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黄金色の散歩道

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決意

 日本の関東地方にあるとある温泉街。
 ひなびた温泉宿の一室で、ブラヌ・ラスダーはぐでっと倒れていた。
「折角温泉に来たのですから、ブラヌさんも入ってきてはどうでしょう?」
 妻の牡丹・ラスダー(ぼたん・らすだー)が、ゆさゆさとブラヌを揺する。
 普段なら、家族風呂を予約して一緒に入ろう! と言うであろうブラヌだが。
 なんだか今はもう、屍のような状態だった。
 というのも、今日、ブラヌと牡丹が地球に訪れたのはただの観光旅行のためではなく。
 牡丹の実家に、結婚の挨拶に訪れたのだ。
 世界の状態も安定して、ようやく落ち着いた時期であり、ん百万という旅費がなんとか工面出来たたため、随分と遅くなってしまったが、結婚の報告に来たのである。
 牡丹は小さな頃から機械いじりばかりやっていた娘だった。
 そんな彼女が普通に結婚する姿はイメージできなかったようで、ブラヌがどんな人物だとかはあまり気にせず『お前が結婚できるとは思わなかった……おめでとう』と二人を祝福してくれた。
 それで、それだけで終われば、楽しい地球旅行で済んだのだが。
 牡丹には他にどうしても結婚の報告をしたい人物がいた。
 それは、技術士としての知識やスキルを教えてくれた師匠だ。
「無理……湯船であんなの続いたら、のぼせて死ぬ」
 倒れたまま、ブラヌが声を発した。
 牡丹はこの老舗の温泉宿に師匠を招いたのだ。
 そして、ブラヌと対面させた。
 2人で挨拶をしたのだけれど……師匠はブラヌを睨みつけるような顔で黙ったまま、何も言わなかった。
 沈黙が5分、10分と続き。
 ブラヌもその間、微動だにせず、硬直していた。
 あまりにもその状態が長く続いたため、牡丹は師匠に先に温泉に入ってはどうかと入浴を勧めたのだ。
(ブラヌさん達がお風呂に一緒に入る姿……面白いものが見れそうですけれど、一緒には行けないですしね〜)
 くすりと、牡丹は笑う。
 師匠は強面で体つきもよい。
 ブラヌが緊張するのも無理はない相手だった。
 だけれど、牡丹は師匠の性格を知っている。
 師匠が外見とは違い、非常に優しい人であることを。
 睨み据えるようにブラヌを見ながら、牡丹が結婚したことを喜んでくれていたことが、牡丹には解っていた。
(嬉しくて言葉が出なかった……ということですよね)
 トン トン トン。
 足音が響いてきた。途端ブラヌが弾けるように起き上がった。
 そしてまたビシッと正座をする。
「お帰りなさい、どうでした?」
 牡丹がドアを開けて、師匠を部屋へ迎え入れる。
 師匠は軽く頷き、部屋に入ると、またブラヌの前に座った。
 そして腕を組み、多少赤くなった顔で、ブラヌを見るのだった。
(温泉に入ったせいで、迫力が増しましたね……。また面白い状態になってますけれど、どうしましょうか)
 牡丹はブラヌの隣に真面目な表情で座りながら、心の中でくすくす笑っていた。

 翌朝。
「ぼーたーん、そういうことは早く言え、会う前に言え〜っ」
「ふふふふ、ごめんなさい。まさかあのような状態になるなんて、思いませんでしたので」
 すっかり誤解はとけて、ブラヌは師匠とがっちり握手をして別れていた。
 でも緊張して疲れたせいか、宿の中でごろりと横になっている。
「けど……なんかさ、今回のことで、俺痛感した」
「何をですか?」
「お前の両親とか師匠とか、友人に、何も言えないってこと。牡丹の結婚相手として相応しい部分が、俺にはなーんもないってこと」
 自嘲気味に笑い、少し間を置いたあと、ブラヌは天井を見上げながら言う。
「今度、来るときはさ。何か一つでも胸を張って言えたらって思う。
 それとさ、こんな俺でも、牡丹の結婚相手として許してくれたみたいで……すげぇ嬉しい」
 だから、約束すると、決意を籠めた目で、ラヌは牡丹を見た。
 キミに相応しい男になると。