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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第2回/全6回)

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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第2回/全6回)

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第3章 穴があるから入りたい

 教導団の一部は大荒野辺境の不穏勢力に奪われた戦車開発部品を奪還するため、ハンナ・シュレーダー少佐を指揮官とする、シュレーダー戦闘団を編成し、追跡を行っていた。その結果、どうやら犯人とおぼしき連中が大荒野最東部の遺跡周辺にいることが判明した。現在、シュレーダー戦闘団はその遺跡周辺に展開中である。
 「とりあえず、今の所確認されている出入り口は五つ……もう一、二個あるかしらね」
 シュレーダーは遺跡からやや離れた丘の影に作った臨時本部にいる。現在、戦闘団は周辺の要所を固めつつ様子を探っている。
 「シュレーダー少佐」
 やや思い詰めた様な表情でやってきたのはイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)である。
 「概ね展開は終了したのかしら?」
 「もうすぐと思いますが……」
 セルベリアは歯切れ悪く言った。
 「現状で突入作戦をお考えの様ですが、内部に突入しての作戦は中止してもらうわけにはいかないだろうか?」
 「ん……?また何で」
 「遺跡はシャンバラの人々にとって大切なものだと思う。このまま踏み込んで遺跡に被害が出てはシャンバラの人々の敵意を抱かせることになる。部品を失うことになってもここは穏便に済ませる方が良いのでは?」
 「ま、気持ちはわかるけどね。半分正しいけど半分間違い。ここは『遺跡』なのよね。本来すでに人が住んでいないところに正体不明の連中がいる。これは無視できないわよね」
 「でも銃器を装備した軍勢がうろうろしていたらシャンバラ人にとっては嫌なものだろうし?」
 「私達だって部品を奪った連中がうろうろしているのは嫌に決まっているけど?まあ、とにかくはっきりさせてさっさと撤収するわ。私達としては部品をあきらめるわけには行かないし、武装して襲う連中を放ってはおけない。出所不明の銃器を持っている連中がいればなおさらね」
 シュレーダーはあくまで部品を奪還するつもりである。
 「私だってはなっから手榴弾を使うつもりはないし、そこまで言うなら連中を引きずり出す策でも提示して言うべきね。一方的な譲歩は敵対する連中を増長させるわよ」
 そもそも簡単に部品をあきらめられるならここまで追っては来ない。また連中の正体をそれなりに突き止めないと再び物資が奪われる事になるのはほぼ確実である。
 そこに、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)セバスチャン・クロイツェフ(せばすちゃん・くろいつぇふ)がやってきた。
 「少佐、概ね確認できる出入り口に班を配置し終えました」
 「ご苦労さん」
 シュレーダーは報告するルーヴェンドルフにうなずくともう一人のオヤジ?に胡散臭げに視線を移した。
 「これはまた老けたのが来たわね」
 基本、教導団員は下士官クラスの軍人なので老人は珍しい。
 「私、ルーヴェンドルフ様の養育係をしておりましたクロイツェフと申します。この度はルーヴェンドルフ様のため、そのお手伝いをするべく参上した次第」
 「ふーん、なるほど。おむつのとれない坊ちゃんが心配な訳ね」
 さすがに最前線に養育係が来るというのはシュレーダーに言わせれば過保護である。
 「まあ、養育係ってことはあんたは何でも知っている訳ね?」
 「それはもう、このクロイツェフ、ルーヴェンドルフ様の養育を先代様より任され幾星霜。知らぬ事はございませぬ。ルーヴェンドルフ様のおしめを替えたのも不肖、このクロイツェフにございます。ルーヴェンドルフ様ご幼少のみぎりのお漏らしの回数からつまみ食いでしかられた日時まですべて克明に記録して……」
