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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション

  (・合流)


「間もなく天学からの増援が来るってことだ。それまでここは抑えるぞ!」
 第二層の一角で、支倉 遥(はせくら・はるか)は装甲服の兵士と対峙していた。目は少し慣れてきたものの、暗闇の中で相手を正確に把握するのは難しい。
 超感覚によって強化した聴覚をもとに、敵の位置を捉える。人数は分からないが、一人ということはなさそうだ。
「そろそろ頃合か」
 遥は屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)を先行させている。彼女は、隠行の術で姿を消し、敵の気配は殺気看破で察知し、遥に伝えていた。
 そのため、暗がりの中に浮かぶ装甲服以外にも、姿を消しているのが複数いるのも分かっている。
「さあ、行くぞ!」
 前衛にいるかげゆと伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)に合図を送る。
 直後、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が光条兵器を取り出し、最大光度にして放つ。
 目晦ましだ。
 光が発せられると、藤次郎正宗が装甲服集団の中に刀を構えて飛び込んでいく。
「うぉおおお!!!」
 真正面にいた敵を切りつける。どうやら、ダークビジョンのせいもあったのか、効果は抜群なようだ。
 チェインスマイトで見えない敵にも攻撃を当てようとする。しかし、彼の足下に伏せている敵が、勢いよくナイフで彼を切り上げようとしてきた。
「そこか!」
 遥が轟雷閃を纏わせた銃弾を放つ。それによって敵の迷彩装置が破壊されたらしく、黒い装甲服姿がはっきりと現れた。
 続いて、ベアトリクスがライトニングブラストは放つ。それは、敵が生み出しただろう力場に阻まれる。しかし、それでも完全にこちらの攻撃を防ぐことは出来なかったようだ。
 敵の光学迷彩の仕組みは分からないが、おそらく装甲服自体にその機能がついているのだろう。
 ただ、わずかでも装甲が破れたり、電撃を浴びたりするとすぐに壊れてしまうらしい。
「なるほど、弱点は雷電か。フォースフィードっぽい力場は少し厄介だが、いけるな」
 まずは敵の迷彩装置の破壊を優先。遥は続けざまに銃弾を放っていく。いくら力場を展開しようと、実弾を受け止めるのは難しい。
 敵はフォースフィールドで纏っている電撃を、そして銃弾をサイコキネシスで減速させようとする。
 だが、
「殿!」
 必然、遥の攻撃を防ぐのに集中していれば、近距離からの一撃は防げない。少しでも集中を欠けば、銃弾に身体を撃ち抜かれる。
 藤次郎正宗のヒロイックアサルト、さんさ時雨による斬撃によって黒の兵士は沈黙した。
 それでもなお、敵の数は多い。
「さて、おいでなすったか」
 ちょうど無線通信で連絡が入る。天御柱学院からの増援が到着したとのことだ。
「ここは一つ、天学生のためにも道を用意しといてやるか」
 残っている敵を駆逐し、制御室までのルートを確保する。もちろん、遥達が先陣を切ってこのまま突っ込むことは変わらない。
 敵が自分達よりも前にいたり、かと思えば後ろにいたりという状況なため、敵は自分達先遣隊とは別ルートでこの中に入ったらしい。
 ならば、制御室の近くまで辿り着いても油断は出来ない。
 再び遥は敵を見据える。
 相手はもう姿を消すことは出来ない。だが、超能力をかなり使いこなしているように見える。その上、決して無理にこちらに向かっては来ない。
 敵の一人が、倒れている味方を掴んで、遥の方へ投げてきた。
「遥!」
 ベアトリクスが装甲服の兵士に氷術を繰り出し、凍らせようとするが――

 ドンッ!!

 黒の兵士が爆ぜた。自爆させられたのだろう。
 そして、その際に発生した煙幕の中から別の兵士が飛び出してきた。
「――!!」
 即座に引鉄を引こうとするも、近距離から来る敵のナイフの方が早い。瞬間的に手に持っている量産型パワーランチャーでそれを受け止める。
 そのまま一歩下がり、至近距離からの弾丸を浴びせる。自爆の判断をさせないよう、頭を狙って一撃で倒そうとする。
 敵のフルフェイスヘルメットはかなりの強度であるが、至近距離からの、しかも轟雷閃を纏った銃弾はさすがに止められなかった。
 そのまま敵は倒れた。銃弾の威力のせいか、ヘルメットの下は損傷が激しく、どんな顔だったかは分からない。
 遥が戦っている間に、藤次郎正宗の方も粗方敵を倒し終えていた。
「ち、二人逃げやがった」
 劣勢と判断したのか、敵は一度退いたようだ。
「待ち伏せしているかもしれない。慎重に行くぞ」

