リアクション
◇戦闘の章◇ 陸路 7 国境の戦い 「敵襲!」 「敵襲!」 教導団の陣地に警報が鳴り響く。 「く、もう気付かれたか。やはり斥候を放っていたか……警戒態勢も十分。 だが、どうやら数ではこっちのが上だぁ。いくぜ!?」 国頭 武尊(くにがみ・たける)の一味(総勢1,200程)は、旧国境警備隊駐屯地を押さえて拠点としていたのであった。 行軍は、必ずこの場所を通る。ここで待ち構え、第四師団の連中を疲労の頂点で徹底的に粉砕する……国頭の心算であった。 しかし、第四師団は国境手前で、源 鉄心(みなもと・てっしん)の進言で、本隊は一時停止(野営)。鉄心も随行する形で、金住少尉が斥候を連れ発ったのは、前章で見た通りである。 一方で国頭ら教導団襲撃部隊は、 「何。教導団は国境手前で陣を張って、充分な警戒を立てているだと? くっ。すでに斥候も出ている?」 「はっ、武尊さん。ここも調べられている可能性もあります」 「仕方ない、連中が回復しきる前に今夜のうちに襲う。奇襲は効かないか。少なくとも連中に先手を打たれる前に、移動するぞてめーら!」 といった次第であった。 斥候からの連絡で正体はわからないものの、怪しい者たちが旧駐屯地に潜んでいることがわかり、そこから多数の動きがあるとそれもまた野営地に伝わった。そして、 「敵襲!」「敵襲!」 「パラ実の部隊か……!」 「やはり、国境で待ち受けていましたか。何事もなく抜けさせてはくれないでありますね」 加えて、彼らが引き入れたのだろうサルヴィン川流域に住むと思われる部族らも加わっており、総勢1,200、といったところか。 率いているのは…… 「国頭武尊!」 パートナーの 猫井 又吉(ねこい・またきち)、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)の姿も見え、手練れだが、それ以外はいわゆる雑魚……モブ兵等。800そこそこだが、精鋭揃いの第四師団、いざ! 士官、各部隊長が指揮を執る。 比島少尉、 「できることなら、彼等との戦闘は避けたかったですが……!」 国頭が容赦なく兵を繰り出してくる。 「先手は取れなかったが、仕方ねえ!!」 両軍、一斉にぶつかりあった。 大岡少尉が騎兵隊を率いて出てきた。 「タイミングを見計らうんだ。……行くぜ?」 突撃してくるパラ実兵に、横合いから姿の見えない射撃が繰り出された。「光学迷彩か……!」 乱れたところへ、一気に騎兵が駆け込んだ。姿を現した熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が、逃げ散るパラ実勢に毒虫の群れを浴びせかけ更にしびれ粉をぶっかけた。滋岳川人著 世要動静経(しげおかのかわひとちょ・せかいどうせいきょう)は敵の密集しているところにファイアストーム、ブリザードを交互に打ち放ち、敵を散らした。 「逃げていく者に深追いはするな」 大岡は戦闘のなか冷静に判断する――地理を把握していない場所ではよいように引き回されるだけ、こんなところで襲撃をかけてくる連中がろくな財産を持っているとも思えない。 「残っている敵を撹乱に回る」 大岡は騎兵らの踵を転回させる。 ケーニッヒ、ハインリヒらは歩兵を率い、前衛を指揮した。「残心! 心頭滅却! おぉぉぉ」ケーニッヒは自らの防御力と抵抗力を最大限に高めた上で、最前列に立ち兵を鼓舞した。ハインリヒがディフェンスシフトを展開し兵らの守備力を上げる。パートナーらは後衛に位置し「パワーブレス」「ギャザリングヘクス」「フォースフィールド」の補助魔法で味方全体の能力を高め支援に努めた。 「負傷した方はこちらへ!」 ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)は後方で治療班の指示を出すとともに、自らも負傷兵の回復に従事する。「永谷め……失敗したら調教ですよ? しかしまあ、なかなかよく率いるようになったではございまぬか。……これでは調教がしにくくなりますね。