First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last
リアクション
目指す未来へと
「ナージャさん、どうしてそう悉くポチ君を蹴散らして歩くんですか!」
「えーわざとじゃないよ、この子が偶然居るんだよ、足元に」
ぶつぶつと何かに没頭しながら歩いていたナージャ・カリーニン(なーじゃ・かりーにん)の足の下で、豆柴が無残に潰れている。
「こ、これくらい、かつてあの師匠の地獄の修行を耐え抜いた僕には大したことじゃないです……っ!」
今日も今日とて、我慢のワンコ。
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)のパートナーである忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は、空京で機晶技術を研究するナージャの弟子となった後、ほぼ毎日ナージャの研究室で研究に明け暮れ、時には講義に潜り込んだりもして、勉強に没頭していた。
端末操作等、人の姿が必要でない、休憩中や食事中等はいつもの豆柴犬の姿でいるのだが、歩く時にはレポートを読みながらか頭の中で何かの数式を組み立てているかで常に前を見ていないナージャに、しょっちゅう踏まれたり蹴られたり挟まれたりの虐待状態だ。
弟子レベルを上げて、ナージャに踏まれないようにすることが、ポチの当面の目標でもある。
「あの、ナージャ博士。雑談がてら、話をしていいですか」
休憩中、コーヒーを飲んでいるナージャの手に珍しくレポートも無く、ポチは、聞いて欲しいと思っていた話題を出した。
自分が、機晶技師を目指す原因でもある話だ。
「うん? いいよ、何だい」
豆柴の姿でナージャの机の上、かしこまるポチに対し、ナージャは鷹揚に先を促す。
「最初に話した、暴走する機晶姫の子についてです……」
「うん」
その話か、とナージャは頷く。
「察するに、大体原因は解ってるんだね」
「実は、僕自身はその子の暴走を見たことがないのです。
ただ話は聞いているから知ってます。
その子はいつもフードを被っているのですが、フードを通さず敵を直視すると発動するようです。
恐らく眼球にセンサーがあり、敵を感知すると強制的にモード切替されると考えてます」
「ふむ」
「フードを外して確認すれば早いのですが、その……何故か僕の場合、大丈夫で……。
素顔は何度も見てますが、暴走の兆候は無いのです。
パートナーでも駄目かもしれないという話もあるので、判断条件が明確ではなく、そこを解明するのがキーなのかもしれません」
「解明っていうか……それはひょっしてアレじゃないの」
ぼそり、とナージャは呟く。もしかして、これもエラー君てやつ?
「暴走時の記憶もありませんが、これは純粋に精神負荷軽減の為と考えてます」
「中は開けてみたのかい? 眼球の入れ替えは?」
「そ、それはまだです。ちゃんとした、機晶技師になってからと……」
「面白そうだね。私が中を見てみようか? っていうか見てみたい。見せて。
君が一緒にいれば暴走しないんだろう?」
キラキラと瞳を輝かせて身を乗り出すナージャに、う、とポチは言い淀んだ。
きっと、そうできれば話は早いのだろう。ナージャになら、原因の解明と治療が出来るのかもしれない。けれど。
ポチの様子に、くすくすとナージャは笑って身を引いた。
「ちぇー。駄目かぁ」
「ナージャさん、意地が悪いですよ」
同室で資料の整理をしながら、話を聞いていた彼女の助手が溜息を吐く。
「ははは、ごめんごめん。
私がやっても意味が無いんだよね。君にとっても、多分その子にとっても」
ぽん、とナージャはポチの頭に手を乗せる。
「君は優秀だよ。きっとその子を助けることができる」
ナージャに話したのは、自分が抱える、決意の表明。
ポチはこくりと頷いた。
First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last