 「貴様〜どさくさに紛れて何を余計な事を言っているかあ〜!」
 ルーヴェンドルフはぐいぐいとクロイツェフの首を締め上げる。
 「はうっ、ル、ルーヴェンドルフ様、おしかりは後で……」
 「で、何か言う事はあるんじゃないの?」
 そこでようやくクロイツェフは居住まいを正した。
 「遺跡への突入は簡単には参りませぬ」
 怪しいからやっつけるではさすがに通らないからだ。相手に先に手を出させるか、明確な証拠を掴まねばならない。
 「つきましては、遺跡内部に入り、戦車部品強奪の容疑を盾に『任意の持ち物検査』を実施して連中の反応を見るのが最上かと」
 「冗談じゃない!」
 怒り出したのはセルベリアである。
 「何でもかんでも結局力づくじゃないか!」
 実際、教導団にもいろいろの評価があるが否定的な評価として何でも力ずく、権柄尽くな態度が挙げられる。とにかく権力を振り回すような態度の者が多い事がシャンバラ人や他校から非難される事が多い。
 「そこまで!」
 シュレーダーは腰に手を当てて大声で言った。
 「そのやり方じゃ、難しいわね。いきなり押しかけてきてお前達は泥棒の疑いがある、家宅捜索させろ、じゃ喧嘩を売ってるのと同じだし、第一、『任意』ってことは断られたらそれまでよね」
 常識からはいささかずれているようだ。

 どうやって調べるか、皆が頭を悩ませている頃、佐野 亮司(さの・りょうじ)は出入り口の一つを岩の影からじろじろ観察していた。
 「うーむ」
 佐野は出入り口から重たいものを運んだ形跡はないか、出入りする人間の会話に何か盗んだ部品について話している者はいないかなど様子を探っている。
 「……解らん」
 結局の所、そう都合良く見つかるわけはなかった。概ね共通して言えることだが、多くの者が情報収集などの際、ノーリスクハイリターンという宝くじで一攫千金のような事を考えている。結局の所、リスクとリターンは比例する。ローリスクローリターンかハイリスクハイリターンかである。リスクを負わずにハイリターンを望むものばかりではうまくいかない。リスクを負いたくなければローリターンの積み重ねを覚悟しなければならない。
 そんな中、ハイリスクを覚悟?する者がいた。国頭 武尊(くにがみ・たける)ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は抜き足、差し足、忍び足で内部に潜入していた。もっとも、二人がリスクを理解しているかと言えばはなはだ怪しい。幸いにして二人は真性パラ実である。例によって国頭もしくはクローディスが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで、では成功を祈る。と言うわけであえて二人は内部に潜入している。正確にはクローディスは張り込むつもりだったのだが、よりによって相手が国頭であった。
 「お、お前……本当にローグか?」
 「もちろん。何なら消えて見せようか?」
 いささか心配なクローディス。ローグな奴を探したところ、同じパラ実の国頭はドンぴしゃでローグであった。その力を借りて張り込むつもりがいつの間にか内部に潜入している。国頭はと言えば、潜入する気満々である。クローディスは相手を間違ったかもしれない。
 「それにしても、かなり古いなこりゃ」
  クローディスはこの遺跡がうち捨てられてからかなり時間がたつことを感じていた。かなりの部分が土に埋もれていたのをどうやら最近掘り出したらしい。
 「あちこちで見境なく遺跡掘っている連中も考えもんだな。掘り返したままじゃこうやって胡散臭い連中が住み着くかもな」
 「ああ、この辺じゃ見かけないがオークでも住み着いたらやっかいだ……。待て」
 国頭はクローディスを押しとどめた。そのまま国頭はクローディスを隙間の影に押し込んで自分もべったり張り付いた。
 「お、おれはそう言う趣味はない!」
 「オレだってない!」
 そのまま二人がへばりついていると四人ほど歩いてきた連中がそのまま通り過ぎていった。後ろ姿を見るとなるほど改造制服である。しかし、つめが甘いというか、どこか決まってない感じだ。やはり真性パラ実ではない。
 「よし、いいぞ」
 国頭は顔を出した。どうやら見つからなかったようだ。
 「おう、すごいな!」
 「任せとけ」