何か手を考えねば」 パラ実兵らのこと、とうぜん、物資を狙ってくる。 「おらぁ! 略奪じゃあ」「ちょっとでも奪っていくぜ」 「うわぁ、きゃっ」 荷物を守ることが最優先と、襲撃に緊張しつつ輸送隊の皆と辺りを固めていた佐野葵(さの・あおい)は不良どもと鉢合わせた。 「ひゃっはぁぁぁ」「女ももらっていくぜぇぇ! ぎ、ぎゃっ?!」 不良が倒れる。 「ル、ルナ!」 「ふう、危ない……」物資も大切だけど、私にはもちろん葵の方が大事だからね、と。 「ありがとう……!」 まだまだ、気を抜くことはできない。相手の数は多いのだ。 「えぇい、蛮族どもめ!」 教導団も無論、物資を守るべしとのことは徹底している。兵に指示を出す昴 コウジ(すばる・こうじ)。「側面や背後への注意も倍加させよ! 僕は騎凛師団長のところへ行く! ……国頭め」 輸送隊には、又吉が自ら手勢を率いあたってきた。 「おのれ、教導団」火炎放射器で物資を焼き払う。「ひゃはは、燃えろ、燃えろ! 燃やせ、燃やせ!」 「く、このなめ猫め!」昴はハンドガンを向ける。 「おっ。指揮官か。シーリル、任せたぜ。 おいてめえらはこの又吉についてきな、皆燃やしちまうぜぇ、そらぁ」 「えぇい何をしている。あのなめ猫を捕らえよ!」 昴は、更に声を大きくして叫んだ。 「アイツは、国頭は! 自分のパートナーや部下が巻き添えになると分かっていてナパーム弾を使おうとしたゲス野郎だぞ。 あんなヤツに従ってたら、いずれお前らも使い捨てにされるだけだ!」 パラ実に従っている付近部族の者らが攻撃の手を止め、戸惑っている。 「フフ……効いているな?」 しかし、国頭をボスと慕う不良どもは、うろたえない。 「武尊さんのことを、何て……許せません!」 昴が背中を見せたところに、シーリル・ハーマンが迫る! 「ど、どうした! 足が動かな……せ、石化?」 昴は、石になってしまった。 * 又吉の前に、熊が立ちふさがる。 「熊ぁだとぉ?」 又吉は眉間にしわ寄せる。 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)。トマスを弟のように思う、熊の獣人である。 「俺と、一対一で勝負しろ!」 「何ぁんだと?!」 テノーリオは武器を持たず、素手で挑みかかり、それを交わした又吉の木刀を食らった。 「なめんじゃねえ!!」 テノーリオは立ち上がる。 そこへまた又吉の木刀がくる。又吉は何度もテノーリオを打った。 「何言ってんだぁぁ。こいつぁぁ!! オラ! オラ!」 テノーリオは立ち上がる。 「く、く、……この野郎!!」又吉は再び木刀を振りかぶる。 「……コンロンで、俺たちの助けを待っている連中がいるから、俺たちは行かなきゃならない。 ダチが本当に困っているときに、見捨てて放っておけるか?」 「な……ダチだと」 又吉は木刀を振るう。 「なめんじゃねえぞ!! てめえはダチと思ってるかしれないが、結局は国同士の戦いだろぉがぁぁ。 教導もコンロンも、どーせ己の利権を巡って策略を張り巡らせてるんだろっ」 木刀がテノーリオを打つ。 「うっ。 だから助けてくれと言っている。そのかわりに、君らに困ってることがあったら、そのとき俺たちにできることがあれば喜んで手を貸す。 それじゃだめか?」 「ぬう」 バシッ。又吉はやはり木刀を振るった。 「教導がパラ実に手を貸すということか? どういうことだ。 ……おまえの義憤は認めるとしても、教導との因縁は深いんだぁよ!!」 又吉は行ってしまった。 ここまで、パラ実に教導団を憎ませているものは何なのか。あるいはいや、国頭武尊の教導団に対する何らかの思いであるのか。テノーリオはボロボロになった体を再び立ち上がらせ、思う。パラ実との絆を新たに結ぶことはできないのだろうか。この戦いで、そのきっかけは作れないだろうか。テノーリオは諦めないつもりだった。 |
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