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リアクション
Scene4 空虚なる者の伸ばす手の先
それは偶然か執念か。
五条 武(ごじょう・たける)は、赤毛の女の居所を突き止めた。
灯台下暗しにもほどがある。
彼女は、ツァンダの町の中に身を潜めていたのだ。
人通りの少ない、細い裏道でばったり会った瞬間、武は彼女に殴りかかって行った。
攻撃してきたことで、彼女も状況を察したか、素早く身構え、ちっ、と舌打ちして、腰に刺していた短刀を抜いた。
「よォサルファ、てっきりセレスタインでくたばったかと思ってたぜ?
何が目的だ……そっくりさんよ!」
叫びながら、武は、改造人間パラミアントへと変身する。
「はん……知りたきゃ聞き出してみるのね!」
「勿論、そうさせてもらうぜ!」
叫ぶなり、鉄甲を装備した連続攻撃を繰り出す。
サルファは短刀で受け止め、受け流していたが、急に顔をしかめて体勢を崩した。
「隙ありっ!」
渾身の蹴りを、しかしサルファは両腕で受け止めて、飛ばされる惰性のまま距離を置く。
「……? そんなものか? 前に戦った方のが、よっぽど強かったぜ!」
挑発しながら、パラミアントは、こいつ、もしかして怪我が治っていないのか? と思う。
「……言ってくれるわね。
ちょっと隙をついたくらいで調子に乗って欲しくないんだけど」
「一応訊くが、お前あのサルファとはどういう関係だ?
お前も”作られた命”なのか?」
ぷっ、とサルファは笑った。
「それは、わざわざ訊かなきゃいけないくらい大事なこと?」
動いた、と思った瞬間、サルファに懐を取られていた。
早い、と驚きながら、咄嗟に身を引いたところに短刀が突き出され、躱した攻撃の直後に、反対手に手首を掴まえられて投げ飛ばされる。
(ちっ、こいつも力が半端無い!)
パラミアントは体勢を立て直しながら着地するが、サルファの追撃が来ない。
不審に思った直後、身を翻すサルファに気づいて、
「逃げるな!」
と叫んだ。遠距離でも攻撃できる、ドラゴンアーツの蹴りを放つ。
逃げようとしていたサルファは、突然別の誰かに目の前に立ち塞がられ、咄嗟に立ち止まった。
いける! とパラミアントは思ったが、その男は、サルファを引っ張り込んで地に伏せさせると、パラミアントの攻撃を受け止めた。
ドガガッ!
と轟音が上がって、側の建物が、パラミアントの攻撃の巻き添えを受けて砕ける。
「……誰よ!?」
意外にも、誰何の声は、サルファから上がった。
「ピンチのようだな、お姉さん。
助っ人の便利屋はいかがかな? お安くしておくぜ」
「間に合ってるわ」
「即答かよ」
トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は苦笑した。
「何だお前?」
改めて、パラミアントが問いかける。
「そいつは敵だぞ」
「そうかなー。
いや、だって、美女と野獣が戦ってたら、義侠の男なら美女を取るでしょ、ふつ〜」
「どけ。どかないなら、君も敵とみなす」
「いいぜ? 俺は彼女の味方をすると決めた」
トライブは不敵に笑う。
「はあ?」
顔をしかめたのは、サルファの方だ。
「何考えてんの、あんた。正気? バカなの?」
「ひでえ言われよう。
本気だぜ」
トライブは肩を竦める。
「ひゃー、何これ、派手にやったね〜!」
騒ぎを聞きつけ、そこにまた別の声が割って入った。カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)だ。
「あ!」
カッティは、サルファの姿を見付けると、走り寄る。
「いいところで会えた!
できれば話がしたいと思ってたんだ!」
「お前、こんな街中であまり派手な戦闘するなよ、捕まるぜ」
イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)に指摘されて、パラミアントは苦々しく顔を背けた。
「話がしたい。不意打ちはしない。少しいいか?」
イレブンはサルファに問いかけた。
いいも悪いも、3人に囲まれた状態のサルファは、不意をつきでもしないとこの場を脱することはできないのだが。
「怪我してるの?」
サルファにヒールをかけようとして、あれ? と、カッティは首を傾げた。
(ヒールが効かない……?)
思う間もなく、カッティはばしりと手を払い退けられる。
「教えてくれないか。目的は何だ?」
イレブンの問いに、サルファは疑わしげな目を向けた。
「命、と言ったわ」
「コハクを殺すことは、ただの命令だろう。
そうじゃなくて、あんたの人生の話をしている。
生きる意味といってもいい。あんたは、何がしたいんだ」
ぷっ、とサルファは吹き出した。
「お笑いだわ。刺客にそんなことを訊いてくる間抜けがいるなんて!」
「あのねー、そんなこと言うけど、コハクを殺して何がどうなるっていうのよ? 何か起きるの?」
ムッとしてカッティが訊ねる。
「知らないわね。興味も無いわ」
フン、と吐き捨ててから、トライブを見た。
「味方がどうこう言ってたわね。
私は鏖殺寺院の命令で動いてるのよ? 今、神子抹殺命令が出てるのを知らないの?」
鏖殺寺院。
カッティはイレブンと顔を見合わせる。
トライブは苦笑した。
「望む所だぜ」
「……おいっ!」
イレブンは咎める声を上げる。
「きゃっ!」
突き飛ばされたカッティが尻餅をついた。
できた隙に、サルファは飛び出して走り去る。
「待て!」
パラミアントが叫んだが、イレブンが制した。この場はそういう約束なのだ。
トライブだけが、後を追って走り出す。
「もー! 突き飛ばすことないのに! 今度会ったら敵だから!」
カッティは叫んだ。
「……名前」
イレブンが呟く。
「何?」
「サルファ2号、じゃあれだろ?
何かいい名前を提案しようと思ったんだが、話をそっちに持って行けなかった」
「…………」
パラミアントは深い溜め息を吐く。
「しかもろくな名前じゃなかったんだよ」
その候補をいくつか聞いていたカッティのセリフが、追い討ちをかけた。
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