リアクション
(・合流) * * * 「ここが製造プラントの中?」 超能力部隊は、プラントの中に送られてきた。 『戦況としては、現在第二層に敵が集中しつつあります。皆さんはそこへ合流して下さい』 ヘッドセット型の通信機は、転送前にノインというPASDの人物から渡されている。小次郎からの指示を受け、天御柱学院の生徒達は第二層方面へと向かう。 『もう一つ、先程発見された施設内の地図によれば、第二層には制御室があるとのことです。そこを押さえることが、このプラントを確保することになるはずです」 制御室。そこへ行けば、おそらくこのプラントの設備が復活する。そうなれば、この中に眠っているイコンも起動出来るかもしれない。 「制御室、そこへ行けば……」 夕条 媛花(せきじょう・ひめか)がいち早く駆け出していった。 「待って、まだこの階から完全に敵がいなくなったとは限らないのよ!」 天貴 彩羽(あまむち・あやは)が制止しようと声を張るが、彼女は止まらない。 「すいません、お姉ちゃんと合流したらちゃんと連絡します」 夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)とマキナ イドメネオ(まきな・いどめねお)が媛花を追う。 「焦る気持ちはあるかもしれないけど……現状、まだ第一層しか把握出来てないのに」 彩羽が銃型ハンドへルドコンピューターに前もって転送しておいた、プラント内の地図を参照する。 彼女が出撃する前の時点の最新データでは第一層から第二層までのルートがある程度明らかになっていた。 そのうち、もっとも最短で行けるルートを確認する。 「第二層については、下に行った際にデータをもらうしかなさそうね」 制御室があることは分かっているが、第二層の地図はまだデータとして得ることが出来ていない。そこで、彼女達は先遣隊との合流を優先することにした。 「電気類は止まってるみたいね。彩華、お願い」 姉の天貴 彩華(あまむち・あやか)はダークビジョンで暗い場所でも関係なく動くことが出来る。そのため第二層までのルートを教え、先行してもらう。目が慣れるまでは、彼女をギリギリ暗闇で認識出来る距離から、彩羽は離れない。 そのまま超能力部隊は進んでいく。 「問題はここからだね」 第二層に足を踏み入れ、榊 朝斗(さかき・あさと)が呟いた。 彼はダークビジョンを持っているが、ここから先はまだ彼らにとっては未知のエリアだ。 「しかし、ほとんどの扉がロックされているのが気になるな。それに、ここは五千年前の施設のはずなのに……ほとんど朽ちている様子がない」 朝斗の魔鎧である、ウィーダー・ヴァレンシア(うぃーだー・う゛ぁれんしあ)が疑問を口にする。 通路の側面にある扉をピッキングでこじ開けようとするものの、まるでびくともしない。おそらく、この施設の電力を復旧させなければ何をもってしても動かせないのだろう。 「もしかしたら、これも施設のセキュリティーの一つなのかな?」 調べながら移動しているうちに、分岐点に差し掛かった。 「分かれ道、だね」 右と左、どちらに進むべきか。 「音が……どうやら先遣隊の方のようです」 榛原 勇(はいばら・ゆう)が超感覚によってそれを察知する。先遣隊は敵を警戒しているので、なんとか聞こえたという程度ではあったが、右の方に間違いはなさそうだ。 「行きましょう!」 超能力部隊は先遣隊と合流するため、右側の通路を進んでいった。 「天御柱学院超能力部隊です」 そこにいたのは、悠希とミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)だ。 「百合園の真口 悠希です」 「同じく百合園のミューレリア・ラングウェイだぜ」 東シャンバラの生徒がここにいることに若干驚くも、天学の面々はPASDという組織のことを思い出す。なるほど、たしかに東西の枠にとらわれていない組織のようだ。 「まだこの先にもボク達と同じ先遣隊の方がいるはずです」 ちょうど通路には戦ったような痕跡がある。また、悠希は途中で見つけた制御室の描かれた地図と、第二層で彼女が通ったルートのデータを、銃型HCを使用して彩羽のHCに転送する。 「この二つを照らし合わせると、この先に、制御室に通じる扉があるのは間違いなさそうね」 問題は、その扉の先がすぐ制御室なのかは分からないということだ。 途中には分岐が何ヶ所かある。別ルートからの合流ポイントもだ。だが、データがある今は目的の場所までは迷わないと思われた。 しかし―― 「敵もここまで来てるみたいだぜ」 合流地点の、来た道でない通路を見据えるミューレリア。 「天学生、ここは私達に任せな。制御室を確保してくれ!」 自分達のように敵も合流しているとなれば、数は少なくはないだろう。 ミューレリア、悠希の二人で対処出来るのだろうか。 否、二人ではなかった。 『ミュー、正義の鉄槌をお見舞いしてあげるのですよ!』 ミューレリアの纏っている魔法少女の服は、リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)の魔鎧時の姿だ。 そして、 『悠希、ここからは本気で力貸してあげる。感謝なさい!』 悠希の纏う赤いマントもまた、魔鎧のカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)だ。 