 感心するクローディスにそう言って国頭は再び歩き出した。途端に鳴子がカラカラ派手に音を立てた。国頭はロープを引っかけたようだ。
 「おう、すごくないな!」
 「ま、事故だし」
 国頭は肩をすくめてアメリカン『ワーオ!』の姿勢をとった。すぐにどたどたと人がやってくる音がする。国頭は反対側に走り出した。
 「こっちだ」
 「そっちは中だぞ」
 「外側から来てるんだ。中に逃げるしかない!」
 「お前を信じた俺が馬鹿だった」
 「何を言う、信じる者は救われるぞ!」
 二人はそのまま走り出した。途中で出会った連中を突き飛ばし、おいてあるものを蹴飛ばし逃げる逃げる。後ろから追いかけて来た連中は次第に数を増し、後ろから発砲してくる。それを右に左に二人は逃げ続けた。
 この結果、にわかに遺跡周辺は発砲音に包まれ騒然とし、混乱が起こった。

 「なにやら、騒がしくなってきたな」
 月島 悠(つきしま・ゆう)はひょいと監視している入口の方を見る。銃を持った連中がひょいっと出ては引っ込んでいく。そのうち、十人ほどが固まって出て来た。そのまま外に出て行こうとする。このまま逃がしては封鎖にならない。それにひょっとして部品を持っているかもしれない。月島は張 飛(ちょう・ひ)と共に回り込んだ。そのときである。大柄な張の姿を認めたのであろう。相手はいきなり撃ってきた。
 「どわっ!」
 慌てて伏せる張。
 「おやあ〜。撃ってきましたかあ〜。せっかく人が芋ケンピなぞ囓りながら話し合いしようと思っていましたのに」
 セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は口の端をつり上げながらくいっと合図する。
 火球がきらめき爆発が起こった。イクレス・バイルシュミット(いくれす・ばいるしゅみっと)が一撃をぶち込んだ。
 「もう一発行っとくかね?」
 「いやあ、我々だけで連中を頂いてしまうのも悪い。それに遺跡自体はあまり壊すなと少佐のお達しだ」
 フィッツジェラルドがうそぶく間にも館山 文治(たてやま・ぶんじ)がアサルトライフルを撃ちながら前に出る。
 「こりゃあ、少しずつ前に出て削っていった方がいいぞ」
 「そうですね。敵が撃ってきた以上、こちらも反撃せねばなりません」
 「封鎖はいいが確実に出入り口を押さえることをしないと」
 フィッツジェラルドの他人事口調に月島が答えた。実際、確実にすべての出入り口を押さえたかどうかはまだ解らない。
 ただ封鎖では一方向に逃げられる。こと撃ち合いが始まった以上、敵を引きつけつつ削った方がいい。とりあえず一同はじりじりと入り口周辺を掃討して確保することとした。
 この撃ち合いが口火を切ったように各封鎖出入り口では撃ち合いが始まった。

 位置的にはちょうど反対側の出入り口の一つでは、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)クリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)が待ち構えている。
 「大分騒がしい、どうやら出てくるみたいだぞ?」
 感覚に優れるザルーガが様子を伺いながら言った。
 「何、心配することはない。おそらく連中は各封鎖口に少数を陽動に配置した後、どこか一方向に一斉に逃げだす」
 ファウストは見通しを述べた。
 「この出入り口はあからさまに広い。ここからはあまり多くは出てこないはずだ」
 「なるほど」
 ゼルベウォントはファウストの分析を感心して聞いている。そのとき、内部から機械音がした。次第に大きくなってくる。
 「さあ、罪を償ってもらいましょうか」
 ゼルベウォントはライフルを構えた。例によって狙撃の準備、狙撃バカ一代である。
 そうすると、中から数十台のバイクに乗った連中が飛び出してきた。
 「ちょっと待て、数が多すぎないか!」
 ザルーガが驚く間もなく、すごいスピードで脱出を試みる。ゼルベウォントは慌てて射撃したがなかなか当たらない。本来、狙撃というのは止まっているか、せいぜい歩いている者を撃つのが常識だ。高速で移動するバイクを狙撃するのは難しい。しかし、幸いにもバイク連中は向きを変え、狙撃してきたゼルベウォントらの方に向かってくる。連中も撃たれるとなれば必死だ。こうなると、さすがに命中する。一人、二人とやられていく。しかし、さすがに数が多い。おまけに向こうも撃ってくる。ファウストやザルーガも攻撃に加わり、三分の一ほど倒したがザルーガが肩を撃たれる。
