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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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第四師団 コンロン出兵篇(序回)

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現地 7
乙女とうな重

 
 現地入りした、ところまでは皆と一緒だった。
 しかし何故か、空路組が到着する前のクィクモに向けて三日月島からボートをこいでいる一組がいた。
「バカンスよ!
 久しぶりのバカンスよ! 旅行よ!」
 暗い内海を寂しい一艘のボートが流れていく。
「って何よここ、暗いし汚いし気持ち悪いし。
 おまけに遊べそうな場所に全然着かないじゃない」
 一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は、旅立って一週間程の後、対岸に揺れるたくさんの火を見た。
「しかもなんか対岸駐屯してる軍(?)とかいるし。
 意味がわからないわ」
「意味がわからないのはお前じゃボケぇぇ!!!」
 旅立って二週間、やっとリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)が台詞を発す。
「私たちは任務で来てるの、お仕事なの。
 ってそっちもうな重喰うな!」
 その間ずっとうな重を食べていた、旅立って三週間、ついに新パートナーのキリエ・クリスタリア(きりえ・くりすたりあ)の初台詞。
「うな重もぐもぐもぐもぐ」
「どこからそんだけのうな重持ってきた。
 あんたの小遣いいくらだ! エンゲル係数上げすぎだアホー!!」
 ひっそりと暗い内海に、リズリットの叫びがこだまする。
 そしてまた、静かになる。
「二十人前くらいー。うん、いっぱいあるよー。いくら食べてもなくならないよおー。
 なに? リズも食べたいの? いいよ。あげるー」
「いらんわ!
 でも、一人前だけ頂戴」
 もっきゅもっきゅ。
 うな重を食す音が、コンロンの静寂にひそやかに聞こえているのだった。
「このうな重ね、町の方で売ってたの。
 それでね、おなか空いて死にそうなのー。食べさせてくれないと暴れちゃうぞーっていったらおまけしてくれたの。
 力こそ正義なんだって」
「私もひとつもらおうかしらうな重」
 ひひゃひほんはほほほほははほっへひはほはひはほほははひへほへふほほほほはははひへほ(もぐもぐ
 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐぶはっ!
 鼻からうなぎが出てきたじゃない!
 もったいないから食べてしまうわ(もぐもぐ
 ――月実は、それから急に乙女の表情になり、ボートの縁に身を寄せ、指先を、つ、と内海の水面に浸してみた。
 あ。……つめたい。
 過ぎてゆく、黒くコンロンのそびえる山々の影。すべては、影絵の世界だ。
 不思議なネオンのような灯かりが、気付けば周囲に浮かんでいる。人の声は聞こえない。
 山の方から吹きつける風が、月実の髪をかすかになびかせた。
 空気が、何故かとても澄んでいるように感じられて……私たち、これからどこへ流れ着こうとしているのだろう。
 未来はこのコンロンの闇のように暗く先は見えない。
 小さな光が見える。
 
 クィクモの港が見えてきたのだ。