リアクション
第II部 現地 シャンバラ地方東のパラミタ内海を北へ行くと、コンロン南部。 ここに浮かぶ三日月形の島がある。 コンロンに由緒ある一族が街(小都市)を形成して住んでおり、これまでの歴史から彼らも八軍閥の一つと数えられている。 ここへ、コンロン出兵に際して密かに先行し現地入りした教導団員十数名。 彼らにより、今後、コンロンの問題を解決すべく教導団が身を置くための基地"クレセントベース"が設営され始めていくことになる。 早速その、クレセントベース(となるところ)。 「今だけは軍曹と呼びなさいシロシロ! 二人でセイカ先生のハートをキャッチするべく、頑固な汚れと戦うわよ!」 「Yes! クロクロ軍曹!」 シロシロ、と呼ばれたのは、かわいい、まだ小学校に入りたてくらいにしか見えない女の子。 真白 雪白(ましろ・ゆきしろ)。 実際、七歳だ。これでも工兵科所属。しっかり、軍服に身を包んでいる。 クロクロ、はそのシロシロのパートナーのメイド。彼女もやはり外見は小学生だ。アリスの真黒 由二黒(まくろ・ゆにくろ)。 メイドとしてお掃除大作戦じゃああい!! と、早朝からハウスキーピングに燃えているのである。そのテンションの高さは激高であった。 「お、おはよう……」三日月島に住むねこが挨拶していくが、聞こえていない。テンションの高さに近寄り難いものがあり、ねこたちは避けていく。 まずはお風呂! Q.水あかカビ排水溝には??(真白) A.重曹。(真黒) ――水あかは重曹でこすり、頑固な汚れにはクエン酸を組み合わせて、排水溝には重曹を入れ熱湯を流すといいの! 「さ、実行!!」 そのままのテンションで、風呂場を磨いていく。広大な、地下にある温泉なのだ。早朝で、がらーんとしている、その場所を二人は重曹と熱湯をぶっかけブラシを振り回しながら駆けていく。 次、男女トイレ! ここも重曹。頑固な汚れにはさらに酸を使うのよ! 真白は力を入れすぎて(ドラゴンアーツ)、トイレの配管をぶっ壊してしまった。 「きゃぁぁぁ!」 軍人然とした若い男が歩いてくる。 三船 敬一(みふね・けいいち)だ。 第四師団、コンロンに出兵か……そういえば、俺はこれといった部隊にも所属していないし、部下の兵士もいないんだよな。三船は、思う。それに遠征任務も初めてのことだ、張り切っていくか。 基地設営の人員手配等について話をしておきたいと、また、この軍閥の偉い方にも会って挨拶をしておこうという心積もりである。 まだ、到着して翌日の朝である。 明日以降に基地設営についての諸々を、当地の担当者と共に決めていくので、今日明日は任務はない・休むようにと中尉は言っていた。 新兵の三船はこれからについて様々に考えがわきあがってくる。 たとえば、軍の食糧のための大型倉庫は必需だろう。南部の戦いでは食糧不足になったと聞く。「腹が減っては戦はできぬ」って言うしな。 おそらく、この出兵も紛争続きというコンロンでの戦を見込んでいる。 いつかは俺も一個小隊を率いる人間になりたいな……そのためにも、ここで少しでも率先して何かをなさないとな。三船はそう意志を胸に持っていた。 それはそうと、パートナーの白河 淋(しらかわ・りん)を起こしていかねば。三船ははっと思い出す。 淋は、長い遠征になりそうだからと、新作DVD十数本に再生機まで持参していた。休みになるからと昨夜早速あれを深夜まで見て、今頃まだ眠っているのではないだろうか……。基地設営についての意見を聞いたところ、いきなりレクリエーションルームなんてどう、と言っていた。それはしかし、体を動かせるし、交流にもなるし、もっともなことかもしれない…… 考えつつ、女子の宿泊した辺りを探す。 「……しかし、迷ってしまうな。迷路のような。おっと」 「にゃぁ」 ねこが横切っていく。「おはようにゃ」「あ、ああ……むう?」 そのとき、トイレの方から悲鳴が聞こえた。 行ってみると、小さな女の子。メイド? 早朝から、トイレ掃除か。しかしもう一人の子はずぶ濡れになった軍服を着ている。 「ごめんなさい! おトイレですか? 排水溝がこの通りで…… 今、ギュスターブが直していますから」 二人の向こうで、黙々と排水溝を直しているドラゴニュートの姿があった。 「いや、気にしないでいいぜ。 俺も手伝おうか」 「いいんですっ。私たちの仕事ですからっ」 「……」淡々と直し続けるドラゴニュート。 同じ、契約者の教導団員ってことか。まだこんな小さな子だが。そうか、二隻目に小さな子どもが乗船していくのを見た。あの子たちか。 「三船さんですよね?」 「あ、ああ」 「名簿で確認しました。真白雪白です。こっちは真黒由二黒。 それから、アルハザード ギュスターブ(あるはざーど・ぎゅすたーぶ)」 「……」無言で、排水溝を直し続けるドラゴニュート、ギュスターブ。 そこへまた、髪を束ねたすらっとした綺麗な、軍服の女性が訪れる。教導団員だ。 「お早う」 三船は軽く挨拶を返し、真白は、 「ごめんなさい。女子トイレも、清掃途中で……えっと、確か」 「ザウザリアス。 ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)よ。 かまわないわ、通りかかっただけで……ええと」 「真白雪白です。こっちは真黒由二黒。それから、ギュスターブ(工事中)……」 「三船だ。よろしく」 「ええ、よろしく。皆も、まだ新兵だったわよね」 ザウザリアスも、この地の軍閥の人に話を聞けないかと思ってきたのだという。 「ああ、そうなんだ。俺も彼らに挨拶できればと思ってな。 しかし偉いさんに会えるだろうか?」 「私たちは今日はまだとくに何もないと言っていたけど…… 中尉や部隊長の人たちは軍閥の方に行っているのではないかしら」 三船とザウザリアスは、軍閥の者らの住む区域へ移動していった。 真白は二人と別れると、掃除大作戦を続行するのであった。 |
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