それぞれ、四式、伍式と共にパートナーとは強い絆で結ばれている。 「気をつけて下さい、目視出来る限りでは二人ですが、他にもいます」 「分かってるぜ。左右に一人ずつ、見えないけどいる。敵は四人みたいだな」 傍から見れば、二体四だ。だが、その実は四体四。二人は文字通り、パートナーと一体となっている。 通路であることを利用し、まずはファイアストームを放つミューレリア。敵はそれをかわして向かってくる。 『悠希、高速移動の正体はレビテートとサイコキネシスの併用よ。慌てるような類じゃないわ』 カレイジャスが博識によってそれを看破する。壁を蹴る瞬間に、自分の身体をサイコキネシスで打ち出す。それを小刻みに繰り返すことで、加速しているというのだ。 無論、それは超能力部隊の天学生が真似しようと思っても簡単に出来るものではない。力加減を間違えれば、サイコキネシスで自分自身を地面に叩きつけかねないからだ。 高速で向かってくる敵に対し、疾風突きを放つ。 敵はそれをナイフで止めた直後、壁に跳び、サイコキネシスを持ってナイフを自分の手元へ引き寄せる。 その瞬間、光学迷彩を使用、闇に紛れる。 「さあ、これが私のマジカルステージだぜ!」 一方、接近してくる敵を直視し、マジカルステージによって舞うように戦う。リズムに合わせてステップを踏み、瞬時に距離を詰めてくる敵のナイフ攻撃をかわしていく。 「大したナイフ捌きだぜ……!」 二挺の魔道銃を構えて、一旦敵との間合いを取る。いくら銃を用いた近接戦闘スタイルであっても、間合いが極端に近ければ、引鉄を引くという一動作の間にナイフで斬られてしまう。敵の動きはそれほどのものだ。 しかも、見える敵の他に、常に見えない敵が彼女を狙っている。一瞬でもそちらへ向けた気をそらしたならば、命取りだ。 『ミュー、一気に決めるのですよ』 「ああ、分かったぜ!」 見える刃と見えざる刃、そして敵は彼女の戦闘スタイルに合わせて攻撃手段を変えてくる。 敵は装甲服の中から五本のナイフを引き抜き、彼女に放った。 ミューレリアはその切っ先の向きから軌道を予測、引鉄を引いてそれらを破壊していく。 だが、それは囮だった。 「――下か!」 投げた方ではなく、本命は彼女の足下に密かに放ったものだった。さらに、それを避けようとする彼女の背後にはもう一人の敵が迫っている。 「――――ッ!!」 ミューレリアの首が掻っ切られる。 が、そこから血は一滴も流れない。それもそのはずだ。 「そっちは幻だぜ!」 ミラージュによって作り出した幻影。そしてミューレリア本人は、天井に張り付いていた。 敵がやっているように、サイコキネシスとレビテートの応用を試してみたのだ。もっとも、彼女の場合は天井に逆さに張り付いただけだが。 「頭に血が上るところだったぜ」 そのまま天井を蹴り、構えた二挺の魔道銃で、黒の兵士のヘルメットを撃ち抜く。そのまま回転しながら着地をし、 「そこだ!」 足が地に着いた瞬間、見えない敵のナイフを銃口から射出した魔力で吹き飛ばし、そのまま相手の顎――もちろん、それもヘルメットだが、そこに銃口を突きつけ引鉄を引く。 それによって、迷彩維持が解かれたのか、倒されたもう一人が姿を現す。もっとも、至近距離から魔導銃を食らっては生きてはいないが。 「これであと二人か」 一方の悠希達も、決着がつこうとしていた。 「これで、最後です!」 既に見えないもう一人の迷彩は破壊されていた。さらに、最初に戦っていた方はもう倒れている。一度姿を隠した彼女が、敵の隙をついたのだ。 そして最後の一人も、ついに撃破される。とはいえ、悠希はなるべく殺さないように戦っていたため、敵はまだ死んではいない。 『悠希、早く離れて!』 カレイジャスの声を受け、敵から離れる。 「――――ッ!」 次の瞬間、敵が自爆した。 「……危なかったぜ。大丈夫か?」 「ええ、何とか」 彼女達は、フォースフィールドで何とか爆風を防いでいた。 とはいえ、衝撃そのものは身体に伝わってきている。さらに、一戦を終え、どっと疲れが出てきた。 「まずは回復しませんとね」 悠希がミューレリア、続いて自分へとヒールを施す。さらに、二人はSPタブレットで疲弊した分の精神力を回復する。 「敵が自爆までするとは思ってなかったぜ」 「ただ、前に現れたときは機密を守るためか、同じように爆発したということです」 『案の定、だったわね』 とはいえ、死体は二体分残っている。調べようと思えば調べられるが…… 「ひとまず、先に行った連中と合流しようぜ」 (強い……これがパラミタで戦ってきた契約者) 二人のことが気になった蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)は隠行の術で密かに戻ってきていた。しかし、そんな彼女が見たのは契約者の強さだった。 (私も頑張らないとね……!) まだ近くに敵が接近しているかもしれないし、もしかしたら味方も制御室前で阻まれているかもしれない。 同じように精神感応を持っている味方の様子は、なんとなく感じ取れる。だが、ここに来てから彼女が気になっていることがあるため、姿を消したまま再合流を図る。 (敵の気配も、この施設から感じ取れる……敵はもしかして、強化人間?) なぜかそれを、純粋な人間の超能力者のものであるようには思えなかった。 |
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