 「何っ」
 驚いたファウストに射撃が集中する。数カ所をライフル弾が貫通し、血しぶきを上げてファウストはのけぞった。
 「ひいっ!」
 悲鳴を上げるゼルベウォントに改造バイクの集団が迫る。ゼルベウォントは穴掘って隠れていたが狙撃するには身を乗り出さねばならない。はね飛ばされ、墜ちたところを次々とバイクが通過していく。改造バイクはスパイク付きだ。ゼルベウォントはおろし金を掛けられた大根の様にぼろぼろになった。ファウストらの誤算は敵が統制され、軍事訓練を受けた連中だと考えていた点である。何しろ、パラ実を騙るような連中だ。右往左往したあげく、手近な所から脱出を計ったらしい。結局この方面は十数人であったが突破されてしまった。

 内部は大混乱である。そんな中、入り口を封鎖していたルーヴェンドルフのところも脱出を試みる敵が殺到していた。こちらは出口が階段状になっていたためバイクで脱出する連中はいなかった。わらわらと出てくる敵に対して待ち構えていたルーヴェンドルフが立ちふさがった。
 「悪いな……ここから先は通行止めだ……って……」
 わらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらとばかりに次から次へと出てくる。
 「数多くないか?!」
 慌てて後方に下がると合図する。グレイシア・ロッテンマイヤー(ぐれいしあ・ろってんまいやー)バルバロッサ・タルタロス(ばるばろっさ・たるたろす)がひょっこり顔を出す。ロッテンマイヤーが素早く電光をほとばしらせた。そしてタルタロスが前に出る。
 「さあ、どっからでもかかって来るがよい」
 すると、全力で射撃が返ってきた。なにぶん、相手は銃器を持っている。思わずタルタロスは伏せてずりずり後退する。
 「ええいっ、飛び道具とは卑怯なり」
 そう言うものの相手にしてみれば撃ち返してこないならめっけものだ。困ったことにルーヴェンドルフはともかく、周りの連中は白兵戦は強いが銃器による射撃戦は苦手な連中ばかりである。シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)も白兵戦は得意だが、銃器相手には苦戦する。幸い、二人ともプリーストなので防御、治療には有利だ。とりあえず何とか持ちこたえる形で撃ち合いとなっている。アンスウェラーは『バニッシュ』で広域封鎖を掛けたいところだが、敵の数が多過ぎて迂闊に顔を出すと集中射撃を食らうので顔を出せない。頭を伏せたまま岩伝いにルーヴェンドルフに近づく。
 「ちょっとまずいです。どうします?」
 「もうしばらく持たせる。総兵力では上回っている」
 そう言いながら雷術をかます。タルタロスが足を撃たれてのけぞるがすぐにティルナノーグが治療に回る。
 ルーヴェンドルフの予想通りやや時間はかかったが、敵の背後から射撃が始まった。月島達が回り込んでこちらにやってきたのだ。月島やついてきた麻上 翼(まがみ・つばさ)は射撃を得意とする連中だ。麻上がトミーガンを撃ちまくった。威力はアサルトカービンや光条兵器に大きく劣るがサブマシンガンはこういう狭い遺跡などの中では有効な兵器と言えるであろう。取り回しが楽だからだ。
 「そーれそれそれ」
 これが不意打ちとなり、敵はばたばた倒れていく。
 「撃っちゃう?火の玉撃っちゃう?」
 ホリィ・ドーラ(ほりぃ・どーら)が顔を上げて月島に聞くが月島は首を振った。
 「迂闊にでかい技は使うな。手榴弾とかは使うなと少佐のお達しだ」
 「そうなの〜」
 ドーラは残念そうだ。
 麻上がトミーガンで援護している間に腰だめにライフルを構えた突撃姿勢で月島は射撃しながら近づくと走りながら着剣し、沈み込むようにして敵に突き立てる。そのまま敵の中に躍り込む。近距離なので敵は銃を撃てない。
 (こいつら素人だ)
 月島はそう悟ると左側の男に銃剣を突き立てつつ、左足を軸にして右足を滑らせ姿勢を低くして手早く右腕だけをライフルから離し、肘で右側の相手の顎に一発食らわせる。拳法を組み合わせたマーシャル・アーツの技である。
 「よし、今だ」
 ルーヴェンドルフが言うと一斉にこちらも飛び出していく。
