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リアクション
●ユグドラシルの『根』付近
「この先に、イルミンスールの生徒が一人で入っていくのを見たんだね?」
「はい。一人じゃ危ないですよって言ったんですけど、聞こえてなかったみたいで……この奥にはニーズヘッグが潜んでいるそうです。大丈夫でしょうか……」
不気味に広がる空間の奥を見つめて、五月葉 終夏(さつきば・おりが)と関谷 未憂(せきや・みゆう)がどうしようかといった表情を浮かべる。
「ねーねー、これはチャンスだよ!? みゆう、蛇の王様に話、したいって言ってたじゃん! きっと先に向かった子も、蛇の王様と話がしたかったんだよ!」
「……お菓子、いっぱい持ってきた……」
リン・リーファ(りん・りーふぁ)とプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が示す通り、未憂は出来ることならニーズヘッグから情報を引き出せないかという思いでここまでやって来たのであった。
「そ、そうだけど……」
未憂が、終夏の様子を窺うように細々と声を漏らす。イルミンスールが襲われている最中、自校の生徒がこんなことを思うのは不謹慎ではないかとの思いからだったが――。
「……奇遇だね。私も、ニーズヘッグに何があったのか、聞いてみたいって思ってたんだ」
フッ、と微笑んで、終夏も同意を示す言葉を口にする。
「ちょ、ちょっとタンマ、まさかとは思うけど終夏、もしかして……」
話が妙な流れになりそうなのを危惧したブランカ・エレミール(ぶらんか・えれみーる)に、終夏がブランカの予想してしまった未来を口にする。
「私、行く。会って話が出来るのなら、聞いてみたいことがあるんだ」
「か〜、やっぱそうなるか〜。……いやさ、最近どっか上の空って感じしてたし、演奏にも迷いがあったし、何か悩んでんだろな〜って思ってたけどさ」
はぁ、とため息を吐いて、ブランカが言葉を続ける。
「ま、終夏が納得して決めたって言うなら、俺は口出ししない。先に何があるか分からないから、俺も付いて行くぜ。オウロも来るよな?」
「……勝手にせい」
ブランカに呼ばれたコウ オウロ(こう・おうろ)が、淡々としつつも終夏に付いて行く様子を見せる。
「あの、いいんですか? きっと危ないと思いますけど……」
「あっちがいいって言ってるんだからいいんじゃない? みゆう、行こっ! 急がないと蛇の王様、どっか行っちゃうよ!」
「……行く……」
「分かった、分かったから引っ張らないでっ」
こうして、未憂と終夏は、ニーズヘッグに会うためにユグドラシルの『根』へと足を踏み入れていく――。
「あん? 何だテメェ、わざわざオレに喰われに来たかぁ?
……にしちゃあ、シケた身体だなぁ。喰うところねぇんじゃねぇか?」
「失礼しちゃうなー、胸は小さいけど他は意外と……ってそうじゃなくて!」
威嚇するように目を細めて見つめてくるニーズヘッグにも、立川 るる(たちかわ・るる)は怖じることなく言葉を発する。
「あのねあのね、るる、ユグドラシル行きたいんだけど、連れてって貰えないかなぁ?」
「……はぁ!?」
これにはニーズヘッグも予想外と言った様子で、驚きの感情を含んだ声を響かせる。
「だってだって、ユグドラシルってパラミタでいっちばん高いんでしょ? その天辺から空を見てみたいなぁって思ったの!」
「……下らねぇ。何を言うかと思えば……」
興味を無くした様子で、ニーズヘッグが視線を外して言葉を響かせる。
「喰う気も失せた、とっとと帰れ」
「えー! るるを連れてってくれたら、地球のことも教えてあげられるよ? 流行のファッションとか音楽とか」
しかしニーズヘッグに答える気はない。
「もー、そんなにケチンボだから、ラタトスクさんやフレースヴェルグさんにいつも馬鹿にされるんだよ? 今回だって、自ら進んでって訳じゃなくて、何か調子のいいこと言われてやって来たんでしょ?」
「……うっせぇな! 悠々と地上に出てうめぇモン喰ってるヤツらと比べんじゃねぇよ!」
るるを追い払うように吠えたニーズヘッグが、鼻先を入口の方へと向けた。
「んだよ、テメェと同じニオイがしやがった。おおかたテメェを追って来たんだろ」
ニーズヘッグの響かせる言葉にるるが振り返ると、箒や飛空艇といった乗り物に乗って、終夏と未憂、そのパートナーたちがやって来る。
「あっ、いました!」
「無事だったみたいだね。ひとまず安心、かな」
乗り物を降りた終夏と未憂が、るるの姿を捉える。次いで、数十メートルはあろうかといったニーズヘッグの方へと視線を向ける。
「テメェらもオレに喰われに来たのか?