* * *


「ここが製造プラントの中?」
 超能力部隊は、プラントの中に送られてきた。
『戦況としては、現在第二層に敵が集中しつつあります。皆さんはそこへ合流して下さい』
 ヘッドセット型の通信機は、転送前にノインというPASDの人物から渡されている。小次郎からの指示を受け、天御柱学院の生徒達は第二層方面へと向かう。
『もう一つ、先程発見された施設内の地図によれば、第二層には制御室があるとのことです。そこを押さえることが、このプラントを確保することになるはずです」
 制御室。そこへ行けば、おそらくこのプラントの設備が復活する。そうなれば、この中に眠っているイコンも起動出来るかもしれない。
「制御室、そこへ行けば……」
 夕条 媛花(せきじょう・ひめか)がいち早く駆け出していった。
「待って、まだこの階から完全に敵がいなくなったとは限らないのよ!」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)が制止しようと声を張るが、彼女は止まらない。
「すいません、お姉ちゃんと合流したらちゃんと連絡します」
 夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)マキナ イドメネオ(まきな・いどめねお)が媛花を追う。
「焦る気持ちはあるかもしれないけど……現状、まだ第一層しか把握出来てないのに」
 彩羽が銃型ハンドへルドコンピューターに前もって転送しておいた、プラント内の地図を参照する。
 彼女が出撃する前の時点の最新データでは第一層から第二層までのルートがある程度明らかになっていた。
 そのうち、もっとも最短で行けるルートを確認する。
「第二層については、下に行った際にデータをもらうしかなさそうね」
 制御室があることは分かっているが、第二層の地図はまだデータとして得ることが出来ていない。そこで、彼女達は先遣隊との合流を優先することにした。
「電気類は止まってるみたいね。彩華、お願い」
 姉の天貴 彩華(あまむち・あやか)はダークビジョンで暗い場所でも関係なく動くことが出来る。そのため第二層までのルートを教え、先行してもらう。目が慣れるまでは、彼女をギリギリ暗闇で認識出来る距離から、彩羽は離れない。
 そのまま超能力部隊は進んでいく。
「問題はここからだね」
 第二層に足を踏み入れ、榊 朝斗(さかき・あさと)が呟いた。
 彼はダークビジョンを持っているが、ここから先はまだ彼らにとっては未知のエリアだ。
「しかし、ほとんどの扉がロックされているのが気になるな。それに、ここは五千年前の施設のはずなのに……ほとんど朽ちている様子がない」
 朝斗の魔鎧である、ウィーダー・ヴァレンシア(うぃーだー・う゛ぁれんしあ)が疑問を口にする。
 通路の側面にある扉をピッキングでこじ開けようとするものの、まるでびくともしない。おそらく、この施設の電力を復旧させなければ何をもってしても動かせないのだろう。
「もしかしたら、これも施設のセキュリティーの一つなのかな?」
 調べながら移動しているうちに、分岐点に差し掛かった。
「分かれ道、だね」
 右と左、どちらに進むべきか。
「音が……どうやら先遣隊の方のようです」
 榛原 勇(はいばら・ゆう)が超感覚によってそれを察知する。先遣隊は敵を警戒しているので、なんとか聞こえたという程度ではあったが、右の方に間違いはなさそうだ。
「行きましょう!」
 超能力部隊は先遣隊と合流するため、右側の通路を進んでいった。
「天御柱学院超能力部隊です」
 そこにいたのは、悠希とミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)だ。
「百合園の真口 悠希です」
「同じく百合園のミューレリア・ラングウェイだぜ」
 東シャンバラの生徒がここにいることに若干驚くも、天学の面々はPASDという組織のことを思い出す。なるほど、たしかに東西の枠にとらわれていない組織のようだ。
「まだこの先にもボク達と同じ先遣隊の方がいるはずです」
 ちょうど通路には戦ったような痕跡がある。また、悠希は途中で見つけた制御室の描かれた地図と、第二層で彼女が通ったルートのデータを、銃型HCを使用して彩羽のHCに転送する。
「この二つを照らし合わせると、この先に、制御室に通じる扉があるのは間違いなさそうね」
 問題は、その扉の先がすぐ制御室なのかは分からないということだ。

