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仮初めの日常

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仮初めの日常

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 そんなプレナの下に、少女が2人近づいてきた。
「お疲れさまでした」
 マドレーヌと飲み物を乗せたトレーを、緊張した面持ちでプレナに差し出してくる。
「それに、みんなのためにいつも、ありがとうございますっ」
 そう言い、尊敬の眼差しを向けているのは七那 夏菜(ななな・なな)だ。その後ろにはぺこりと頭を下げるパートナーの七那 禰子(ななな・ねね)の姿もある。
 2人とも百合園生だ。だけれど、白百合団には入っていない。
「プレナはまだまだ白百合団員としては半人前だから沢山勉強しているところ」
 プレナはそう答えて、ジュースを受け取った。
「あの……こんなこと聞いていいのかわかりませんけど、どんなことをされたんですか?」
 団員ではないことと、年齢的なこともあり、夏菜は一連の事件について殆ど理解していなかった。
 自分達のことを、白百合団員がどのように持ってくれていのかがとても気になってこうして白百合団員に聞いて回っているのだ。
「街にキメラが入り込んだのは知ってるよね? 一般人じゃ倒すのは無理な相手だったから、プレナ達も避難の誘導や、討伐に協力したんだよ」
 優しく、プレナは下級生に話して聞かせる。
 自分が、知りたいと思っているように、自分より小さな子達もこうして知ろうとしている。
 白百合団員として活動しているだけで、このように尊敬の目を向けられることもあるんだな、と。
 プレナは責任と自覚をより知っていく。
「白百合団は今回の離宮での作戦や、悪い組織への攻撃に加わるようなこともあるけど、基本的には守る為のグループなんだよ。救護したり、下級生の面倒を見たり、お手伝いしたり。誰でも入ることができるし、見習いからでも大丈夫だから興味があるのなら、入ってみない?」
 プレナの勧めに、夏菜は首をぶんぶんと横に振る。
「ボ……ボクなんか、無理ですよぉ! だって、力もないし、子供だし、ほかの人を守るなんて……絶対に無理です。
 自分は白百合団に入れるような凄い人ではないと、夏菜は慌てるのだった。
「そういうことができる人って、すごいって思います。すごい……尊敬しますっ!」
「それはね、やるか、やらないかだけのこと。ボランティアみたいに考えればいいんじゃないかな。軍隊じゃないし、危険な仕事に参加する義務とかもないから」
 そして、プレナはいつか一緒に頑張れるといいねと微笑みかけると、情報収集に戻っていった。
「だ、団長は優しそうな人ですけど、団員達とのお話で急がしそうですよね。副団長は居ないみたいだし……いても、ちょっと怖い印象だし……。班長の方にもお話聞いてみようかな……」
「ほら、お話もいいけど、手伝いもしないとな!」
 壁際に佇む葵に目を留めた夏菜の腕を、禰子が引っ張った。
「そうですね。頑張った方々に、楽しんでいただきませんと!」
「そうそう」
 会場では夏菜にはちょっと聞かせたくない話も、時々流れてくる。
 そんな話が夏菜の耳に入りそうな時には、こうして禰子がそれとなく阻んでいた。
「あたしも白百合団の人のこと、尊敬してるぜ。特に上の人間は大を生かす為に小を殺すような決断もしなきゃなんないだろうし。下は下でその決断を信頼して従うんだろうから」
 飲み物を配る夏菜の後ろで、禰子は夏菜には届かない小さな声で、呟いた。
 禰子にはそんな決断はできない。
 夏菜が一番だから。
 夏菜が助かるか他の全員が助かるかなら、迷わず夏菜を取る。
「他を全員殺せ……ならちょっとは考えるけど、1人2人ならノータイムだな」
 もし、将来夏菜が白百合団に入って、前線に出ることになったのなら……自分はどうするんだろうな、などと、彼女の背を見ながら禰子は考えるのだった。