 「近寄っちゃえばこっちのもんよ!」
 ティルナノーグはメイスを持って殴りかかった。ルーヴェンドルフ達は白兵戦になれば強い。後ろからは月島達が、射撃してくる。次第に形勢は傾き、まもなく戦闘は終了した。もっとも、重傷者はいなかったが、味方にも軽傷はそれなりに出ている。
 「さてさて、いろいろとしゃべってもらおうかの。しゃべらないと言うなら全員串ざしじゃあ、磔じゃあ〜」
 うれしそうにヴラド・ツェペシュ(ぶらど・つぇぺしゅ)は生き残りを縛り上げてちくちくと尋問を始める。
 その結果、判明したことは、連中は周辺の部族のはみ出し者の若い連中が集まったものらしい。要するに暴走族のアンちゃんのような連中だ。言うまでもなく力に憧れ、パラ実の格好をしていたらしい。ただ、肝心な事だが、最近、彼らの前に正体不明の男が現れ、銃器を供給してくれたらしい。その男は教導団の物資を奪ったら高く買ってやると持ちかけ、彼らとしては金も入るしウハウハなのでやってやるぜとばかりにトラックを襲ったらしい。

 一方、やや離れたところで、待ち構えていたのは一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)高月 芳樹(たかつき・よしき)である。ぽろぽろ漏れて脱出してきた連中は概ね北西の方角へ逃げた。そこで一条らが騎兵部隊と共に待ち構えていたのだ。なにぶん、統制のとれていない連中だ。教導団の騎兵の方が数が多い状況ではひとたまりもなくやられるか捕らわれるかしている。
 「数が思ったより多いけど想像していたより楽ですね」
 一条は様子を見ていった。本来人数が多ければやり過ごして後をつけるだけにしようと考えていたが、騎兵が一緒にいたため、案外と楽であった。
 特に平地に逃げたところで安心する連中が多く、こちらが追いかけると混乱して捕まるかやられるかである。
 「やれやれ、どういう事かしら、思ったより手応えのない連中ばかりだわ」
 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)ががっかりした様子で言った。気絶させた敵をずるずる引きずっている。
 「本当ですね。せっかく人が光学迷彩で隠れているのに、『わっ』と脅かしただけでバイクごとひっくり返るんだから」
 ナッシング・トゥ・セイ(なっしんぐ・とぅせい)も縛り上げつつそう言っている。お陰で一条の前には捕まえた連中が山になっている。
 「それにしても大当たりだな。君の言ったとおりだ」
 「まあ、逃げるとすれば北西の方しかないですし」
 感心する高月に一条が答えた。実際、すべての入り口を確認できない以上、突破する者は確実にいる、というのが一条の考えだ。であるならば南は教導団、東から北は山、逃げるとすれば街道を利用できるのは北西だけである。そちらに張り込んでいると言うのは必要不可欠な対応である。
 「それにしても、これならむしろ、一方向開けた方が良かったかもしれないぜ」
 「そうですね〜」
 やや一条も考え込んだ。見ていると意外と今回の動きには味方の遊兵が多い。ほとんどの者が封鎖に回っているが、それだと、出てこなければ遊んでいることになる。むしろ、一方向だけ開けといて、全員で突入、追い出した後、騎兵で押さえる、と言う方が良かったかもしれないと考えられる。確かに騎兵が一個中隊いるのだ。この場合、単に機動予備として置いておくには多すぎる。

 さて、思ったより順調?に内部に潜入していたのは『突撃班』である。
 「それにしても、予想より静かではないですか?」
 イライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)が周囲を警戒しながらも前に出て様子を見る。敵がいないことを手で合図してから曲がる。
 「どうやら、敵は反対方向にほとんど移動したようだな」
 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は周りを見ながら断言する様に言った。実の所国頭とクローディスがひっかき回したため、内部の連中は彼らと反対側に移動し、あまり残ってはいないのだがグリーンフィールらには知るよしもない。散発的に現れる敵を打ち倒しながら前進する。こちらに出てくるのは一人か二人なのでひとたまりもない。
