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遠くて近き未来、近くて遠き過去

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第6章 純粋なるもの
 
 
 その相談は、アトラス火山に到着前の飛空艇内で行われていた。
 火山の最深部に到達した際に『核』と成す媒体を選別しておこう、というものだ。
「媒体となるもの以外は燃えて無くなってしまうし、勿体無いから、あらかじめひとつを選んでおいた方が無駄がないと思うよ」
「適合が複数あっても、『核』はひとつしか成せないのかい?」
 黒崎天音の問いに、オリヴィエは頷く。
「そうらしいね。
 五年前、ハルカの命を使って『核』を造った際には二つ作成されたそうだが、それは異例のことだと思うよ。
 推測だが、『核』が二つ出来たというよりは、ハルカによって作成された『核』が、何らかの作用を及ぼした、とかじゃないかな」
 成程、そういう反応もあったのかもしれないと天音は頷く。
 五年前、ハルカは『核』を生成する為に、祖父に最深部のマグマ溜まりに落とされて死んだ。
 その際についでに投げ込まれて殺されていたハルカのパートナーの命もまた『核』となり、ハルカの魂を、この世界に留め続けた。
 その偶然と奇跡、そして友人達の祈りによって、ハルカは今、こうして生還することが出来たのだ。

「ふっ、他の連中が『純粋なもの』を用意できなかった場合に備えて、オレがひとつ、持参して来たぜ」
 国頭武尊が、大真面目で胸を張った。
「まあ、オレの手持ちで、アイシャ絡みの純粋なものって言うと、彼女が帝国でメイドやってた時に穿いてたぱんつしか無かったわけだが」
 実際投げ込むのは勿体無い程のレア物だが、もしもこれより純粋なものが無いというのなら仕方がない。
 無論、アイシャには代わりのぱんつを要求したいところだが。
 騎沙良詩穂が、無言で殴りかかった。
「何だよ! オレは真面目だぞ!」
 ぱんつを死守しながら武尊が叫ぶ。
「……」
 そんな様子を眺めつつ、ぱんつはともかく、この場で最も純粋なものは、見返りを求めず世界の為に祈り続けたアイシャ本人ではないだろうか、と、早川呼雪は思う。
 が、まさか、ハルカの時のように、本人を投げ込む訳にもいかない。
 アイシャの結晶化した体の一部や髪、身に着けていたもの等で代用できないだろうか、と考える。
(……いや、ぱんつはともかく……)
 身に着けていたもの、と考えたところで、武尊をちらりと見て、呼雪は眉間を押さえながら溜息を吐き出した。

「なら、『核』には、俺を使って欲しい!」
 そう申し出たのは、リア・レオニス(りあ・れおにす)だった。
「俺自身が飛び込んでも、アイシャが悲しむから駄目だ……。
 俺は、俺のアイシャを想う気持ち……“愛”を『核』にする!」
 純粋なもの、は、物質に限らないとリアは思う。寧ろ、純粋で強い想いこそが核。
「物質が必要であれば、ここにリングがある。これに俺の想いを込める。
 これが、アイシャをこの世界に留まらせる力になる!」
「彼はこれまで、アイシャと多くの時間を共有して来た。彼を信じてやって欲しい」
 パートナーのザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)が、リアの提案を勧める。
「ええ、そうね。とてもいい考えだと思う。レオニスなら絶対よ!」
 ルカルカ・ルーが賛成した。
「レオニスの純粋な愛の奇跡が、きっとアイシャを助けるわ」
 うむ、とパートナーの夏侯 淵(かこう・えん)も頷く。
「うん……。純粋なものっていうのはきっと、アイシャさんをこの世界に留めたいと願う純粋な想いだと、俺も思う」
 エース・ラグランツも同意する。
「レオニスさんの“アイシャへの愛”を元に、彼女をこの世界に留めたい」
「俺も同意見だ。レオニスさんが持つ、アイシャさんへの純粋な愛が核になると思う」
 ウォーレン・アルベルタがそう言って、一同を見渡した。
「レオニスに任せてあげてくれる?」
 ルカルカが皆にそう言って、オリヴィエを見る。
「どうかしら。これだけの人が賛成してるのだし」

 オリヴィエは、困ったように苦笑した。
「それは、『核』を入手後にすべきことだね」
「……え?」
「説明が全然足りなかったようで悪かった。
“純粋なもの”というのはね、“美しいもの”ではなく、“無垢なもの”だよ」
 想いの強さではなく、むしろ正反対なのだと彼は言う。
「核を生成する為のアトラスの力とは、“アトラスの傷跡”の中で溜められた、膿のようなものだ。
 それが、五百年に一度昇華する。限界まで溜められて破裂するようなものだね。
 それを、破裂する前に媒体に集めて浄化し、『核』にする。
 私には詳いことは解らないが、限界まで溜まった状態でないと結晶化されないらしいし、最深部のその場所でしか生成できない。
 力を浄化して結晶化できる媒体は、宝石のように美しいものではなく、ガラスのように透明なもの、と言うと解りやすいだろうか」
 ハルカ、と、オリヴィエは、横で話を聞いていたハルカを呼んだ。
「選んでくれるかい」
「ハルカにできるのです?」
「勘でいいよ」
 ハルカはオリヴィエを見上げた後、『核』の媒体にと提案された品々を見つめる。
 ブローチ、折鶴、誓いのリング、ぱんつ――ハルカが手に取ったのは、清泉北都がどうだろうかと差し出した、『ドラゴンドロップ』だった。
 それは、かつて北都が、龍の背山脈の地下深くに存在していた、エレメンタルドラゴンから得たものだ。
 持っているようにと言われて、ハルカはそれを預かる。