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リアクション
ハロウィンが近付き、百合園女学院の生徒達の間にも不安が募っていた。
怪盗舞士の事件だけならば、不安よりも期待が高まっていたかもしれないけれど……。
ここ連日起こっている事件が、百合園の生徒達を怯えさせていた。
「し、失礼します……!」
百合園女学院生徒会執行部の執行部長である桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)と共に、教導団の琳 鳳明(りん・ほうめい)は百合園の校長室を訪れた。
緊張しつつ室内を見ると、その部屋には校長の桜井 静香(さくらい・しずか)と、百合園の真口 悠希(まぐち・ゆき)のみしかいなかった。
「校長、お時間少しいただけますでしょうか?」
鈴子がパタンとドアを閉める。
「え? う、うん」
静香が悠希に目を向けると、悠希は見ていたものを閉じて机の中にしまい、それからこくりと頷いた。
第1章 対策
「ハロウィンは百合園で集会ねぇ……」
その噂は波羅蜜多実業高等学校の高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)の耳にも入っていた。
特に興味はなかったが、頻繁に誘われたり、四天王も顔を出すという話から、どうやらただのお遊び的な企画でもないように思えた。
悠司にとってどうでもいいことのはずなのだが、なんだか気になる。
キマクにも拠点のある、パラ実生の多くが絡んでいるとある組織が関与している節がある。
というのも、先日ヴァイシャリーで百合園女学院が率いる部隊に、その組織の拠点が潰された……らしいのだ。
「めんどくせーけど、調べてみっか」
重い腰を上げて、悠司はとりあえず学校に向かう。
「百合園女学院のこと聞いて回るなんて、悠司もそういうことに興味出てきたとか? 全く、色気づくよりもっと必要なことあるだろー」
ぶつぶつ呟きながら、悠司のパートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は、波羅蜜多実業高等学校周辺で聞き込み調査を行なっていた。
ハロウィンの噂で盛り上がっている集団の元に、ひょっこり顔を出して、人懐っこそうににこっと笑いかける。
「ねぇねぇ、百合園女学院で集会って誰が提案したの? 名案だよねー」
「あん? 【陽炎の】ツイスダーさんの舎弟、子分らが、パラ実生誘って回ってたぜ」
【陽炎の】ツイスダー。数百人から千人は舎弟、子分のいる四天王だ。
「会ってみたいんだけど、行きつけの場所とかわかる?」
「いつもの店に集まってんじゃねぇ? てめぇみたいなガキは相手にされねぇと思うぜ。ぎゃははははっ」
昼間から酒を飲み、下品な笑い声を上げる集団に、レティシアはぺこりと頭を下げた。品は悪いが気のいい奴等だ。
「ありがと! 集会に四天王狙ってる人が襲ってくるって噂もあるから、気をつけてね」
「おう、そんときゃー、楽しく見学させてもらうぜ」
「うんうん、四天王戦はタダで見れるショー同然だもんね! それじゃね」
手を振って、レティシアはその場から離れ、敷地内――といっても校舎はないのだが。で、面倒気に聞き込みを続けているであろう悠司の元に戻るのだった。
同じく、噂の背後に四天王、【陽炎の】ツイスダーの名を聞いたパラ実のカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)は、舎弟、子分がよく顔を出している居酒屋を訪れて、舎弟、子分らしき人物に声を掛けて回っていた。
「百合園より、こういった飲み屋とかゲーセンや、コンビニの方が良くない? 欲しい物は直ぐ手に入るし、遊びたい時に遊べるじゃん」
「それもそーだけどよ、なら気に入った場所全部パラ実の校舎にすればいいんじゃね? 全員入れる校舎なんてねーんだしよ〜」
「ま、確かにそうだけどさ」
本気でコイツらが集まり、増殖しだしたら百合園女学院全体がパラ実生だらけになりそうだ。
百合園に潜入しているカリンとしては、折角苦労して潜入して作り上げた自分の立場を守りたかったし――。
