれた。
「うん、久々ね」
「どうやら写真撮影をされていたご様子。妨害していなければいいのですけれど」
「大丈夫よ、ちょっと休憩中だから」
「そちらの方は?」
 ローラの傍でデジカメを調べ、撮影した写真を一生懸命チェックしている少年について言う。
「友達の桂輔ね。桂輔、こちらは友達のマルティナ」
「え? ああうん。俺、柚木桂輔、よろしく」
 友達――という表現に、ちょっと物足りないものを覚える桂輔である。
 逆に、
「マルティナ・エイスハンマーですわ」
 友達――と紹介されて、なんだか嬉しいマルティナだった。一回会って短い会話をしただけなのに、波長が合うというのか、たしかに友達と呼びたくなるものがローラと自分の間にはあるような気がした。
「それにしてもローラさん、すごい露出の高い水着なのですね。なんといいますか……私もビキニですがローラさんのは雑誌にのってるグラビアの人が着ているぐらいのレベルです……」
「そう? まあ撮影用だからね?」
 ローラは首をかしげた。
 よく見れば確かにそうだ。実際、それほど過剰なデザインではないかもしれない。けれどつい、そんな風に見えてしまうのは、ローラのたわわなボディのせいだろうか。
「でも、マルティナの水着もよく似合うよ。セクシーね……」
 うっとりした目でしばし、ローラはマルティナの黒い水着を見ていたが、
「そうだ」
 と、なにか思いついたらしい。
 ややあって。
「……って、えー」
 いま、マルティナの頭の中は『?』の嵐だ。
 どうしていつの間にか、自分まで撮影に参加させられているのだろう。
 ローラと組んで一緒のフレームに入ったり、彼女からビーチボールを渡されるポーズを取ったり……つまり、被写体(モデル)に組み入れられてしまったのだ。
「私なんかがこういう撮影に参加しても邪魔になるだけですから……」
 恐縮し、照れて顔が真っ赤なマルティナだけど、シャッターが切られるたび、なんだか高揚感みたいなものが胸の中で疼くのも確かだった。
「大丈夫、邪魔じゃないね。画面がいっそう華やかになった、ってみんな言ってるよ」
「でも……恥ずかしい……」
 普段の格好や仕事で大勢の人と話したりするのならまだしも、水着で初グラビア撮影とは。
「うん、恥ずかしいのはワタシも一緒ね」
 ほらほらー、とローラは嬉しそうに手を振った。桂輔に「撮って」と言っているのだ。だんだんローラも乗ってきたというわけである。
「さあ、マルティナも前に出るね。前!」
 ローラに背中を押されて、きゃっと飛び出すマルティナの脚が、跳ね上げるのは水飛沫。
 光を反射し、宝石のように輝く水飛沫。
 いつしかマルティナの口元には、笑みが浮かんでいた。

 さてそんな撮影も一段落したころである。
「ふっ、この俺がグラビア撮影とはな……」
 と呟きながら、タオルをトーガのようにして着た男がビーチにやって来た。
 撮影班たちのいる場所へ、威風堂々まかり出る。
「だが、たっての願いとあれば断るわけにもいくまい……さあ、撮るがいい!」
 ばさっ。タオルを投げ捨てるとそこから、快速の代名詞アキレウス・プティーア(あきれうす・ぷてぃーあ)の肉体美が出現した。ギリシャ彫刻のように細くひきしまった肉体。光る汗。爽やかすぎるその笑み!
「時代は細マッチョぉぉぉぉ!」
 感極まったのかアキレウスは叫んだ。しかも、やはり古代ギリシャの円盤投げ像のような姿勢を取って。確かに細マッチョ、しなやかで張りがあり、無駄なところのまるでない身体である。体脂肪率は限りなく極限値に近いだろう。
 ローラの撮影が終了し、今度は男性モデル、つまりアキレウスの番になったというわけだ。
「おい……アキレウス、って、そういうキャラだったか……?」
 彼の契約者である高円寺 海(こうえんじ・かい)が、落ちたタオルを拾い心配そうな顔をして立ち尽くしていた。
「なにを言う、海。こういう仕事に照れは禁物だ。プロとして求められる姿を包み隠さず体現するのみ」
 ぐっ、ぐっ、いちいちストレッチしながらアキレウスは白い歯を見せた。でもやっぱり、海には得心がいかない。
「夏の海で盛り上がっているだけなのか……? まあ確かに、アキレウスは身体を鍛えるのが趣味のようなところがあるからな……しかし、はしゃぎすぎのような気も……」
「いんだよ 細けぇことは!!」
 びしっと一言でアキレウスは彼を黙らせた。いいらしい。本当に。
「俺の肉体美が世間の役に立てるなら本望! さあ、撮ってくれ」
 そう言うなり、まだカメラマンが頼みもしないのに、次々と男らしく悩ましいポーズを取ってくれる彼なのである。
 シャッター音に包まれる快男児アキレウス、一皮剥けた俊足のアキレウス、ここから彼の新たな伝説がはじまる……のかどうかは誰にもわからない。
 桂輔は決して男性の裸身には興味はないのだが、あまりにアクティブなアキレウスには少なからず度肝を抜かれて、振り返り振り返りしつつ、
「じゃあローラに、マルティナさん。こっちの撮影は終わったし、そろそろ戻ろう……かぁ!?」
 と、歩いていたのだが注意一秒、砂に足を取られてしまった。
 わわっ、とつまずいいてよろめいた先は……マルティナの豊満なボディ!?
 ――不可抗力とはいえこれは……いかん……!
 ところがしかし、ぼふっ、と彼の顔面が着地した先は、マルティナの胸ではなかった。
「桂輔! ダメよ!」
 回り込んでくれたローラの、張りがあって柔らかくて深い胸の谷間だったのである。
 一年振りであるが、ふたたび書いておかなければなるまい。
 ラッキースケベという日本語を。
「あー……久々……この感覚……」
 顔まで埋まるこの感覚。抱かれる心地よさよ。いい匂いがする。
 それにやっぱり、育ってる。ローラ、育ってるよ……。
 だが彼の夢見心地はそれまでであった。
「桂輔のエッチー!」
 自分でマルティナの盾になったものでありながら、ローラは顔から火が出そうな口調で言って、どーん、彼を突き飛ばしたのだった。
「あれ……?」
 たしか去年、彼がローラの胸に埋まったときは(このときも不可抗力)、彼女はくすくす笑うだけだった。「桂輔、赤ちゃんみたい」とか言って。
 ――それが今年は明らかに恥ずかしがっている。顔を赤くしている。
 桂輔の体は吹っ飛びすぎて海に背中から飛び込む格好になり、大きな水音を立てて着水した。魚雷でも着弾したのかと、何人かが思わず振り返ったほどだ。
 ぷかぷか浮いて青い空、見ながら桂輔は呟くのである。
「それって俺のこと……男として意識しはじめてる…………ってことかなあ?」
 本当のところは、ちょっとわからない。
 いずれにせよ少し泳いで、頭を冷やすとしようかな。