リアクション
○ ○ ○ ○ 運河に浮かぶパラ実生大歓迎のハロウィンパーティーの広告は、功を奏しはしたが、全てのパラ実生がそちらに向うことはなかった。 訪れた四天王【陽炎の】ツイスダーの舎弟、子分達と、横の繋がりのある者達。数百人の男女が百合園女学院の南側に位置する河川敷に上陸していくのだった。 「百合園をぶっ壊す。行くぞ!」 「待ってください」 船からバイクで下りてくる男達の前に、蒼空学園の風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が躍り出た。 「……僕は付近の会社に、ここの警備を任された者です。ここは、あなた方の領地ではありません。通行はできません」 優斗は隼人と共に、光太郎から事情を聞いており、パラ実生が百合園に報復をしに来たのだと察していた。 百合園にバイクで乗り込むパラ実生や、百合園の生徒が襲われた件に関して、逆恨みからくる嫌がらせ、と判断し、毅然とした対応をすべきであると判断した。 そうでなければ、相手をつけあがらせることになる。悪党とは断固戦うべきと考え、前線を訪れたのだが……。 相手は、嫌がらせ程度の出で立ちではなかった。 武器を携え怒声を上げるその様子は、集会……ではなく、まるで戦争に来たかのように見える。 「邪魔だ虫けら」 パラ実生が銃を乱射する。 付近に隠れる場所はない。優斗は身体に弾丸を受けながら雷術を放つ。 「構うな。行け」 ツイスダーの言葉を受け、バイクの一団が河川敷を突破しようとする。 「待ちなよ」 バイクの前にスパイラルバイクを横付けにして行く手を塞いだのはカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)だった。 知った顔に一団はバイクを止める。 「ちと訳ありでね……。これより先に行こうってんなら、あたしを倒してから進みな!」 カリンは刃物も銃器も持ってはいない。 ただ、木刀のみを振り上げて、一団の元に躍りかかった。 銃弾が、刃がカリンの身体を掠め、切り裂いていく。 勝てはしないということは、分かっていた。 ……だけれど、百合学園で出会った人を守りたくて。 苦労して潜入し、得た場所、知り合い、友達と思ってくれる人々。 全て、壊されたくなかった。 「キマクへ戻れってんだよ!」 銃を撃つ男に、木刀を叩き込みバイクから落とす。 ナイフを飛ばす男の元に跳んで、腹を突く。 血だらけになり、視界が真っ赤に染まり、見えなくなろうともカリンは木刀を振るい続ける。 「気に入りませんね」 弾丸がツイスダーの方へと放たれる。撃たれた舎弟、子分が1人、腕を押さえて蹲る。 パラ実の朱 黎明(しゅ・れいめい)が、遠方で嘲笑を浮かべていた。 「気に入らねぇ? それだけの理由で四天王の俺に銃を向けるとはな」 ツイスダーの言葉と共に、舎弟、子分達の――数百の武器が黎明に向けられる。 「ドージェ様は中国軍を相手にたった一人で立ち向かったそうじゃないですか。それなら私も同じことをしてみたいと思うのは当然でしょう?」 「黎明様の願いは、わたくしの願い」 後から飛び出したネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)が、パワーブレスを自身に使い、ウォーハンマーを振り上げる。 「申し訳ありませんが、戦わせていただきます」 ツイスダーの側に集まる者達に、ネアがウォーハンマーを振り回しなぎ倒していく。 銃を構える者を、黎明はスプレーショットで撃ち倒していく。 「切り刻んでやるぜ。準備体操代わりだ」 ツイスダーが抜いたのは鋭利な刃物だ。 「いい機会です。その四天王の座、戴きましょうか」 ツイスダーを囲む者達に、黎明は弾丸をばら撒いていく。 