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リアクション
2つの地に流れる時間
最寄駅に降り立つと、そこにはもう弟の小林 謙也が待っていた。
「久しぶり姉ちゃん。ってか遅せぇーし」
「謙ちゃん? どうしたのこんなところで」
思わぬ遭遇に小林 恵那(こばやし・えな)が尋ねると、謙也は母に頼まれて荷物運び役に来たのだと答えた。
「姉ちゃんのことだからきっと大荷物で来るだろうからってさ」
さすが母親、娘のことを良く分かっている。
あれもこれもと詰め込んだ土産のせいもあって、短期間の滞在の予定のわりに恵那の荷物は多い。
駅から家まではそれほど距離はないけれど、これだけの大荷物を1人で運ぶのは大変だ。
「ほら、そっち持つよ」
そう言って恵那の荷物を持ってくれる謙也の腕には、以前見たときよりも筋肉がついている。ちょうど成長期にあたっているためか、背も随分と高くなっている。今はもう、恵那より10cmは高いだろう。
「俺この後部活だから、早くしろよ!」
そんなことを言いながら、弟はさっさと歩き出した。
「姉ちゃんはこの休みはどうするんだ? こっちの誰かと会いでもするのか?」
「うん。家に帰って着替えたら、バレエの皆のとこに行くつもり」
パラミタに行く前は、恵那はバレエを習っていた。練習はきついこともあったけれど、その中で出来た友人は、恵那にとって地球での大事な友達なのだ。
久しぶりに地球に帰ってきたのだから、のんびりと友人や家族とともに過ごしたい。
家までの短い間にさりげなく、謙也は恵那がいなかった間の家族の近況や、自分にあった出来事を、短くまとめて教えてくれる。
謙也の所属している部が今年は大会まで行っていて、今日もその練習に行くのだということ。恵那がいなくなってから祖母が寂しそうにしていること。
自分がパラミタに行っている間の出来事を聞くのは面白かった。
「姉ちゃんの方はどうだ? パラミタでいいことでもあったか?」
謙也は恵那にも話を振ってくれる。こういうところも、前会ったときと比べて成長しているのを感じて恵那は嬉しく思った。
パラミタには地球にないものがある。向こうでも友人が出来た。蒼空学園での毎日。
「へぇ、すげえなパラミタって。面白そうだ」
「うん。楽しいよ」
地球での話を聞いて、自分の近況を話して。
けれど、そうしているうちにふと恵那は泣きそうになった。
自分がいない間も地球では時間が流れている。
家族には様々な出来事があって……でも、その中に自分はいない。
可愛がっていた弟が成長していて……でも、その過程を自分の目では見られない。
そう思うと切なくて。
自分が生活している世界は、この地球ではなくパラミタなのだと……家族の上に流れている時間と自分のそれとは全く異なるものになってしるのだと、恵那は実感する。
それぞれの違う生活があって……だからこそ、これは『帰宅』ではなくて『里帰り』なのだろう。
「そういや母さんが、今日は姉ちゃんの好きなもんばっか作ってやがったぜ。俺はおでんが良かったのによ」
ぶつぶつ言う弟が愛しくて、恵那はふふっと笑みをこぼす。
「今日だけは我慢してね。だって、お母さんのごはん食べるの久しぶりなんだもの」
地球とパラミタ。
遠いようで近くて、近いようだけど遠い世界。
その距離を越えて、この期間だけは
――小林家の娘として『里帰り』。
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