校長室
砂上楼閣 第一部(第3回/全4回)
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合図を受けたマッシュはすかさず隠し持っていたリターニングダガーを謙信に投げつける。 「不識庵様!」 ダガーは、ローザマリアが素早く投げた皿に遮られて、謙信に傷を負わすことができなかったが。例えそれが薔薇学とは全く関係のないマッシュの仕業であっても、飛び道具が放たれたことだけは、揺るぎない事実である。 「これが地球人のやり方か!」 酒場にいた吸血鬼たちから次々に非難の声が上がる。 第一声をあげたのは、もちろんシャノンである。 「タシガンが住みにくくなったのはお前らのせいだ! 地球人は出てけ!」 予想外の事態に薔薇学生たちの対処は遅れた。 水を運ぶための天秤棒や、肉を切るためのナイフなど、近くにあった武器になりそうなものを掴んだタシガンの民は、薔薇学生たちに飛びかかった。 大いなる暴力が薔薇学生たちの元に襲い掛かると思われたそのとき、突然、大きな水音が響いた。 店内で揉み合う人々に向かって、横合いから誰かが水をぶっかけてきたのだ。 ずぶ濡れになった吸血鬼たちの視線が、一点に集まる。 そこにいたのは、大きな水瓶を抱えたブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と黒崎 天音(くろさき・あまね)だ。 天音の視線が、真っ直ぐにシャノンを射抜く。 「謙信さんにダガーを投げたのは、君の仲間のように見えたけどね」 「…何を根拠に」 シャノンの反論を天音は敢えて無視する。 それ以上、天音はシャノンに言葉をかけようとはしなかった。 足早に謙信へと近づいていくと、淡々と言い放つ。 「仮に僕らがタシガンを去るとして……その結果、各地で地球人排斥が勢いを増したとしよう。そうすれば、一時的とはいえ、地球人の入植を許容したともとれるアーダルヴェルト卿に対して、糾弾が飛び火する可能性もあると思うけど。 現にこのままここで争いが起きれば、それもまたタシガンの民を抑えきれなかったアーダルヴェルト卿の落ち度となるだろう。これがどういうことか、貴女なら理解してると思っているのは、僕の買いかぶりなのかな?」 半ば強引ではあったが、浮遊島を出立した飛空艇は、外務大臣を乗せ一路タシガンへと向かっていた。 飛空艇の現在地は、タシガンまで残り半日行程。 ここまで来るとインターネットや携帯電話等の電波も繋がりはじめる。 狭い船室の中でで時間を潰していた蒼空学園教師酒杜 陽一(さかもり・よういち)とフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)の元に、「艦橋に来て欲しい」という連絡が入ったのはちょうどその頃だった。 艦橋に顔を出すと、そこには2人のイエニチェリとハイサム外務大臣、同行していた教師がいるだけだ。自動操縦にしているのか、船員の姿は見あたらない。 訝しがる酒杜にルドルフが声をかける。 「ご足労いただき申し訳ありません。これからテレビ電話を通して、緊急会議を開くのですが。蒼空学園教師である酒杜先生にもぜひご参加いただければと思い、お声かけをいたしました」 「あぁ、そういうことなら」 ルドルフの説明に酒杜は頷いてみせた。 天井から吊された大きなモニターには、ジェイダスを筆頭に、マフディー・アスガル・ハサーン(まふでぃー・あすがるはさーん)やアルフライラ・カラス(あるふらいら・からす)といった薔薇学教員たちの姿が映し出されている。 人払いがなされた上、この場には大臣まで同席しているのだ。 ジェイダスが何を思い、この面子を招集したのか。 酒杜はジェイダスの真意に注目した。 (砂上楼閣 第一部第三話了)
▼担当マスター
芙龍らむだ
▼マスターコメント
第三話の公開が遅くなってしまったこと、心よりお詫びいたします。 そして、再三の遅延に関わらずお待ちくださっていた皆様、 本当にありがとうございます。 砂上楼閣第一部最終話のシナリオガイドは、2/19(金)発表予定となっております。 パラミタの空の下、もう一度皆様とお会いできますように。