 途中には分岐が何ヶ所かある。別ルートからの合流ポイントもだ。だが、データがある今は目的の場所までは迷わないと思われた。
 しかし――
「敵もここまで来てるみたいだぜ」
 合流地点の、来た道でない通路を見据えるミューレリア。
「天学生、ここは私達に任せな。制御室を確保してくれ!」
 自分達のように敵も合流しているとなれば、数は少なくはないだろう。
 ミューレリア、悠希の二人で対処出来るのだろうか。
 否、二人ではなかった。
『ミュー、正義の鉄槌をお見舞いしてあげるのですよ!』
 ミューレリアの纏っている魔法少女の服は、リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)の魔鎧時の姿だ。
 そして、
『悠希、ここからは本気で力貸してあげる。感謝なさい!』
 悠希の纏う赤いマントもまた、魔鎧のカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)だ。
 それぞれ、四式、伍式と共にパートナーとは強い絆で結ばれている。
「気をつけて下さい、目視出来る限りでは二人ですが、他にもいます」
「分かってるぜ。左右に一人ずつ、見えないけどいる。敵は四人みたいだな」
 傍から見れば、二体四だ。だが、その実は四体四。二人は文字通り、パートナーと一体となっている。
 通路であることを利用し、まずはファイアストームを放つミューレリア。敵はそれをかわして向かってくる。
『悠希、高速移動の正体はレビテートとサイコキネシスの併用よ。慌てるような類じゃないわ』
 カレイジャスが博識によってそれを看破する。壁を蹴る瞬間に、自分の身体をサイコキネシスで打ち出す。それを小刻みに繰り返すことで、加速しているというのだ。
 無論、それは超能力部隊の天学生が真似しようと思っても簡単に出来るものではない。力加減を間違えれば、サイコキネシスで自分自身を地面に叩きつけかねないからだ。
 高速で向かってくる敵に対し、疾風突きを放つ。
 敵はそれをナイフで止めた直後、壁に跳び、サイコキネシスを持ってナイフを自分の手元へ引き寄せる。
 その瞬間、光学迷彩を使用、闇に紛れる。
「さあ、これが私のマジカルステージだぜ!」
 一方、接近してくる敵を直視し、マジカルステージによって舞うように戦う。リズムに合わせてステップを踏み、瞬時に距離を詰めてくる敵のナイフ攻撃をかわしていく。
「大したナイフ捌きだぜ……!」
 二挺の魔道銃を構えて、一旦敵との間合いを取る。いくら銃を用いた近接戦闘スタイルであっても、間合いが極端に近ければ、引鉄を引くという一動作の間にナイフで斬られてしまう。敵の動きはそれほどのものだ。
 しかも、見える敵の他に、常に見えない敵が彼女を狙っている。一瞬でもそちらへ向けた気をそらしたならば、命取りだ。
『ミュー、一気に決めるのですよ』
「ああ、分かったぜ!」
 見える刃と見えざる刃、そして敵は彼女の戦闘スタイルに合わせて攻撃手段を変えてくる。
 敵は装甲服の中から五本のナイフを引き抜き、彼女に放った。
 ミューレリアはその切っ先の向きから軌道を予測、引鉄を引いてそれらを破壊していく。
 だが、それは囮だった。
「――下か!」
 投げた方ではなく、本命は彼女の足下に密かに放ったものだった。さらに、それを避けようとする彼女の背後にはもう一人の敵が迫っている。
「――――ッ!!」
 ミューレリアの首が掻っ切られる。
 が、そこから血は一滴も流れない。それもそのはずだ。
「そっちは幻だぜ!」
 ミラージュによって作り出した幻影。そしてミューレリア本人は、天井に張り付いていた。
 敵がやっているように、サイコキネシスとレビテートの応用を試してみたのだ。もっとも、彼女の場合は天井に逆さに張り付いただけだが。
「頭に血が上るところだったぜ」
 そのまま天井を蹴り、構えた二挺の魔道銃で、黒の兵士のヘルメットを撃ち抜く。そのまま回転しながら着地をし、
「そこだ!」
 足が地に着いた瞬間、見えない敵のナイフを銃口から射出した魔力で吹き飛ばし、そのまま相手の顎――もちろん、それもヘルメットだが、そこに銃口を突きつけ引鉄を引く。
 それによって、迷彩維持が解かれたのか、倒されたもう一人が姿を現す。もっとも、至近距離から魔導銃を食らっては生きてはいないが。
「これであと二人か」
 一方の悠希達も、決着がつこうとしていた。
「これで、最後です!」
 既に見えないもう一人の迷彩は破壊されていた。さらに、最初に戦っていた方はもう倒れている。一度姿を隠した彼女が、敵の隙をついたのだ。
 そして最後の一人も、ついに撃破される。とはいえ、悠希はなるべく殺さないように戦っていたため、敵はまだ死んではいない。
『悠希、早く離れて!』
 カレイジャスの声を受け、敵から離れる。
「――――ッ!」
 次の瞬間、敵が自爆した。

「……危なかったぜ。大丈夫か?」
「ええ、何とか」
 彼女達は、フォースフィールドで何とか爆風を防いでいた。
 とはいえ、衝撃そのものは身体に伝わってきている。さらに、一戦を終え、どっと疲れが出てきた。
「まずは回復しませんとね」
 悠希がミューレリア、続いて自分へとヒールを施す。さらに、二人はSPタブレットで疲弊した分の精神力を回復する。
「敵が自爆までするとは思ってなかったぜ」
「ただ、前に現れたときは機密を守るためか、同じように爆発したということです」
『案の定、だったわね』
 とはいえ、死体は二体分残っている。調べようと思えば調べられるが……
「ひとまず、先に行った連中と合流しようぜ」 


(強い……これがパラミタで戦ってきた契約者)
 二人のことが気になった蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)は隠行の術で密かに戻ってきていた。しかし、そんな彼女が見たのは契約者の強さだった。
(私も頑張らないとね……!)
 まだ近くに敵が接近しているかもしれないし、もしかしたら味方も制御室前で阻まれているかもしれない。
 同じように精神感応を持っている味方の様子は、なんとなく感じ取れる。だが、ここに来てから彼女が気になっていることがあるため、姿を消したまま再合流を図る。
(敵の気配も、この施設から感じ取れる……敵はもしかして、強化人間?)
 なぜかそれを、純粋な人間の超能力者のものであるようには思えなかった。