さっきよりはマシだが、ったく、どいつもこいつもシケてんなぁ」
ニーズヘッグの物言いにるるが不満げに頬を膨らませる中、二人が恐れつつも進み出、話をしに来たことを告げようとした矢先、周囲を衝撃が襲う。
「チッ、ここに攻撃までしてきやがった。あくまで抵抗しやがるって言うんなら……いいぜぇ、オレが直接相手してやらぁ!」
下顎で振動の大きさを感じ取り、このまま放っておけば『根』を切り離されてしまうと予測したニーズヘッグが、自らの身を捩らせ入り口へと向かっていく。
立て続けに襲う振動に、その場にいた生徒たちは巻き込まれ、やがて意識を失っていった――。
●西側のウィークポイント付近
遠野 歌菜(とおの・かな)の生み出した炎の嵐が、イルミンスールとユグドラシルとの接合点、それを守るように蔓延っていた蛇ごと炎に包み、数本の枝のようなものを崩れ落ちさせ、蛇の数匹を塵と消す。
(この機を逃せば、イルミンスールの守りが突破されるかもしれない……! 私の全力の力、ここで使わずに何時使うの!!)
歌菜の耳にも、Ir2とIr4の苦戦は伝わっていた。しかし、彼らが踏み止まっているからこそ、Ir1、Ir5の生徒たちは前方の敵だけを相手に出来る。そして、そのチャンスは二度はないかもしれない。
「思い切り行け、歌菜! 守るぞ、イルミンスールを!」
月崎 羽純(つきざき・はすみ)の呼びかけに、歌菜は全力でウィークポイントを攻撃することで応える。片手槍の二本使い、倍速で突き出される槍が、イルミンスールとユグドラシルの境目をこじ開けんとする。
「イルミンスールは大事な、大切な場所なんだっ……! 絶対に守ってみせる!」
歌菜の攻撃を妨害せんと向かってくる蛇は、研ぎ澄まされた感覚で危機を感じ取った歌菜に攻撃を回避され、羽純の光輝く槍に貫かれて息絶える。
ならば、とばかりに複数で襲い掛かろうとした蛇たちは、巻き起こる氷の嵐に包まれて氷の彫像と化した。
「ふぅ、これで少しは楽になったのかな?」
ブリザードを見舞った佐伯 梓(さえき・あずさ)が一息吐いた瞬間、彫像のいくつかにヒビが入る。
「わ、まだ動ける感じ? オゼト、今の内に倒しちゃってー」
梓の要請に、オゼト・ザクイウェム(おぜと・ざくいうぇむ)が無言のまま頷いて飛び出し、盾を構えつつ槍の一撃を打ち込む。電撃を纏った槍に貫かれ、二匹の蛇が相次いで命を絶たれる。
(……この戦いを終えた後、なぜイルミンスールが攻撃を受けたのか、説明を受けたいものだな。生徒として、理解する必要があると思われる)
そのためには、イルミンスールに取り付いているユグドラシルの『根』を切り離し、ネットワークに蔓延る蛇を一匹残らず始末する必要がある。目的を果たすため、黙々とオゼトが梓の護衛を兼ねつつ、蛇を攻撃していく。
『魔法陣の方は守り切れている、今の内に可能な限り攻撃を加えてくれ!』
梓の耳に、かつて魔法陣への魔力供給のために入った時に聞こえてきたように、校長室に残る【アルマゲスト】のメンバーの声が響く。アーデルハイトの声がしばらく前から聞こえてこないのは、休んでいるからだという。
(大ババ様も疲れたのかなー? それじゃなおのこと、俺達が頑張らないとなー)
梓が、書物に浮かんだ呪文を詠唱し、宙に生じた光球を蛇の一群へ見舞う。闇の中で生きてきたニーズヘッグ、そのしもべである蛇が光に強いはずもなく、矢のように突き刺さる光を胴体に受けた蛇が、もがき苦しんだ末に物言わぬ骸と化す。
「うむ、所詮は生物としての蛇の短所を有するか。ならばこの冷線銃で皆凍り付かせてやる!」
パワードスーツに身を包み、さらに6脚歩行車に搭載した冷線銃を使い、北久慈 啓(きたくじ・けい)が前線の壁となる。その様相はもはや戦車と言っても差し支えなく、歩兵として随伴する生徒たちを大いにもり立てていた。
「みんな、今の内にウィークポイントへ! 蛇は私たちが引き受けるわ!」
須藤 雷華(すとう・らいか)が声をあげ、『根』を攻撃しようとする生徒たちを誘導しながら、自らも啓の攻撃をすり抜けて近付こうとする蛇に電撃を浴びせて散らせる。
(前は、ケイ君に任せて大丈夫そうね。後は、根が離れるまで戦線を維持するだけ……って言っても持久戦よね。技は温存したいところだけど……)
そう思い、雷華が背後のメトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)を見遣る。雷華と啓、メトゥスの内で強力な毒を解除出来るのは雷華だけ。こう敵が多い中、いつ毒を受けてもおかしくない状況で、雷華が技を発動出来るかどうかは生死にかかわる問題である。
「メトゥス、いざという時にはお願いね」
「大丈夫です。雷華さんのサポートはお任せください」
メトゥスが頷いて、自らの動力源である機晶石のある辺りに手をやる。大きく精神力を回復させることは出来ないが、機晶姫の回復能力は、そのまま交戦持続時間の延長へと繋がる、貴重なものであった。
(蛇の数を減らして、道を作る……このまま一方的にやられる訳にはいかないわ!)
