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太陽の天使たち、海辺の女神たち

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太陽の天使たち、海辺の女神たち
太陽の天使たち、海辺の女神たち 太陽の天使たち、海辺の女神たち

リアクション


●Sea of Love (5)

 思いっきり楽しみたい。
 海を、彼女とのひとときを。
 先日購入したおそろいの猫パーカー、脱いでビーチパラソルの下に置けば、もう彼と彼女を包むのは水着だけ。
「よし、軽くまずはひと泳ぎしないか」
 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)金元 ななな(かねもと・ななな)は付き合ってます、そう世界に堂々と宣言しても恥ずかしくない。むしろ誇らしい。
 シャウラは、なななの手を握って海に向かって駆けた。
 彼女の姿を横目で眺める。水着姿にはドキドキする。
 青春野郎だって? 結構結構。
 今しかできないことがある。今しか作れない記憶が。
「わーい♪」
 なななはあどけない笑顔を見せている。ちょっと冷たい海の水、けれどそれが最高に気持ちがいい。ざんぶと水飛沫を上げ、塩辛い海を泳ぐのだ。
 どこまでも透明な海の中、小魚の群れ。
 水面からの光が二人をロマンチックに照らしてくれる……。
「あんなところにキレイな珊瑚が!」
「おっ、本当だ。熱帯って感じだよなあ」

 テレパシーがあるから、潜っていても会話には不自由しない。
「よし、じゃああの珊瑚とか、もっとじっくり見ようか」
 水面に顔を出すとシャウラは言った。
「じっくり? どうやって?」
「実は持ってきてるんだよな……マスクと小型ボンベのセット。二人分! こいつで水中散歩と行こう」
「わあー♪」
 なななは目を輝かせた。
「ゼーさん、さすが!」
 と言うやするっと泳いで、彼の体に抱きついたのだ。
「大好き♪」
「お、おう。俺も好きだぞ」
 なななの濡れた背中を抱きとめ、触れる膨らみを胸に感じて、潮の香りに入り交じる彼女の匂いを嗅いで……もうたまらない!
 魅入られたように、シャウラはなななにキスをした。
 ほんの軽い、せいぜい数秒の口吻だったけれど。
 周囲に人がいるとかいないとか、もう気にしなかった。できなかったというのが正しい。
「びっくりした!」
 唇を離すと、なななは照れてもじもじと、けれど嬉しそうに身をすり寄せてきた。
 なななは素敵な宇宙天使でレディだ――シャウラは思う。
 ――俺の恋人だ。
 水中でもやはりなななは愛らしかった。
 楽しそうに泳いで、小魚の群れとたわむれて。
 なんだか魚にも好かれる体質なのか、常に数匹の熱帯魚が彼女の周囲を巡っていた。つんつんと胸をつつく魚たちが、純粋に羨ましかったシャウラである。
 誰もいない岩礁、水中散歩に疲れた二人は、ここに這い上がって休息している。
 いい感じに波に洗われた岩礁は、無骨な見た目とは違い背中を預けても痛くない。太陽光は強いけれど、海中が冷たかったのでぽかぽか気持ちが良かった。
 シャウラとなななは手をつないでいた。
 指が絡み合う恋人つなぎ。
「そうだ。アメ、食べるか? 体力回復に」
「うん」
 なななは目を閉じて顔を上向きにする。
「はい」
 と、彼は手で、レモン味のアメを彼女の唇に入れてあげた。
「え? あ、うん、ありがとゼーさん」
 言いながらなんだか、物足りなそうななななである。
 ――口移しでほしかった、ってことかな……しまった。
 ぽりぽりと頬をかき、シャウラはおもむろに言った。大切な話を。
「今度、まとまった休みを取れたら……一度なななの御両親に会いに行きたいんだ。
 娘さんとお付き合いさせていただいてます、ってちゃんと挨拶しておきたい」
「本当!?」
 ああ、と笑うシャウラの頬も、聞くなななの頬も、ぽっと紅がさしている。