「仕方ありません……っ」 囲まれ、次々と武器を向けられたネアはバニッシュを放ち隙を作り、再びウォーハンマーを叩きつけていく。 「眠って下さい」 重傷者を出さないように力を加減する……が、多勢に無勢状態でのその心遣い故に、彼女はそう長くは持ちそうもなかった。 黎明は彼女の状態を視野に入れながら、銃を撃っていく。 ツイスダーの舎弟、子分達は何れも契約者のようであり、簡単には倒すことが出来ない。 数千人に顔が利く四天王だ。流石に暴走族のリーダー程度の四天王とは違う。 「いか、せるか……っ!」 赤く染まった視界。激しい痛みが感じない程に朦朧としながらも、カリンは木刀を振るい続けバイクを、百合園に向かおうとする者達を打っていく。 「……ぐ……っ」 木刀を振る彼女の身体に、バイクが突撃し、弾き飛ばされてカリンは倒れた。 「殺っちまえ」 ツイスダーの声が飛び、バイクが倒れたカリンの方に向いた。 「やめろ! ここヴァイシャリーでの悪事は俺が許さん!」 「許しません!」 突如、激しい声が飛び河川敷に男が駆け込んでくる――教導団の松平 岩造(まつだいら・がんぞう)と、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)だ。 「俺の名は、ヴァイシャリーの夜に現れるヴァイシャリーの剣士、ここに参る!!!!」 グレートソードを振り上げて、パラ実生の元に走り斬り込む。 「容赦は致しません」 後方からは、フェイトがアーミーショットガンでスプレーショットを使い、群がるパラ実の男女に容赦なく弾丸を浴びせていく。 「こんな私にも誇りがありましてね。悪を為すなら美しく、とね。あなたたちの悪は全く美しくない……目ざわりなんですよ」 岩造の出現に気をとられたツイスダーに黎明が接近した。 「黎明、様……」 いくつもの銃弾と打撃を受けたネアはついに地に伏した。 「てめぇの美学なんか知るか」 「死ね!」 舎弟達が黎明に斬り込む。 精神力はもう残ってはいない。黎明はただ、ひたすら銃のトリガーを引き、ツイスダーの急所を狙う。 「……っ」 ツイスダーは翻弄するように素早く動き、弾丸は当らない。……とその時。 ツイスダーの後方から放たれた1本のナイフが、地に突き刺さった。彼が避けた瞬間。できた一瞬の隙に、黎明は銃を彼の頭に向けて撃つ。 「……が……っ」 弾丸はツイスダーの眉間を弾いた。顔面半分を赤く染めて、ツイスダーが黎明を見た時には――黎明はツイスダーの舎弟、子分の総攻撃を受け、倒れていた。 「……やっぱ、勝てないか……この戦力差だからな」 遠くの木の陰から、リターニングダガーを投げつけたのは悠司だった。 「俺の名をヴァイシャリー全体に轟かしてやる!!!!」 高らかに叫びながら、岩造は剣を、フェイトは銃弾を撃ち放つも、やはり多勢に無勢だった。 バイクが岩造に何台も突進し、フェイトにはツイスダーの舎弟、子分達が後方から銃弾を浴びせる。 「それでも……僕達は退きません。あなた方には決して屈しません!」 傷口に手を当てながら立ち上がる優斗に、飛びかかった男が剣を叩き込んだ。 身体を血に染めて、優斗は倒れた。 「行くぞ……!」 倒れた黎明を激しい怒りの形相で蹴り飛ばし、ツイスダーは舎弟、子分達数百人を連れて、百合園女学院の方へと向かう。 「……岩造、様……」 身体中血に染まりながら、フェイトはバイクに轢かれ、骨を砕かれ動けずにいる岩造の元に這うように近付いた。 「大丈夫だ、フェイト……無事でよかった。フェイト、俺はおまえの事を一番愛しているんだ」 苦しげだけれど、とても優しい彼の言葉に、フェイトは涙を落とし彼に覆い被さった。 「岩造様の事を一番愛しています」 |
||