 「それはそうと、あなた、さっきから何を見渡している?」
 そう言ってルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)の方を見る。周りを見回しているが警戒しているだけには見えない。
 「いやあ、ここの連中は若いのが多いようだが、可愛い娘でもいないかなあと」
 「そればっかりか!」
 さすがにグリーンフィールはあきれかえった。この状態で神経が太いと言うべきか。その後ろでややソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)が恥ずかしそうに顔を赤くしている。
 「マスター、いつもこれだから……。必ず更生させて見せます……」
 「それはそうと、ここ調べた方がいいんじゃないか?」
 メルヴィンが促した先には大きく口の開いた部屋があった。そしてなにやらいろいろ積み上がっている。
 「おい、これは……」
 「ダンボール箱ですね」
 驚くグリーンフィルにクロケットが箱をしげしげと見ていった。言うまでもなく、シャンバラのこんな所にダンボール箱があるわけがない。開けてみるとキムチのパックやらシャケの缶詰やらが出て来た。間違いない、トラックに積んでいた荷物の一部である。
 「どうやらビンゴだな。徹底的に探せ」
 メルヴィンが言うと共に皆一斉に荷物をひっくり返し始めた。青筋立てて探しているのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。今一番切実に部品の発見を願っているのがルーであることは間違いない。
 「こっちは警戒しておくから急いでくれ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が入り口から叫ぶ。そして大量の荷物の中を皆で泳ぐように引っかき回す。
 「ああああっ!」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)が大声を上げた。
 「どうした?」
 メルヴィンが近づいてくる。
 「あれ、あれ!」
 そう言いつつマキャフリーは這うようにして壁際に寄る。一メートル四方くらいの黒い板状のモノが立てかけられている。話に聞いている部品と形状が酷似している。
 「これよ、これ!」
 ルーも興奮して見つめた。
 「よし、ここは一端戻ろう。これが目標なら、まずは確保が第一だ」
 グリーンフィールの言うことはもっともであろう。今だ制圧は確実ではない。敵の逆襲でもあればやっかいである。
 そうして一同が外に出たときである。外で警戒していたガイザックとカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)の少し手前に一人の男が現れた。驚いた夏侯が剣を向けると男もびっくりしたのか一目散にあっさりと逃げ出した。一瞬、皆は考え込んだが、そのとき気づいた。今まで出会った敵はばらばらではあるものの皆改造制服を着ていた。しかし、この男の服装はシャンバラ人と思われる服装なのである。おまけによくわからないものの年格好も他の連中とは違うようだ。慌てて追いかけようとする夏侯とシュトロエンデの二人は走り出す。おまけに逃げていく方向がグリーンフィル達がやってきた方に近い。東側だ。グリーンフィルとメルヴィンはちょっと顔を見合わせて考え込んだ。時間はない。
 「オレ達は現状確保。後退する」
 部品の奪還が第一である。先行した二人とルー、ガイザックを残し、他の者は出口へと向かった。
 走っていった夏侯とシュトロエンデはさすがに不案内な内部を走っている。だんだん引き離される。まもなく人一人がくぐれるような穴から出て行くのをシュトロエンデが見つける。
 「この野郎!」
 追いかけようとしたところで、羽根が引っかかった。お陰で夏侯も通れない。後からやってきたルーとガイザックが追いついたところでようやく外に出られた。
 「あそこだ。あの野郎!」
 夏侯が見ると、大分遠くを逃げていく姿が見える。しかし、その方角は遺跡全体でも皆が予想しなかった方向だ。残苑ながら追いつくのは難しい。
 「あっちは北東の山岳地帯だぞ?」
