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リアクション
■ツアンダ8
■街中
『さあ、街中に突入して各機、次々に今まで溜めていたブーストを開放していきます』
先頭を行く刀真と陽太が、前後を入れ替え、陽太が先導して刀真が続く形となる。
「やれる事は全てやった!」
刀真が、自前の飛空艇をレース仕様とした機体を駆って、陽太の後へと続いていく。急カーブを曲がっていった陽太に続いて、壁を蹴り飛ばした強引な方向転換。
「いつも一緒にいるこの飛空挺なら絶対俺達に応えてくれる!」
そして、彼らを追っているのは、棗、葛葉、リーズ。
リーズがバーストダッシュを二連続で用いたブースト加速で、一気に葛葉を抜き去る。
「AAAALaLaLaei!!!!」
「あかん、完全にトんだ……」
なんか絶好調で叫んでいるリーズの後部席で陣は嘆息を漏らした。
後方。
ローラが、これまで溜めてきたブースト加速を開放して追い上げ始める。そうして、各選手が次々とブースト加速を行って行く中――
「くっ、こうなったら優勝して、勝利をるるさんに捧げるっすよ!」
良雄の機体が街中の壁を擦りながら、強烈に加速していく。
その前方を走っていたのは沙幸。
「――沙幸さん!」
「ねーさま!!」
美海が沙幸を庇うようにして良雄と接触する。
美海が壁の方へと弾き飛ばされていくのを視界の端に掠めながら、沙幸は、なんとか良雄をかわした。
◇
「どうやら、入賞は難しそうですね」
ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は機体に残されている力と現状を鑑み、つぶやいた。
後方を見やる。
「ならば、わたくしが行えることは一つ」
言って、ハンスは、すぐそこまで迫っていた良雄のコースを塞ぐように機体を巡らせた。
『ハンスが良雄に弾き飛ばされる! しかし、ハンスを弾くのに夢中だった良雄、カーブを曲がりきれずにコース外へ突っ込んでいくー! そして、良雄機が突っ込んだのは――と、特別観覧席ぃ!?』
会場のスクリーンに映し出されている映像が、もくもくと噴煙をあげる特別観覧席の様子を映し出す。
その煙が晴れ、映ったのは――床に投げ出されて倒れる、るると良雄の姿。そして、良雄の体当たりを受けて倒れてしまったらしい蒼空学園理事長兼生徒会長の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の姿だった。
「良雄様が環菜を押し倒したぞ!」
スクリーンを見ていたパラ実生の一人が、そう声を上げ、他のパラ実生の声が次々に続く。
「邪神となった今、全校長を自分のモノにするおつもりじゃーっ!」
「女だけじゃなく男もか?」
「当たり前じゃっ! 良雄様はそんな器の小さいお方じゃないわっ!」
『な、なんと、御人選手。レース参加に見せかけて、実は御神楽校長を狙っていたのかーー!? ともあれ、レースは佳境を迎えております!』
スクリーンの映像がゴールを目指す選手たちに切り替わる。
◇
実況が鳴り響いて、遠く聞こえた特別観覧席。
「……ほう。そういうことなの?」
環菜が身を起こしながら、冷たい視線で良雄を見据えていた。良雄は、かたかたと震えながら首を小刻みに振って、
「い、いや、決してそーいう……わけでは……」
「良雄くん……」
聞こえた、るるの声に振り返る。
「るるさん、無事で良かったっすー! て……あ……そ、その、これは違うっす! これは――」
ばたばたと慌てた良雄のほうに、るるがにっこりと邪気無く微笑み、
「がんばれー」
「だから、違うんっすよぉおーーー!」
良雄の男泣きがツアンダの街に哀しく響いたとかなんだとか。
◇
『さあ、ここで一気に追い上げてきたのは、ブルーズと黒崎! ブルーズを前にして黒崎が……これはスリップストリームを狙っている! っと、ここでアルメリア、勝負に出たか! 黒崎の後ろへ更に付いてスリップストリームを狙っているー!』
『ブルーズは黒崎に合わせて動いていますから、そんなに無茶な動きは出来ませんからね。単騎の後ろにつくより動きが読みやすいです。また、残りは直線が多いですから、もしかしたら上手くいくかもしれませんね』
『さあ、先頭は影野。その後ろに付いているのが刀真。その後を、追って後続を抜いてきたのは――ブルーズ、黒崎、アルメリア! ゴールを制するのは誰だー!』
ゴール前の直線――
先頭を切っていたのは、陽太だった。後方に刀真。
刀真に並んだのが、ブルーズで、そのピッタリ後方に天音がついている。更に、天音の後方、アルメリア。やや離れて、棗。
スリップストリームの恩恵を受けているのは、刀真、天音、アルメリア。
と――。
「そろそろか」
ふいにブルーズが刀真の機体に機体を思いっきり寄せた。
「――っく!?」
互いに機体はヘビー仕様。ゴールを前にして、残された耐久力もほぼ同じだったらしい。二つの機体は、激しい音を爆ぜて弾き飛ばされていく。刀真とブルーズがリタイアして、安全に鼻先を出した天音が最後の加速を開始する。陽太との機体の差が詰まっていく。
「さて、どこまで持つかな?」
「ッ、逃げ切れるか!?」
陽太が奥歯を噛みながら、ひたすらにゴールを目指していく。
そこで勝負をかけたのは、アルメリアだった。
天音の後方を抜けようと加速する。
その刹那、アルメリアの機体はコントロールをわずかに失った。
「っくぅ! 駄目……!」
それを加速で無理やりに制御しようとする。そして――その機体は天音の機体に衝突した。
天音の機体が弾き飛ばされ、アルメリアの機体はそのままコース外へと滑って壁を擦った。
チャンスが巡ってきたのは、後方に居た――
■レース結果発表
ゴールラインを超え、会場をゆっくりと周回していた小型飛空艇の上で、棗と義経が、互いの差し出した掌をパシンッと打ち合わせる。
1位:【西】影野 陽太(かげの・ようた)(ノーマル)
2位:【西】棗 絃弥(なつめ・げんや)&源 義経(みなもと・よしつね)(ノーマル)