 ひゃあ、とレシーブしそこねて、砂浜にエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が転がった。
「大丈夫ですかっ!?」
 小山内南が駆け寄るも、
「平気ですぅ」
 えへへ、となんだか嬉しそうなエリザベートなのだ。立ち上がって砂をパンパンと払う。
「ほーい、これで3−6やでえ」
 審判席からカースケが声を上げた。
「レジーヌさん、ナイスシュート! ……ってバレーだったら『シュート』って言わないんだっけ?」
 桜井 静香(さくらい・しずか)が両の掌を上に向け、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)を待つ。
「……えっと、は、はい、ありがとうございます」
 おずおずと遠慮気味に……とっても遠慮気味に、レジーヌは静香の両手にタッチした。
「ほらもっと堂々としなきゃ。レジーヌはうちのエースなんだからー!」
 かく言うエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)は水着姿。もちろんレジーヌも、静香たちも水着だ。
「あの子なかなかやるよね。注意しなくっちゃ」
 ネットの向こうでは、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が腰を落として構えている。
「さあ、しまっていこう!」
 アゾートは、エリザベスと南にそう呼びかけるのである。
「ほな続き行くで〜。イルミンスールVS百合園・教導団連合、またも連合側のサーブから!」
 小さなカエル(のぬいぐるみ)でありながら、首からホイッスルを下げ赤い帽子をかぶって、なんだか一人前の審判をやっているカースケなのだ。
「そ、それじゃいきます……」
 水着姿を皆の前にさらすのには慣れていない、なんとなく、内股になってしまうレジーヌだった。玉の汗が額をつたう。けれどボールを持って、一度だけ深呼吸すると落ち着いた。
「そーれ!」
 レジーヌは白いボールを、高く高く打ち上げた。空中で急角度を描き、白球は相手コートを目指して滑空する……!
 本日、レジーヌとエリーズは南たちと待ち合わせ、海でビーチバレーに興じていた。カースケは小さすぎてバレーには向かない、そうすると三人、バランスが悪いと思っていたところに、エリザベートが「やりたいですぅ!」と名乗りを上げたのだった。
 さらにエリザベートはアゾートを、そして校長仲間(?)の静香を招き入れていた。
 こうして、三対三の変則的なビーチバレー、なんとも豪華なメンバー構成でのゲームが開始されたのだ。
 気後れはするが身体能力は高いので、レジーヌも大活躍していた。ワンピース型の水着の上からラッシュパーカーを羽織っていたのだけど、途中でどうしても暑くなり、水色のパーカーは脱いだ。ストライプ地の水着は女の子らしく華やかな配色、さらすのは恥ずかしかったが、動いているうちに気にならなくなっていた。
「……ということで連合チームの勝ちや! 商品はないけど、おっちゃんからの祝福を捧げるで〜。はー、めでたいめでたい」
「なによそれー、意味わかんない!」
 と言いながらエリーズは嬉しそうだ。彼女はフリルのワンピース型水着、ピンク色がなんともあざやか。
「楽しかったよ。またね!」
 静香はにっこりと笑って、急に照れくさくなったのか、小走りにログハウスのほうへ駆けていった。ラズィーヤ・ヴァイシャリーがパラソルの下で待っているのが見える。
「は、はい……!」
 おずおずと手を振って、静香さんって素敵だなあ――と思うレジーヌである。
 静香の性別については失念しているのかまったく知らないのか……とにかく、ここで触れるのはやめておきたい。
「負けちゃいました。さすがですね」
 エリザベートたちを送り出して南が戻ってきた。
「じゃあ、ちょっと泳ぎません?」
 南を交え三人、いや、「おっちゃんを忘れんといてやー」と追いかけてきたカースケを含めて三人と一匹、波打ち際でぱちゃぱちゃと遊ぶ。
「作らない? 砂のお城ー!」
 エリーズは無邪気にそう言い放つと、ぺたんと座って一生懸命砂をかきあつめはじめた。
 ざくざく、しばらく無言でレジーヌもそれに協力していたが、
「……気になります?」
 南に声をかけられて、えっ、と顔を上げた。
「いえ、なんだかレジーヌさん、さっきからカップルに目を止めがちなので」
「そ、そんなことはないです……」
 そういえば――レジーヌは顔を真っ赤にしながら思った。
 ――カップルばっかり見ていたかも……しれません。
 手をつないで泳ぎ去るシャウラとななな、睦まじげに談笑しているユマ・ユウヅキとクローラ・テレスコピウム……教導団の仲間たちだから、なおのこと気になったのだろうか。
 うらやましい……のだろうか。
 いや、たぶん、ちょっぴりだけど、うらやましいんだろう。
 ちらっとレジーヌはエリーズを見た。
 エリーズは盛り上がってきたのか、嬉しそうにどんどん砂の城を大きくしている。
 自分がこんな気持ちでいること、エリーズが知ったらどう思うだろう?
 最近覚えたという「男は狼」という言葉を連呼したりして……?
「ほら、カースケ、そこ踏み固めてー」
「おうよ。おっちゃん頑張るでー」
 そのエリーズはなんだかカースケとウマが合うらしく、うまく協力しながら作業している。(カースケも『男』なのだが、さすがに『狼』の範囲からは外れるようだ)
「ええと……」
 レジーヌは南に顔を向けた。内緒話を打ち明けるように、そっと、
「南……ちゃん」
 と呼びかける。
 呼んでしまった。
 ちゃん付けで、呼んでしまった。
 胸が高鳴る。いままでずっと「南さん」と呼びかけていただけに、これはレジーヌにとってちょっとした冒険。でも、人見知りを克服したいという願望が彼女にはあるのだから、これは前進に向けての一歩だ。今日はついさっきまで、静香やエリザベート、アゾートら普段はかかわりのない人たちと交流できたことも、レジーヌを前向きにしていた。
 南もそのあたりは敏感である。
「はい。……じゃあ私も呼んでいいですか? 『レジーヌちゃん』って」
「はい……!」
 南も内気。内気同士通じ合うところがあったらしい。
 レジーヌと南は笑顔を交換した。今の空みたいに、よく晴れた気分のいい笑顔だ。
 晴れやかな気持ちということもあり、レジーヌは自分から話しかけている。
「それで南さ……南ちゃん、最近気になる人とか……いますか?」
 なんという大胆さ。今日のレジーヌはひと味違う。一歩成長したというべきか。
「気になるって……つまり」
「うん」
 ――恋バナ?
 二人の少女は、少女同士にしかない秘密めいた笑みをかわし合う。
 南はちょっと声をひそめて、
「いないわけじゃ……ないんですけど、もう諦めかけてます。……それに私、ちょっと惚れっぽいのかも……」
「えっ。それは意外……」
「そうなんです……優しくされると舞い上がってしまって……そ、そんなレジーヌちゃんは?」
「ワタシ? ワタシは……」
 そういえば、どうなんだろう。
 ――カップルには憧れるけど……。
「……ワタシは……いまのところ………………」
 レジーヌは言葉に詰まってしまった。
 潮騒が耳を撫でる。
 この謎はまだちょっと、解けない。