吐息をついて、軽蔑気味な目を皆に向ける。
「もしかして彼女とか欲しいとか思って百合学園で集会したいとかいうんじゃないだろうね?」
「そりゃまあ、ここの女よか可愛いしなー」
「金ももってっから、貢がせればロウドウしなくてもいいだろ〜」
彼等の言う労働とは、カツアゲ、万引きの類いだ。
「どんな理由にせよ、好かれようってんなら、武器なんか持たず、気合入れた格好で行けば受け入れてくれるんじゃないの?」
「そんなもんかねぇ?」
「ああ、少なくても、私の知り合いのお嬢様は、ガタイのいいビシッと決めた男に惹かれるって言ってたな」
「そんじゃまあ、得物はバイクん中でもいれとくかー」
「てめぇ完全に女狙いか? アホか?」
「それ以外に、百合園で集会やるって理由なんだよ」
「そういや、そうだが、ま、細かいことは気にするな〜」
「ヒャッハー!」
大声で笑い、騒ぎ出すパラ実生と共に笑い声を上げた後、カリンは店を出た。
大きく吐息をついて、表情を戻すと次の店に向かう。
○ ○ ○ ○
修学旅行から戻った頃から、百合園生が迎えに来た執事や馬車の御者ごと、パラ実生に襲われる事件が発生しだした。
また授業中にパラ実生が百合園女学院の校庭に入り込み、バイクを走らせ、下品な笑い声と共に石を投げつけガラスを割っていく事件も多発している。
さらには、ハロウィンにこの百合園女学院で四天王を交えた集会を開くという情報も入っている。
連日、校長の
桜井静香(さくらい・しずか)と
ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)、生徒会メンバーで会議を行い、ラズィーヤの案により、ハロウィン当日は周辺住民に警戒と避難を促し、パラミタ全土で事業を行なっている企業からの依頼として、パラ実生が上陸すると思われる百合園の南の河川敷での、追い返し、必要であれば迎撃を他校の契約者に依頼したのだった。
「……まさか百合園女学院に呼ばれるとは思っていませんでした」
胡蝶蘭が飾られた、華やかな来客用の応接室にて、男は出された紅茶を一口、口に含んだ。……慣れない味だ。
「興味深いお話でしたから、お父様の代わりに、是非お伺いしたくなりましたの」
男の向かいでにっこり微笑みを浮かべるのは、ラズィーヤだった。
「この学園の南辺りに店を持つ企業から、ハロウィンの日に来襲すると思われるパラ実生の追い払いを依頼されました。どんな目的があるのかは存知得ませんが、集団であるのなら襲撃以外の別の目的に目を向けさせることができれば、多少なりとも戦力を殺ぐことが出来るかと思います。そこでこのヴァイシャリーの領主であるヴァイシャリー家のご当主、及び学院生に協力を願いたく思います」
その男――イルミンスールの
レン・オズワルド(れん・おずわるど)の提案は、ヴァイシャリーの南倉庫街を封鎖し、そこでパラ実向けのパーティーを開いてはどうかという案であった。
「街への被害が広がることも懸念されますが、大きな戦闘に雪崩れ込むよりも、被害を最小限に抑えることが出来ると思われます」
「わかりました。ですが、全て封鎖することはできません。倉庫街で働く方々にも生活がありますから。夕方から夜間のみ、こちらで指定した空き倉庫とその周辺で行なっていただきます。人員はそちらで募集して下さい。但し、ヴァイシャリー家の方からその企業に話をつけて、人件費を含めて必要経費はこちらで用意いたします」
「了解しました。支払い関係の名義は俺で構いません」
ラズィーヤの目が僅かに鋭い光を帯びた。
レンはティーカップを置いて立ち上がる。
微笑みを浮かべているラズィーヤ・ヴァイシャリー……彼女もこの依頼に一枚噛んでいると思われるのだが、父親の代理であるという姿勢を崩さない。
「わたくしからもお礼を言わせていただきますわ。ヴァイシャリーの為にありがとうございます。丁度その日はこの百合園女学院は休校日ですの。募集要項をいただければ、当校の掲示板にも貼らせていただきますわ」
「ご協力、感謝いたします」
互いに頭を下げあった後、レンは百合園女学院を後にした。
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