空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

君を待ってる~封印の巫女~(第1回/全4回)

リアクション公開中!

君を待ってる~封印の巫女~(第1回/全4回)

リアクション


第1章 夏満喫!(プール)
 青い空、燦々と照りつける太陽。
 水面はキラキラと輝き、歓声と嬌声、笑い声があちこちから響く。
「恭司!」
 橘恭司(たちばな・きょうじ)は、ニコニコと手を振るクレア・アルバート(くれあ・あるばーと)に、少しだけ躊躇った後、手を振り返した。
「どうも落ち着きませんが……クレアが楽しそうですから、良いとしますか」
 とはいえ、直前までどうして一緒に泳がないのか、と詰め寄られたのは確かだった。
 実際、プールサイドでパートナーや友達に付き添っている者達も、恭司のように制服姿というのは珍しかった。
 強いて言えば、村雨焔(むらさめ・ほむら)が水着ではないが……こちらはいつもの漆黒の外套姿なので更に浮いていたり。
「ほ〜む〜ら〜!」
 やはり焔も、パートナー……アリシア・ノース(ありしあ・のーす)の付き添いらしい。
 胸にでっかく「ありしあ」と書かれたスクール水着。小さな身長と凹凸の少ない……ぶっちゃけぺったんこな身体つきで幼く見えるが、実は年はクレアとそう変わらない。
「なのに、クレアばっかり育ってずるい!」
「育って……って」
 女性らしい身体つきを指差され、思わず赤くなるクレア。チラと恭司を伺うが、反応はない……ちょっと残念だ。
「え〜、二人はまだ良いよ。蒼人なんか付いてきてもくれないよ。放置プレイなんて酷すぎるよ!」
 二人とも贅沢だよ、と膨れるのは葛稲蒼人(くずね・あおと)のパートナーである神楽冬桜(かぐら・かずさ)だ。スラリとした身体を包む赤と白の競泳水着は、背の高い冬桜にとっても良く似合っている。
 だからこそ、見せたい相手がいないのは非常に残念且つ、腹立たしい様子で。
「ま、何やかんや言っても焔は優しいし」
「あら、恭司だって」
「む、それを言ったら蒼人なんかねぇ」
 競泳プールのど真ん中でパートナー自慢を始めた三人に、恭司と焔は顔を見合わせ……ほぼ同時に溜め息をついた。
 そんな二人の耳にも届いた、負けないくらいの歓声。
「うわぁ〜、さすが噂に高い蒼空学園のプールです」
 妖艶な肢体を布切れ……もとい悩殺ビキニに包み、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)だ。
 妖艶な外見、扇情的な肢体、周囲の男の子達の視線は釘付けなのだが、本人は全く気づいていない。
「おぉぉぉぉぉっ、大波到来〜♪」
 波に合わせて浮き沈みを楽しむ様は随分と無邪気で年相応……そう、外見はどうあれ実際は若干13歳の女の子☆、なのだ。
「随分とはしゃいじょる」
 プールサイドで見守るシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)もまた、魅力的な女性だった……まぁ外見は。
「わしは相手をする気はないけん、他を当たるんじゃな」
 下心丸出しのナンパを軽くあしらいつつ、シルヴェスターは水遊びを満喫するガートルードに、目を細めた。
「真君、どこ見てるのかしら?」
「あっいや、別に……」
 楽しそうだなぁ、とガートルードを見るともなしに見ていた椎名真(しいな・まこと)は、背後からの声に振り返った。
 勿論、そこにいたのはパートナーである双葉京子(ふたば・きょうこ)だった。
 いつものように穏やかに微笑み……おや?、ちょっとだけ背筋がゾクっとしたのは気のせいだろうか?
「あれ?、何か怒ってたり、する?」
「いいえ、怒ってなんかいませんよ?」
 にこにこにこ。だけどやっぱりその笑顔がちょっと怖い気がして。
「その水着、似合ってるね」
 そうチョイスしたのは無意識だった。実際、黒のワンピース水着は京子にバッチリ似合っていたし。
「……そうかな? ちょっと恥ずかしいけど、そう言われると嬉しい、かな」
 途端、はにかんだ笑みを浮かべた京子……どうやら危機は去ったらしい。
「じゃ、泳ごうか」
「……うん!」
 差し出した手に手を重ねられ。二人はプールへと向かった。
「ぷはぁっ!?……何故じゃ!? 何故浮かぬのじゃ!」
「ちょっサイカ、暴れない……てか、力が入りすぎなんだって!」
 天津諒瑛(あまつ・りょうえい)サイカ・アンラック(さいか・あんらっく)もその一組だった。
「むぅ、我は別に泳げないわけではないのじゃ。ただ、今まで泳ぐという経験がなかったからその……ちょっとだけ、ちょっとだけじゃな」
「うん、分かってる」
「う……分かっておるなら、良いのじゃ」
 鷹揚に頷いて見せつつ、サイカは内心臍を噛む思いだった。
 今まで、泳げず困った事はなかった。だが、今年。諒瑛と共に出かけた海。その時気づいたのだ、泳げたら……一緒に泳げたらどんなに楽しいだろう、と。
 だから少々腹は立つが、こうして教えを受けているのだ。
 直ぐに渚のマーメイド、諒瑛をビックリさせる事が出来ると信じていたが……現実はそう甘くなかった。
「大体、諒瑛の教え方が悪いのじゃ!」
「いや、もっと身体の力を抜いて……水の中でも目を開けられるようになると上達……わぷっ」
「えぇい、うるさいうるさいうるさいのじゃ〜!」
 言いつつ、バシャと諒瑛に水をかける。思いがけない攻撃に、困ったような驚いたような顔になった諒瑛が何だか面白くて、サイカは攻撃続行する。
「この〜、やったな」
「なっ、頭上からとは卑怯じゃ……ならば!」
 いつの間にか泳ぎのレッスンは、盛大な水遊びへと変わっている事に、サイカは気づいたが。
(「まぁこれはこれで楽しいのじゃ」)
「うわっ意外とスピードでたね」
「いい絶叫だったな」
「え〜っ、そんなに声出てたかなぁ?」
 ウォータースライダーを楽しんだ倉田由香(くらた・ゆか)ルーク・クライド(るーく・くらいど)に「ひど〜い」と軽く抗議だ。
「由香の声はよく響くんだよ」
 腰に手を当て詰め寄られたルークは、視線をツイと逸らした。
「ん? どうしたの?」
「……別に」
 今日の由香は可愛い水着を着ている。
 無頓着な由香は気にしていないが、微妙に落ち着かないルークだったり。
(「てかそこの奴、断りもなくドロドロ見てんじゃねぇ!」)
「るーくん?」
「……ほら、面白かったなら、もう一回行くぞ」
 むっと唇を引き結んだまま、ルークは由香の手を引いた。
 しっとりと濡れた感触にドキリとするが、今更放すのもアレなので素知らぬフリで。
「え……あれ?、何だろう……?」
 そんなルークの動揺やら葛藤やらにはやはり全く気づかず、由香はウォータースライダーを……正確にはその斜め上辺りを見上げ、ポカンと口を開いた。
「ライは顔に似合わずかわいい水着だねぇ」
 ウォータースライダーに向かおうとしていたライ・アインロッド(らい・あいんろっど)は、ヨツハ・イーリゥ(よつは・いーりぅ)のからかいを含んだ指摘にホンの少し顔を赤らめた。
 履いているのは普通のハーフパンツ、但し、猫キャラのプリントがされている。
「む、いいでしょう。動物好きなんですから」
 そう言うヨツハは、セパレートの水着だ。気にしている太めの足は、パレオで隠しているのでバッチリだ!
「悪いとは言って無い、褒めてるんだよ」
「……ヨツハ」
 不意に、ライの声が鋭さを含んだ。
 その視線の先を追ったヨツハにも、直ぐにその理由が分かった。
 盛り上がる水、屹立するそれを、目撃して。