 ガイザックが不審そうに見つめる。そちらは往来が難しい山岳地帯である。軍隊などが進軍するのは無理なところだ。とっちめてやろうとおかんむりのルーもさすがに予想外だったようだ。
 「山岳地帯を越えるつもり?」
 人間数人ならかろうじて越えることはできるかもしれない。唯、どこへ向かうつもりかだ。
 「山の向こうは……」
 もちろん、シュレーダー戦闘団の者は北東の山岳を越えれば何があるかは解っている。

 さて、国頭とクローディスはさんざん逃げ回った結果、南側の出口近くにいた。実の所、今回の突入作戦で見事に?陽動をやってくれちゃった二人である。結果として突入班のグリーンフィール達はあまり敵と遭遇せず、逆に封鎖していた月島達の所に大勢敵が押しかける事となったが、敵に先に手を出させる事に成功しているのである意味、結果オーライである。人の少ない部屋を渡りながら逃げつつ銃声が下火になっているのを感じていた。
 「どうやら戦闘は収まりつつあるようだな」
 「だーから、言っただろ、信じる者は救われるって」
 国頭はしれっとしている。そんな中、部屋の一角に何かが動いているのを見つけた。
 「およ。でかい蓑虫?」
 なにげにそう言ってよく見ると、ぐるぐるに縛られた有沢 祐也(ありさわ・ゆうや)である。
 「捕まっていたのか?」
 クローディスが猿ぐつわを外す。
 「くそっ連中め」
 有沢はごそごそ動きながら言った。それを国頭がにやにやしながら見ている。
 「おお〜。見事なもんだねぇ」
 「うるさい〜。はやくほどけ〜」
 クローディスは縄をほどきにかかった。有沢はこっそり潜入して部品の奪還を持ちかけようとしたのであるが、ヤクザの事務所に潜入して交渉を持ちかける様なものである。唯返せ、では奪った連中は納得しない。あっさり捕まってしまった。もっとも、この行動はある意味非常に危険である。有沢は突入班と同時に潜入を開始したが、まもなく銃声がして突入班が潜入していたことがばれればその場で射殺される可能性は極めて高かった。また脱出時に人質として利用される可能性も高く、一歩間違えれば味方に大損害を及ぼしかねないものである。むしろ、慌てた敵がそう言った手段を思いつかなかったのは素人故の僥倖であり、普通そうなっていた可能性は極めて高い。もし、真面目に交渉を持ちかけるのであれば突入作戦が行われるよりずっと早く行わねばならない。

 かくして遺跡は事実上、制圧された。捕まった連中は一度本校に送られてからどうするか処分が決まる。
 心配していたセルベリアの所に動くチューリップがやってきた。トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)である。
 「様子をみてきたであります」
 「で、どうだった?」
 「反応はいろいろ」
 今回の作戦についての周辺の様子である。正直、様々であり全体としては大きな変化はなかった。シャンバラの連中が大勢捕まったことに関しては反感を持つ者もおり、一方で銃器を持って略奪する連中が成敗されたことで喜んでいる者もいる。
 「やっぱり、現状の地球人はパラミタを侵略しているだけなんじゃないか?」
 フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)は吐き捨てるように言った。
 確かに教導団に反感を持つような者もある意味増えている。教導団員は理屈をこねて権力を振りかざしたがる者が多いからだ。今回の突入作戦に関しても
「お前らに先住権はない」だの「調査させないと敵対行為と見なす」だの一方的な事を考えている者が多いことをセルベリアは心配している。先住権というならそもそも地球人にパラミタに住む権利があるのかということが問題になる。
 「突入作戦そのものの意義はともかく、皆の意識に問題があるのは事実ではないでしょうか?この先、ジレンマが起こるように思います」
 エレーナ・アシュケナージ(えれーな・あしゅけなーじ)が静かにそう言った。
 
 「あうううう〜。これで70ミリ砲の試験ができますぅ〜」
 部品に頬ずりして喜んでいるのはレベッカ・マクレガー技術大尉である。ようやくこれで肝心の主砲試験に目処がついた。戦車開発はあと少しである。
 これに伴い、シュレーダー戦闘団は再び師団主力と合流することとなる。なお、歩兵は今だ不穏な西北の部族などがいるため、周辺で警戒にあたり、騎兵は戻ることとなった。