リアクション
○ ○ ○ ○ ヴァイシャリー家でのハロウィンパーティーが始まる時間に合わせ、百合園女学院の生徒会室でもささやかなパーティが行なわれていた。 企画者は百合園の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。 パーティどころの状況ではないのだが、逆にそんな緊迫した状況だからこそ、和やかな場を設けておくこと、不必要に不安を募らせないためにもと、護衛の白百合団側もリナリエッタの案に協力的だった。 企画者のリナリエッタとパートナーの南西風 こち(やまじ・こち)は、おそろいのミニ魔女帽子を被って準備を進めていた。 オレンジと黒の沢山の色紙セットと鋏を使って、色紙をカボチャの形に切っていく。 「……マスター、ここですか?」 「うん、その辺りにばーっと貼っちゃって」 こちは頷いてそれらを壁に貼り付けていく。 テーブルクロスもカボチャの絵が描かれたものを用意して敷いた。 「こういう小さいパーティーもいいですわよね」 白百合団の団長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)が、軽く笑みを浮かべた。 薄暗くなってきたが、電気は着けずに蝋燭を灯して、皆テーブルの方へと集まっていく。 「早く事件が終わって、正門前の人達もここで楽しめるといいね」 校長の桜井 静香(さくらい・しずか)が不安げな目で、窓から正門の方を眺める。 「そうですね。……静香さん、こちらへどうぞ」 百合園のアピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)が、椅子を引いて静香を呼ぶ。 「ありがと」 静香が歩き去ると、鈴子は真剣な眼差しをそっと正門を守る団員に目を向けて、目を伏せ、祈るように軽く頭を下げた後、窓を閉じてカーテンを引いた。 「ここが荒されるのは嫌よね」 怪盗舞士の一連の事件中、静香の護衛という名の弄びを楽しんできたメニエス・レイン(めにえす・れいん)だが、この百合園が不良達に崩されてしまうことについては望ましくないと感じていた。この雰囲気はなくなって欲しくない。 メニエスは護衛として校長の隣の席に座る。 「同感です。隣、失礼いたします」 その隣にパートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が腰かけた。 校長の反対側の隣には、アピスが。その隣、入り口からも近く、カーテンの隙間から外が見える位置に鈴子が腰かける。 リナリエッタとパートナーのこちは、静香の前の席に腰かけて、お菓子と紅茶を飲みながら談笑を始めるのだった。 「前から思っていたんだけど。静香さんはラズィーヤさんと友達なわけ? いつも一緒にいたいとか思ってちゃったりしてる?」 「……え? うん。友達、だと思う。ちょっと自信ないけど。いつも一緒にとかは、思ってないかなー」 静香は若干苦笑いしながら、視線を僅かに彷徨わせる。 「ぶっちゃけ私達とパラミタ人は立場違うと思うよ。ヴァイシャリーを管理するお嬢様となら尚更、ねぇ」 「う、うん」 「私達は友である前にパラミタへの侵略者。場合によっては彼女が敵に回っちゃうかもしれなくない?」 「え?」 リナリエッタの言葉に、静香は少し驚いた表情を見せた。 「今回だって表立ってラズィーヤさんは動けなかったじゃん。どう思う?」 「どうなのかな。でも、百合園のここに招いたのは、ヴァイシャリー家の方だから。僕が校長やってるのも、僕の方からのお願いじゃなくて、ラズィーヤさんの……ええっと、推薦だから。ヴァイシャリー家は大丈夫、百合園の味方だよ!」 ふーんとリナリエッタは意味ありげな笑みを浮かべる。 「まあ、今回は共通の敵がいる。ラズィーヤさんはラズィーヤさん、私達は私達のやり方で守りたいもの守りましょうかねぇ。とりあえず、ここまで侵入者が、しかも男子がきたら紅茶でもぶちまけてやればいいのよ。ふふ、ここはそういう場所だしぃ」 リナリエッタはティーカップを揺らしながら、ニヤニヤと笑みを浮かる。 「そうねー」 メニエスは軽く笑みを浮かべ、紅茶を飲む。 アピスも黙って静かに頷いた。 アピスの守りたいもの――それは静香だった。 修学旅行の日、寂しくて1人涙を堪えていたアピスに静香は手を伸ばして、手を取ってくれた。 暖かさと一緒に、優しさも沢山もらったから。今度は自分が静香を守りたい、助けてあげたいと思っていた。 「うん、まあ、そうなの、かな?」 静香がリナリエッタの隣に座るこちに目を向けると、こちは軽く首を左右に振った。 「……こちは、難しいことは分かりません。マスターのお側にいられたら。……それだけで、いいのです」 その答えに、静香はほっと息をついて頷いた。 「僕も、難しくて良く解らない。皆、ずっと仲良くできたらいいのにね……」 アピスがその言葉に頷く。 鈴子は微笑みを浮かべながらも、時々窓の方に目を向けている。電話やメールも頻繁に届いているようだ。 ガシャン 「うわっ」 突如響いた窓ガラスが割れる音に、静香は飛びあがるほど驚いた。 「見てまいりますので、動かないで下さい」 鈴子は団員を数名連れて、窓ガラスが割れた部屋――校長室へと向かう。 「乙女の心高ぶる時……」 「あ、現れたる正義の女神!」 「マジカルエミリー!」 「み、ミラクルコクーン!」 「人の恋路を邪魔する奴は……」 「う、馬に蹴られて……えっと、じごくにおちろ?」 明るく高らかな声と、恥ずかしげな少女の声が響く。 「百合園生!? 待ちなさい!」 「うぅ……やっぱり恥ずかしいよぅ……」 恥ずかしげに言いながら、繭は、エミリアと一緒に走り出す。 顔を覆うマスクに、百合園女学院の制服。背にマントを羽織った姿だった。 「いっくよ〜マジカルサンダー♪」 エミリアは雷術を壁に向けて放つ。白百合団員の足が止まる。 「確かにお宝はいただいたよ! あはははは!」 校長室の中からも声が響いた。 「追って下さい」 鈴子は団員に制服姿の2人を追わせると、自分は校長室へと入った。 「窓から、逃げました」 校長室には、警備に学院内を回っていた悠希の姿があった。 窓の外には光精の指輪で周囲を照らしながら走る人物の姿があった。 「…………」 鈴子は窓から飛び降りて、その人物を追う。 正門横からヴァイシャリーの南方面に出ようとしたその人物だが、パラ実対策の為、完全に塞がれており、学院からの脱出に難航していた。完全に相手は素人だ。 「下りて来なさい」 光の魔法で威嚇した後、鈴子は怪盗に扮した少女を引き摺り下ろした。 鈴子に捕縛されたのは、高潮津波。白百合団員に稲場繭、エミリア・レンコートも捕らえられていた。 3人は、校舎前に縛られた状態で正座させられる。 「迷惑をかけてすみません」 津波は謝罪の言葉を口にしただけで、それ以上何も言わなかった。 「ごめんなさい……」 繭は俯いて謝る。 目的はエミリアが口にした。 「愉しそうだったから♪」 怪盗舞士を真似てみたのだと。 「だって気になるじゃない? あの嘆きのファビオ様がどうしてそんなことしてるのか……」 クスリと笑うエミリアに、鈴子は腰に手を当てて、深く溜息をつく。 「あなた達は……状況、分かっていますの? しばらくそこで反省していなさい」 と言い、生徒会室に戻っていった。 「くしょん」 「はっくしょん」 「くしゅっ」 冷たい風が吹き抜け、3人はくしゃみをしながら少し体を寄せた。 アユナは、約束の物を持って、約束の場所に向かえているだろうか――。 |
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