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黄金色の散歩道

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戦姫たちの休日

 地球の千葉県にある巨大レジャーランド。
 平日の今日も大変賑わっていて、イメージキャラクターの帽子やカチューシャをつけた人々が楽しそうに行き交っている。
「次はあれ予約しておこう!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が指差したのは、池の中も走行するジェットコースターだ。
「そうだな、その次はあれか」
 リハビリ中の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)が指差したのは暗い室内を走行するジェットコースター。
「優子さん、本調子じゃないのに激しいのばかり、よくないですよ」
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が心配そうに優子を見る。
 神楽崎優子は、初夏に受けた神経毒の影響で、身体に痺れが残っており、身体能力も普通の地球人ほどに落ちてしまっていた。
 普段は要人の護衛をしている彼女だが、まだ一人で外出できる状態ではなく、外出時は逆に護衛が必要な状態だ。
 世界の状態も落ち着き、優子の状態も落ち着いていることから、ルカルカとダリルは一緒に楽しむために、優子とアレナを誘って地球の遊園地を訪れたのだ。
「待ち時間が長いから、そんなに乗れないだろうし……。アレナは心配症だな」
「優子さんが無茶しすぎなんですよ……」
 言って、アレナはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に目を向けた。
 ダリルは軽く頷くと、ぐいぐい自分の手を引っ張って進もうとするルカルカ手を逆に引っ張って落ち着かせる。
「ああ、んー、そうね。ルカと優子さんの好みは一緒みたいだから、間にダリルやアレナの好きな乗り物挟むと良さそう? 2人はどこ行きたい?」
 歩調を緩め、ルカルカが皆に問う。
「俺はこれか」
 パンフレットを開いてダリルが指差したのは、バーチャルで射撃をする乗り物だ。
 街にあふれているモンスターを倒して、ゴールを目指すものだ。
「あ、得意分野だと思って積極的じゃん。こういう場所は柄じゃないとか言ってたくせにー」
「う、五月蝿い。いいだろ、射撃が好きなんだから」
「私もこういうの、乗りたいです。射的、得意なので……っ」
 パンフレットの説明を見て、アレナが嬉しそうに顔を上げた。
「それなら、ペアで挑戦するか。ルカルカと私がそれぞれ運転に専念して、ダリルとアレナが射撃に専念して競うというのはどうだ?」
「はい、負けません……っ」
 優子の言葉に、アレナは目を輝かせて、挑むようにダリルを見上げる。
「どうやら、遊びとはいえ手はぬけないようだな」
「元々抜く気なかったくせにー!」
「五月蝿い」
 ルカルカが突っ込みを入れ、ダリルがちょっと照れる。
 優子とアレナはそんな2人の姿に微笑んで、顔を合わせてまた笑い合う。

「つ……次は負けません……」
 バーチャル射撃ではアレナの完敗だった。
「ダリル、大人げない」
 じとーっとルカルカがダリルを見上げる。
「手を抜いたら失礼だろう。アレナの射的の腕は確かな物だし。ただ、銃と弓の違い、現実とバーチャルの違いというものがあってだな。それにだな、えーと……」
「ふふっ」
 一生懸命フォローしようとしているダリルの姿に、アレナの顔に笑みが浮かんだ。
「はい、ちゃんとした弓矢での射的なら負けないです。ダーツも得意だと思います! ……でも、弓の射的ってないんですよね……」
 あたりを見回すが、コルク栓式銃の射的が出来る場所はあるのだが、弓矢の射的は存在しない。
「ならば今日は、俺がアレナの好きなものを取ってやろう」
「あ、ルカのも!」
「ルカは自力で取れ」
 笑いながら答えて、ダリルは射的コーナーへと向かった。
「あの、ネズミのお耳の帽子欲しいです」
「ああ、ここのイメージキャラクターの帽子だな。アレナに似合いそうだ、任せておけ」
 ダリルは銃を構えると、狙いを定めて、一撃でキャラクターの帽子を落とした。
「他には?」
「あとは、あのトラさん模様のお耳の帽子が欲しいです」
「あれか……紐の部分を狙えば……!」
 身をかがめて、帽子を繋いでいる紐の部分を狙って、ダリルは虎の帽子も落した。
「他にもあるか?」
「ええっと、あの大きなキャンディ、舐めてみたいです」
「ははは……あれか」
 ダリルは軽く笑みを浮かべながら、ロリポップキャンディーを狙い落した。
「ルカもー! えーい」
 ルカルカも3弾のうち、2弾を命中させて、ネズミ耳の帽子と、キャンディを落とした。
 貰いすぎて申し訳なく思ったため、店員にチップを渡して。
「それじゃ、次いこー!」
「次は、お待ちかねのジェットコースターだな」
 ルカルカと優子がジェットコースターへと歩き、ダリルとアレナがその後ろからついていく。

