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お月見の祭り

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お月見の祭り
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「マスター見て下さい! とても綺麗な月ですよ? 水面月も見事です! 私、ニルヴァーナでかような月が見れるとは思いませんでした」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は、小舟の上から見る月に大はしゃぎをして、尻尾をぶんぶんとふった。
「おー随分見事な月だな。……あと、あんまりはしゃぎ過ぎて舟から落ちるなよ?」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はフレイのことを心配しながらも、空に浮かんだ綺麗な月に思わず感嘆の声をあげた。
「思えばニルヴァーナでゆっくりできたことねぇよな……」
 ベルクがニルヴァーナでの出来事を思い起こしていると、ふと、水面の月を見て思い出すことがあった。
「しかしフレイは武具に名前つける程に月が好きなようだが何か理由でもあるのか?」
「? 月が好きな理由ですか? 月は如何なる闇の中であれ光へと導いて下さるではありませんか。……それと……」
 フレイは少し、真剣な表情になった。
「マスターには丁度良い機会故お話しておきたく」
 そう前置きをして、フレイは話し始めた。
「以前マスターにお頼みし作って頂いた忍刀……この刀に私が“霞月”と名づけたのを覚えておいでですか?」
「ああ」
「あれは私が故郷で呼ばれている真名で……捨てられぬ名故に敢えて名づけました」
 フレイは言葉を続ける。
「今の名は母様の旧姓と洋名として名づけられたので、決して偽名とは言い切れませんが……パラミタでの名に過ぎませぬ。パラミタに居る限り真名を名乗る必要はありませんが、それでも……少しずつでもマスターに私の事を知って頂きたく」
「真名、か」
「そうすればもっと強くなれる気が致しまして……我儘ばかりで申し訳ありませぬ」
「霞月……良い名前だな」
 ベルクがそう言うと、フレイの頬がさっと赤らんだ。こうしていろいろと話してくれるようになったのも、進展したということだろう。
 ベルクには分かっていた。フレイが不器用なりに、距離を近づけようとしていることも。不器用なりに、素直に甘えてくれようとしていることも。
 だからこそ、今何か、自分がかけるべき言葉があるのだろう、ということも。
「フレイが頑張ってくれているのは、分かっているよ。だから、強くなるのと無理をしないのと、どっちも」
 ベルクは、フレイがぎゅっと握りしめている手に、そっと自身の手を重ねた。ばっとフレイの頬が赤く染まったが、だが、それでも暴れたり恥ずかしがったりはしない。
 そのまま、フレイは少しだけベルクに身を寄せた。それが、フレイなりの精一杯の甘えだった。
 ベルクは手で囲うだけのように、緩くフレイを抱きしめる。
 今はこれ以上、ベルクから進むことはできないかもしれない。それでも、お互いがこのまま歩み寄っていけば……。

 少しだけ、二人の関係も進展したようだった。