確固たる意思を胸に、雷華の生み出した弾ける電撃があちこちで炸裂し、ウィークポイントへの攻撃を妨害しようとする蛇を退けていく。
「おやおや、皆さん張り切っていらっしゃますね。その中で、力になれているかどうかは分かりませんが……」
ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)の生み出した冷気が、直接攻撃というよりは冷気で生徒たちの体温を分からなくし、目ではなく嗅覚や体温で対象の存在を認知する蛇に対してのステルス効果を付与する。
生徒たちは強く実感していないかもしれないが、攻撃する際に蛇が自分の方を向いていなかったり、迎撃姿勢を取らないでいるのには、こういう配慮が為されていたためでもあった。
「ちょwww蛇っておまwww悪食過ぎんだろwww」
ラムズの頭の上で、クロ・ト・シロ(くろと・しろ)が何かを指差してからかうような言動を口にしつつ、天井から這い寄ってくる蛇を撃ち落としたりしていた。
「ねこさん、楽しそうですね」
「……自分の飼い猫の名前くらい覚えてろこの糞が!」
見上げるようにして尋ねてきたラムズの額に、クロの爪が炸裂する。
「あはは、引っかかれてしまいました」
頭部から血を流しつつ、笑顔のまま援護を続けるラムズ。そして彼の前方では――。
「さて、蛍の味は良かったが、蛇の味も中々に良いものじゃな」
シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が、自らの手で倒した蛇を喰――吸収して回る。その内そこらに転がっている蛇の死骸やら、まだ生きてる蛇やら、さらには普通に飛びかかってきた蛇まで捉えては喰――取り込んでいく。
まさか蛇も、イルミンスールを食べるつもりが自ら喰わ――取り込まれていたなどとは思いもしなかっただろう。
(ま、ラムズやら後衛の者共に蛇が行かぬようにせねばな)
そんな大義名分の下、次々と蛇が『手記』によって喰わ――取り込まれていく。時折どす黒い体液が飛び散ったり、断末魔の悲鳴がはっきりと聞こえたりと、もし平時にそのような場面に遭遇すればあっという間に「もうやめて! 彼のSAN値は0よー!」状態だろうが、戦闘という一種の興奮状態の最中、気にするものはいない。
「根を切り裂け、私の槍……!!」
そして、幾度となく攻撃を加え、悲鳴をあげる身体に鞭打って、歌菜が渾身の一撃を見舞わんと槍を大きく突き出す――。
「いい加減にしろテメェらぁ!!」
ユグドラシルの根から姿を表した巨大な蛇、ニーズヘッグの一撃で、歌菜、羽純、啓、『手記』が大きく吹き飛ばされ、容易に次の行動に移れないまでに深手を負う。
「大丈夫!? 今回復するわ!」
「くっ……すまない、後は俺で何とかしよう」
雷華のヒールで辛うじて動けるまでに回復した羽純が、歌菜の治療に回る。啓は自らをヒールで回復し、そして『手記』はというと――。
「むぅ……流石の我でも、アレは喰えんのう」
自ら『喰う』と暴露しつつ、ローブの中からは何か怪しい音を響かせている。
「しつけぇなぁ……アイツらといいテメェら、そんなに喰われてぇみてぇだなぁ!?
いいぜぇ、そこまで望むんだったら一思いに喰ってやらぁ!!」
耳障りな咆哮をあげ、ニーズヘッグがともすれば人の背ほどもある牙を煌かせて生徒たちに迫る――。
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