3位:【西】七枷 陣(ななかせ・じん)&リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)(ライト)
4位:【東】佐々良 縁(ささら・よすが)&天達 優雨(あまたつ・ゆう)(ノーマル仕様)
5位:【西】瀬島 壮太(せじま・そうた)&ミミ・マリー(みみ・まりー)(ノーマル)
6位:【西】天海 総司(あまみ・そうじ)(ノーマル)
7位:【東】カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)&ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)(ノーマル)
8位:【西】ローラ・アディソン(ろーら・あでぃそん)(ヘビー)
9位:【西】葛葉 翔(くずのは・しょう)(ライト)
10位:【西】久世 沙幸(くぜ・さゆき)(ノーマル)
11位:【西】クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)(ノーマル)
12位:【東】ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)(ノーマル)
13位:【東】咲夜 由宇(さくや・ゆう)&アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)(ライト)
14位:【西】アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)(ノーマル)
15位:【西】藍玉 美海(あいだま・みうみ)(ノーマル)
16位:【西】本郷 翔(ほんごう・かける)(ヘビー)
リタイア:【東】ヒルデガルド・ゲメツェル(ひるでがるど・げめつぇる)(ライト)
リタイア:【西】天城 一輝(あまぎ・いっき)&ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)(ノーマル)
リタイア:【東】志位 大地(しい・だいち)(ヘビー)
リタイア:【西】エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)&パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)(ヘビー)
リタイア:【西】樹月 刀真(きづき・とうま)&漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)(ヘビー)
リタイア:【東】ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)(ヘビー)
リタイア:【西】ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)(ノーマル)
リタイア:【東】御人 良雄(おひと・よしお)(ヘビー)
リタイア:【東】黒崎 天音(くろさき・あまね)(ノーマル)
リタイア:【西】アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)(ヘビー)
◇
コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)たちが一輝たちを見つけたのは森を出てすぐの場所だった。
一輝とユリウスは、壊れた飛空艇をトレーラーに載せているところに立ち会っていた。
「おーーいっ!」
コレットはローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)のバイクを降りて、彼らに駆け寄り、思いっきりダイブした。傷だらけの一輝とユリウスが二人がかりで受け止める。
一輝が近づいてきていたローザの方へと顔を向け、問いかけた。
「どうなった?」
「ツアンダコースでは、一位、二位分と、2区間分が西シャンバラの点数になりましたわ」
ローザが微笑みながら言って、一輝とユリウスは満足そうに互いの顔を見合わせていた。
◇
「無事か?」
問いかけながら近づいてきたブルーズへと、黒崎は軽く手を振った。傍らで傾いている飛空艇は未だ熱を持って薄煙を噴いている。
ブルーズが、ふむ、とひとつ間を置いてから、
「惜しかったな」
「勝負は時の運ともいうしね」
天音の返答に、ブルーズが小さく溜息をつく。
「あっさりとしている。我は少々悔しかったほうだ」
彼は、チームに貢献しようと気合を入れていた方だ。
天音は片目を細めながら微笑してから、ふと、
「ああ。悔しかったといえば……」
「ん?」
薄く首を傾げたブルーズの前にバナナの皮を取り出す。
「レース中、これを投げて妨害しようと思っていたんだ。すっかり忘れていたよ」
それを聞いたブルーズは、なんだかとても難しい顔をしていた。
◇
「ま、けっこう面白かったよな」
壮太が素っ気なく言って、飛空艇を降りる。しかし、控え室へと戻りながらゴーグルを取った彼の顔は、少年のような無邪気な笑顔を浮かべていた。ミミが彼の後を足取りも軽く追いながら、完走のご褒美にと食べ物をねだる。
その向こうで――
「よく頑張ってくれたな、ブルーフィッシュ!」
総司が己の飛空艇に頬ずりをして、
「あちっ」
当然のように熱さに悲鳴を上げた。
そして、彼は頬を手で摩りながら「へへ」とこぼし、
「ローラみたいにじゃじゃ馬だな。ま、そこが可愛いんだけどな!」
ぽん、とシートを叩きながら笑った。その横ではローラが完走できた喜びにぴょんこぴょんこ跳ねていた。
そして――
最後に会場のゴールを超えた本郷は、ゆったりと足取りで飛空艇を降り、その場に居る選手たち全員――西も東も全員ひっくるめた全員へ向けて言うように、軽く手を広げた。
「宜しければ、レースを無事終えられたことを祝して、皆さんとお茶会を」
それから、本郷は「もちろん――」と置き、微笑んだ。
「用意は出来ております」
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