 ジュッジュウ〜。
 音と共に、当たりにソースの良い香りが漂う。
「夏のプールといったらやっぱりコレだよな」
 出水紘(いずみ・ひろし)はプールサイドの出店で、ヤキソバを焼いていた。
 慎重な性質の紘の焼くヤキソバは、味も焼き方も具の配分も絶妙との噂で、中々好評だった。故に出店の前は客の人だかりで……その異常に気づくのが少し、遅れた。
 聞こえてきた悲鳴と、プールを振り返り硬直する客達。
 そして、顔を上げた紘は見た。
 プールの中央、すっくと頭を持ち上げた巨大な水の蛇を。
「まいった!! これじゃ客足が遠のく!! バイト代が!!」
 叫びつつ、紘の行動は速い。火を止めエプロンを外し、外に飛び出す。
「逃げろ!」
 紘の鋭い警告に、我に返った生徒たちが悲鳴を上げプールから離れようと駆け出す。
 その動きにつられる様に、蛇がその鎌首を動かし。
「こっちだ!!」
 見て取った紘は【ツインスラッシュ】を放ち、蛇の気を引く。
 逃げる人達とは反対方向……プールへと駆けながら。
「何かおっきぃプールがあるって、友達に誘われて来てみたけど……何ですか? あのおっきぃ水蛇は?」
 さぁこれから泳ぐぞ!、と張り切ってきたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の目の前に広がるのは魅惑のプールではなく、阿鼻叫喚の地獄絵図(誇張☆)だった。
「あら? 面白いアトラクションですねぇ」
「そんなわけないでしょ!」
 のほほんとした和泉真奈(いずみ・まな)の言葉にとりあえず突っ込みを入れ。
「あぁ、楽しみにしてきましたのにぃ」
 ガックリとうな垂れる。
「え? 違う? あれってホントに襲われてるんですか? でしたら何とかしないと!」
「……そうね。放ってもおけないし。避難とか治療とか、人手はいくらあっても困らないでしょ」
 真奈に頷き立ち上がると、ミルディアは宣言した。微妙に、ヤケッパチ気味に。
「……」
「……」
 胸元に「めいべる」と書かれた名札付きの、百合園指定のスク水。その上にパーカーを羽織ったメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)と、やはり同じ格好をしたパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は、口をポカンと開けて水蛇を見上げていた。
「さすがは蒼空学園、随分と派手なアトラクションですねぇ」
「うん、それはさっきミリィちゃんと真奈ちゃんがやったから」
 肩を落としつつ、セシリアはチラとメイベルを伺った。
「今なら、避難する人達と一緒に帰れる、けど……」
「あぁっ、大変ですぅ。ボク、大丈夫?」
「そうだよね、こんな状況で保身に走るメイベルじゃないよね」
 人並みに押され転んだ男の子に、当然のように駆け寄るメイベル。
「あらあら膝小僧がちょっと擦りむいてしまっていますぅ……痛いの痛いの、飛んでいけ〜」
 泣かないの偉いね、優しく頭を撫でてやると男の子はぐっ、と手の甲で目元を乱暴に拭った。
「どけっ!?」
 その小さな背がドン、と後ろから押された。
「こんな所でボサッとしてんな!」
「……! ケガした小さな子にそんな言い方ないでしょ!」
 カチン、ときたセシリアの手は、メイベルが止める間もなく、パン、その男性の頬を張っていた。
「……ぁ」
 頬を抑えた男性は、まるで夢から覚めたみたいに呆然と立ち尽くす。
 コロン
 密やかに、何かが零れる音。
 それが何なのか考える間もなく。
「……悪かった」
 とか何とか言いながら、男性はそそくさと立ち去った。
「皆さん気が立っているのですぅ」
「でも確かに、ここでのんびり消毒ってわけにもいかないか」
「そうですね。うん、あっちでお姉さんが手当てしてあげますね」
 どうやら連れとはぐれたらしい男の子は、安心したように「うん!」と大きく頷いた。