「キメラ討伐にご協力いただいた方ですか?」
 声をかけられた閃崎 静麻(せんざき・しずま)が振り返ると、そこには白百合団団長の桜谷鈴子の姿があった。
「は、はい」
 声が上ずってしまうが、静麻はにっこり微笑んだ。
 そしてこう自己紹介をする。
瀬崎静華ですわ。お招きいただき、ありがとうございます」
 握手でもしたいところだが、触れてバレたら変態と思われるかもしれないので、やめておく。
 なぜなら、静麻は今、長身美女に女装している。
 百合園で行われる打ち上げに、男性が参加できるわけがないと思い込んで、潜入するために衣服から化粧及び声色まで、完璧に仕上げての堂々たる参加だった。
 校門前で男性も参加できると知ったのだが、今更簡単に男性の姿に戻ることも出来ず、着替えもなく。
 女性で押し通すことにしたのだ。
「お力を貸してくださり、ありがとうございました。本日はどうぞ楽しんでいってください」
「ええ、楽しませていただきますわ」
 礼をする鈴子に、静麻も無骨にならないよう気をつけながら礼を返す。
 そして彼女が立ち去った後に、ほっと息をついた。途端。
「蟹股になっているでござる」
 パートナーの服部 保長(はっとり・やすなが)の声が飛び、静麻はささっと足を真っ直ぐに戻す。
「協力者の方ですよね。著名お願いできませんか?」
 静麻の前にバインダーが差し出される。
 挟まれた紙には『アレナ・ミセファヌスの像作成の請願』とタイトルが記されている。
「離宮で眠りに就いたアレナさんのことは、ご存知ですよね? 騎士の橋の賢しきソフィアの像の場所に微笑みのアレナの像を作ろうという話が百合園生から出ているんです」
 そう説明をしているのは志方 綾乃(しかた・あやの)だ。彼女は百合園生でもなく、発案者でもないのだが、活動に心を動かされ、キメラ討伐で受け取った報酬の全額を寄付して協力を申し出たのだった。
 静麻は軽く眉を顰める。静麻は誰が、どの団体が、離宮をどうしたいのかが、とても気になり会場で探っているところだった。
 バインダーを受け取ってから、綾乃に問いかけてみる。
「著名を集めている方々は、離宮に関わる事を最後は美談で締め括りたいのですか?」
 その問いに今度は綾乃が眉を顰めた。
 静麻は問いかけを続けていく。
「アレナさんは本当は人柱として離宮に残る事は嫌だったかもしれません。今、彼女の本心を知る術はありませんがこのまま離宮に関わるお話を終わらせるか否かは地上にいる私達次第です。アレナさんの像を作り、お話を終わらせるのも良いですが今の貴女達なら別の道を選ぶ事も出来ませんか?」
「あなたは離宮に向われた方なのでしょうか? 私も著名を集めている方々も離宮での事件は詳しくは知りません。アレナさんがどんな気持だったのかも、わかりませんが、彼女が死んでいないことは理解しています。でも、生前に像を作ることだって、普通にありますし、彼女に感謝している私達が彼女の姿を残そうとすることは、決して悪いことではないと思います。何より、百合園の方々の何かしたいという気持はとても大切ですから」
「つまり、別の道を選ぶかどうかは、別の問題というわけですね。……わかりました」
 静麻は、『瀬崎静華』とサインをして、バインダーを綾乃に返した。
「パートナーの神楽崎と申す娘はどう思っているのでござろうか」
 保長がサインを求める人々を見ながら、そう言った。
 静麻と一緒にこの会場で聞いた噂では、離宮調査隊を率いた神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、以前より風体が厳しくなったとのことだった。
「パートナーを人柱として離宮に残し自分は地上に送り返される。責任感が強い者なら自分を激しく責めるでござろうか」
「著名の責任者の方には、私からもお話しましたが、神楽崎優子さんにはしっかりと面と向って話し、了承を取ることになっています」
 綾乃はそう言った後、静麻、保長にしっかりとした口調でこういうのだった。
「像の建設は、彼女を結果として体の良い人柱にしてしまったことの責任逃れでもなければ、英雄に祭り上げる訳でもなく、そして彼女の像はお墓でもありません。像を見る度に、自分達のあの時の無力さと悔恨、アレナへの感謝を忘れないために作りたいと申し上げるつもりです。優子さんが拒否されたのなら、計画は中止するべきだと考えています」
「それをお聞きして少し安心しました」
 静麻と保長が微笑みを見せる。
「では、私はこれで」
「はい、ありがとうございました」
 静麻と保長は引き続き皆の言動の観察をすることにし、綾乃は代表者の方に歩いていった。