 ジェットコースターの時間まで、まだ少し余裕があったので、皆が並んでいる間に、ダリルがクレープを買ってきてくれた。
「さすが気が利くなあダリル、あんがと♪」
 ダリルがルカルカに買ってきたのは、秋限定のモンブランクレープ。
 栗のクリームとホイップクリームが沢山入ったクレープだ。
 アレナには特製・秋のフルーツミックス。
 優子にはパンプキンプリンのクレープをそれぞれ差し出した。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
 アレナと優子はそれぞれ喜んで受け取り、互いに中を見せ合っていた。
「ダリルのはなんだろ」
 ひょいとルカルカはダリルが自分用に買ってきたクレープを取り上げる。
「もぐもぐ、……ふむ、ツナサラダのようね」
「食べて確かめるな、見れば解るだろう」
 苦笑しながら、ダリルはルカルカから自分のクレープを奪い返す。
「それにしてもお前たち……なかなか良いな、それ」
 可愛いと言いたかったのだが、照れて言葉にできなかった。
 ルカルカとアレナは先ほど手に入れた、キャラクターのもの帽子を被っていた。
「でしょー。それでね、みんなで合わせるべきだと思って、ダリルがクレープ買いに行ってるあいだに、そこでゲットしておいたの」
 ルカルカがにやりんと微笑みながら、スタンダードなネコ耳の帽子を取り出した。
 途端、ダリルは足を一歩後ろにひいた。
「まて、俺にそれを被れと? この年で男が、それはちょっと……」
 言いながら、優子の方に目を向けると。
「観念しろ、ダリル・ガイザック。この地には、郷に入っては郷に従えということわざがある」
 遠い目をしながら言う優子は、虎模様の耳のついた帽子をかぶっていた。ダリルがアレナに頼まれてとったものだ。
「みんなで、おそろい、ですっ」
 隣に嬉しそうに微笑んでいるアレナの姿がある。
「いやしかし、俺がネコミミはない、ネコミミはないだろうっ」
「あ、ダリルさんクレープが落ちそうに」
「ん?」
 自分の手にダリルが視線を落とした瞬間に。
「てえーい!」
 ぽふっと、ルカルカがダリルの頭にネコミミ帽子を被せた。
「…………」
 薄らと赤く染まったダリルの顔を見て、優子の口からぷっと笑いが漏れた。
「……神楽崎……随分と似合ってるじゃないか、“可愛い”ぞ」
「ふっ、お前ほどじゃない」
 もふもふ虎耳優子とふわふわ猫耳ダリルがにらみ合う。
「ふふふ、みんなお揃いで、可愛い、です」
「はーい、写真撮るよ〜」
「撮るな」
「それはやめてくれ」
 デジカメを取り出したルカルカを、ダリルと優子が連携して止める。
「もったいなーい、じゃ、写真は後でね」
 ホントもったいないとルカルカは思う。
 自分達は今、この夢の国の住人だから。
 そして、3人がこの国で、とても幸せそうな顔をしていたから。
 この瞬間を写真に収めたいと思った。
「うふふ、なんだか凄く楽しいね。
 また絶対遊びにこようね」
 満面の笑顔のルカルカの言葉に、ダリルと優子は「ああ」と答え、アレナは「はいっ」と元気よく返事をした。
「時は巡っても、私達ずっとずっと……!」
「仲間だ。もう二度と、戦場で剣を交えることはない」
 優子のその返事に、4人は目を合わせて。
 世界の未来を築く仲間として、強い瞳で頷き合った。
 
 ちなみに、この後ダリルはすぐにネコミミ帽子を外してしまったが……。
「アレナは他に行きたい場所あるか?」
 並んで歩きながらダリルがアレナに尋ねると。
「そうですね……お城に行きたいです。あそこで童話のお姫様の格好をして、写真をとってもらえるそうなんです」
「そうか、ドレス姿で3人で撮ってもらうといい」
「全員一緒がいいです。みんなで夢の国の格好で、写真です」
「……衣装はドレスしかないんだろ?」
「はい。皆でお姫様、です」
 ダリルを見上げながらにこにこ、アレナは微笑んでいた。
「……まて、アレナ。それはさすがに、待て」
 ダメですか? というような残念そうな目で、アレナはダリルとダリルが持つネコミミ帽子を見る。
「わかったわかった、そんな目をするな」
 その後は観念して最後までふわふわなネコミミを付けていてくれたという。