「着替える前からコレどすか……」
 扇いでいた扇子をパタンと閉じ、一乗谷燕(いちじょうだに・つばめ)は一つ溜め息をついた。
 ロッカーに余分な荷物を仕舞い込む。その余分な荷物の中に、新調したばかりの水着が含まれているのが、その理由である。
「とはいえ、あんなモノ放っておくわけにはいきまへんなぁ」
 パタン、僅かな未練を断ち切るように扉を閉めると、燕は外へと、小型飛空艇へと向かった。
「ウイッカー」
 避難する人並みを器用にすり抜けたガートルードからは、先ほどまでの無邪気さが拭われていた。
「動くのは避難が終わってからじゃ」
「うん、分かってる」
 二人は油断なく周囲を見回し、機会を待った。
「恭司!」
「とにかく、避難する人々の後を追わせるわけにはいきません。クレア、皆が避難を終えるまで、あれをプールに足止めしますよ」
「了解!」
 恭司とクレアは直ぐに臨戦態勢。
 プールの縁で蛇を迎え撃つ態勢を取る。
「遅いよ、蒼人!」
「ごめん……って、さすがに早いな」
 一方、いち早くプールから脱出した冬桜は、小型飛空艇で駆けつけた蒼人に一応怒ってみせた。蒼人なら絶対に来てくれる、そう信じていたからここに居た……言葉にせずとも互いに伝わるのは、長い付き合いだから。
「よし、とにかく空から行くぞ」
「うんっ!」
「今の光……花壇の方からじゃ!」
「うん。だけど、今の光が気になるんだ」
 諒瑛はサイカに思慮深く頷いて見せた。
 黒い光。飛び散ったそれは細かく細かく空中に溶けた、ように見えた。
 けれど瞬間の、ザラリとした妙にイヤな感覚。
「水の蛇以外にも異変が起こっているかもしれない……」
「後顧の憂いは断っておいた方が良いという事じゃな」
 了承を得てから、二人は慌しく小型飛空艇へと向かった。
「……わっ」
「何じゃ?」
「えっとううん、何でもない、けど」
 そういえば水着のままだった……密着した肌と肌にドキドキした諒瑛は、「行くよ!」誤魔化すように小型飛空艇を始動させた。
 背後で、そりゃもうどうしようもないくらい真っ赤になったサイカには、気づかぬままで。

「……士?」
 偶然プールの近くを鳴海士(なるみ・つかさ)と共に散策していたフラジール・エデン(ふらじーる・えでん)は、水の蛇に気づきプールから離れようとする人ごみの中、大切なパートナーの姿を見失った。
「……士、どこ?」
 呼んでも答えがない、姿が見当たらない、心が……どうしようもなく暗く沈んでいく。
「士……どこ?」
 ふらりと歩き出すフラジールの背中、黒い光がチカリと瞬いた。