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黄金色の散歩道

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あなたの居る朝
 
 
 ふと眠りが浅くなり、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は重い瞼を持ち上げた。
 朝が近いらしい。まだ薄暗く、シンとしている。
 目は開いたけれど、頭はぼんやりと虚ろで、再び目を閉じる。
 まだ起きたい気分じゃない。
 素肌にかかるシーツの感触と、もたれる男の素肌の胸の鼓動を感じつつ、ゆかりは再び目を閉じた。


 夏のイルミンスールで、ゆかりと経堂 倫太郎(きょうどう・りんたろう)が恋人同士になってから、一ヶ月近くが過ぎていた。
 そしてこの一ヶ月後が、恋人となってからまともに会う、初めての逢瀬だった。
 倫太郎は長期休暇中だったが、ゆかりはすぐに休暇が終わり、その後休みも取れずに働き尽くめ、結局その後全くと言っていい程接触無く、一ヶ月も経過してしまったのだ。
 ようやく休みの取れた昨夜、ゆかりは空京に倫太郎を呼び出した。

 倫太郎はと言えば、晴れて恋人になったと思いきや、ゆかりがさっさと仕事に戻って行って、取り残された格好。
 恋人になったからといって、すぐにデレデレしないのは彼女らしいし、自分達らしいと思うが、どうにもモヤモヤしていた。
 自分の中のゆかりへの思いの大きさに驚く。
 ずっと褪めた恋愛しかしてこなかった自分達にとって、全く意外で気持ちを持て余してしまう。
 そんな思いを抱えていた所に、ゆかりからの呼び出し。
 ゆかりが不器用に、自分を振り回そうとするのを見て、愛おしさがこみ上げた。
 ああ、本当に全く、恋は理屈ではいかないものだ。

 最初の出会いから、二人は一年半振りに身体を繋げた。


 ゆかりは再び目を開ける。
 窓から朝陽が射していて、時間の経過を告げていた。
 倫太郎の手が、ゆかりの身体を彷徨っている。
「……なに、まだ足りないっていうの……」
「起きたか」
 くすくすと倫太郎が笑った。
 自分の胸の上に頭を凭れて眠るゆかりに、最初は腫れ物を扱うように触れていたのだが、段々と愛撫に変わって行った。
 半ば確信犯だが、ゆかりが目を覚ましたのを見て、その唇にキスをする。
 少し機嫌が悪くなったようなゆかりが、両手を伸ばして倫太郎の体の上に乗り上げ、抱きつきながら、キスを返した。
 存分に互いの唇を味わった後で、ゆかりがじろりと倫太郎を睨みつける。
「……起き抜けのキスは、女から先にするものよ。私に恥をかかせる気?」
 自分が振り回してやるつもりだったのに、昨夜は結局、流されるまま情事に溺れてしまった。
 今朝は自分から仕掛けるつもりでいたのに、と、ゆかりは二度寝を後悔する。
「何を言ってるんです、大尉殿?
 何事も先手を打つのが勝利の条件じゃないですか」
 しれっとして倫太郎は答え、ゆかりは、拗ねたような表情になった。
「……大尉はやめて。
 今の私は大尉じゃないわ。……ただのカーリーよ」

 勿論、わざとそう呼んだのだ。倫太郎は、胸の上の可愛いゆかりの反応にくすくす笑う。
「カーリー」
 名を呼び、ゆかりの頬に手をあてた。
 その感触に震えるように、ゆかりは濡れた目で倫太郎を見つめる。
「……君が今、大尉じゃないのは解った。
 でも、オレにとっては、“ただの”カーリーじゃない。
 “ただ一人の”カー」
 言えたのはそこまで、倫太郎の唇が塞がれる。
 二人は再び、長く甘く、激しい口付けを交わした。
 やがて唇を離して、けれど触れ合う寸前の距離のまま、ゆかりは艶然と笑う。
「一年半前の仕返しよ。
 今日はこのままずっと……私と愛し合うのよ。覚悟なさい」
 仰向けに横たわったまま、倫太郎は身の上のゆかりに両手を回した。
「仰せのままに」