リアクション
現地 3 三日月島(二) 空路・陸路各組が到着するまでの、現地の仮本営を形成する人材は集っていた。 中尉である香取 翔子(かとり・しょうこ)が現地の指揮を執る立場にあることになるだろう。 香取はこれまでに前線で兵を率いたこともあるが、当面、全体の統括立場になるので、部隊を指揮できる者としては、【黒豹小隊】の隊長黒乃 音子(くろの・ねこ)がいる。 「ノイエの香取中尉。どうぞ宜しく」 「黒豹小隊の黒乃隊長。こちらこそ、宜しく頼むわ」 すぐに、ここで戦闘が起こる可能性は低いだろうが、黒乃は、現地で集められる兵について、香取中尉と相談していた。 「募兵に応じて参加できる兵力はあるのでしょうかね。 もし可能なら、基地指令よりその許可を頂きたいと」 「確認しておく必要があるわね。今からの面会で、かけ合うことになると思う」 「この地の軍閥。親教導派とは言っても、どこまで協力的なのでしょうかねえ」 「さあ、まだまだわからないことだらけね。 私は当面、全体の指揮を見ることになると思うし、とくにここで軍事面に必要なことがあれば、黒乃さんと相談していくとしましょう。 それから、基地設営の現場監督には――」 教導団の元教官沙 鈴(しゃ・りん)。 【龍雷連隊】で前線の築城を実践していた天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)。 彼女等が基地設営関連の現場監督にあたることになる。 今、彼女らは今後についての話し合いを含め、現地の軍閥の長と面会していた。 ここは、軍閥上層にあたる者たちの居住区通称"城塞"の深部。 ここに、三船 敬一(みふね・けいいち)、ザウザリアスら新兵も入ってくる。 「あ、香取中尉」 敬礼して、立ち止まる。 「あなたたちは……まだ、今日はとくに任務ではないけれど?」 「挨拶にと思いまして。それに、人員の手配などについても、申し上げておきたいことがあり……」 「ええ。一緒に聞くといいわ。 (私も中尉と言え、今はそんなに堅苦しくない第四師団での任務だし??) 軍閥のミカヅキジマの長殿にも、挨拶を。 長殿、教導団の士官候補生たちです」 三船、ザウザリアスは座の奥に向かって敬礼するのだが、 「オオゥ。オゥ。ハヂメマシテ。 ヨロシクノゥ、若イ者タチ……」 三船とザウザリアスは少々、身じろぎしそうになっていた。 部屋の奥まったところから、長い巨大な猫の首が伸びている。それが声を発した。香取らがかけている円卓の上座にライオンの三倍程はある猫の手をちょんと乗せている。古い豪華な王冠をかぶった頭もライオンの三倍四倍は大きい。身体は部屋の奥へ続いていて後ろ足は見えない。 これが、最初に会うことになった軍閥の長……ミカヅキジマに住む長猫一族の長であった。このような、人ではない猫の王であったとは。 三船は、軍閥と言っても相手がこのような異形であれば軍の接し方とはまた異なってくるものなのだろうか、と思う。 ザウザリアスは、他の軍閥についても把握しておきたいと思っていたのだが、コンロン軍閥というのは、皆かような異形の王たちなのであろうか……と。ひとまずは、二人は席に着く。ここにいる幹部らが話を進めるなかで、見えてくる部分があるだろう。 円卓の傍らの長テーブルでは、秘書の御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が記録を採り、参謀科天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)らが書類に目を通していた。 長は別格だが、四、五メートル程はある長ねこの衛兵が、テーブルを文字通り囲むように部屋の周囲に侍っている。 ここへ来るまでにねこたちに会ったが、どれも皆サイズは普通のねこだが、体が長かった。 ミカヅキジマの主な住人はながねこたちなのであった。他に共存している種がいるのかどうかは現時点ではわからない。 「コンロン住民の賛否はどうなのでしょう? 教導団施設建設への、地元住民の理解は……」 「情勢悪化シテイルノデ皆ムシロ期待シトル。 問題ワ、オコサナイデネ!」 「ええ。それから各軍閥の勢力配置を確認しておきたいのですが」 円卓上に、古く黄ばんだ地図が置かれている。 「コノ地図モモモ、数百年前ノダ。幾ツカノ軍閥ハ消エテ……今、イヤ百年クライ昔カラジャガ、8ノ軍閥ガ残ルト言ワレテオル。 貴殿等モ知ットロウ東ノえりゅしおん帝国ガ、介入シテキトル。 コノ三日月島ノ空モ一度二度、飛龍ラシキ影ヲ見タトイウ者ガオル。飛龍ハ、東カラ飛ンデ来タ……東ニ、えりゅしおん帝国ガ、アル」 エリュシオン、の名に、書類を記す御茶ノ水の手はぴくっと止まり、一同もそれぞれに何かを思うのであった。 「ココヲ会議室ニ使ウガヨイ。ワシモ何時デモ出テコレル。眠ッテナケレバ……コレカラ、ワシワ眠ル」そう言うと、王の巨大な首は部屋の奥へ続く道を引っこんでいった。 香取は、新兵らに何か発言はないか問うと、三船からは、率先して基地設営にあたりたいこと、人員の手配について申し出があった。 現場監督にあたる沙鈴から、人員は、ながねこたちが協力してあたってくれることになっている、との返答があった。 「三船くんよね。松平隊長が確か現地の方に来ると言っていたから、知っていたわ。 よろしくね」 篤子は、龍雷を影で支えてきた女性である。 ザウザリアスの方からは今はとくに質問はないというようであった。 団員らで幾つかの質疑が交わされ、会議の最後に、参謀科の天霊院から北岸地域への潜入調査の申し出があり、香取はこれについて、現地調査班を組むことを考えている、と述べた。「自分が、赴く所存です」天霊院自身が、そう述べる。すると隣でお茶を啜っていた道明寺も、「それがしも参りましょう」 そして、秘書の千代は、ばっ、と立ち上がる。 「私、御茶ノ水千代も、行きます!」 |
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