リアクション
風雲 2 桐生 さて次の第二部で我々はいよいよコンロンの現地調査や基地設営を行っていくことになる……のだが、ここで先に、コンロンで起こっている争いを目の当たりにすることになる。 そこは、コンロンでも最も東の土地であった。 エリュシオン帝国に属さないぎりぎりの領地でのこと。 「な、何ィィ? いきなり攻めてきて拠点の一つを落としやがった?! ど、どこの軍閥のどこのどいつだァァ!!」 叫んでいるのは、ゴブリンと獣人とパラ実の間のような風体の男だ。ファッションなのか文化なのか素なのか、剣の突き立った冠を被っている。王というよりは、戦時ということもあろうが甲冑に身を固めており、自身も武の者であるのだろう、戦士としての腕を持つ者と思われた。巨躯で毛深、というよりは、獣の毛に包まれた男。 コンロン八軍閥の一人であった。 「ゆゆ、許せんぞ?!」 「はぁ……それが、どこの軍閥の者かは不明で、たった六人で、その関所を落として進軍しており」 「進軍? 六人? 六人だと!? 馬鹿にしておるのか。何故、貴様らもむざむざその六人に落とされた。そいつらは何だ、流れのプロレスラー軍団だとでも言うのか!」 「い、いえ。それがどれも若い女子で……」 「何ァニィィ!?」 「旗印には、【桐生組】と。あとは【魔乳】とか【アホ】とか」 「……。 ふうむ、桐生組か。面白い」 「どうします。帝国の龍騎士に知らせますか?」 「いい、いい。六人の女子に関所を落とされただの、言えるか!! オレが出向いてやる。そいつら六人の女子は全員、オレ式の拷問にかけてやる、この世でいちばんきもちいい拷問にな!!!」 * 采配を執っている軍師は、 「さあそこは一息にづばーんですーっ」 桐生 ひな(きりゅう・ひな)。 その隣に笑みを浮かべて佇んでいるのは桐生 円(きりゅう・まどか)。 【桐生組】旗が高々とその手に掲げられている。 関所を落とした六人は、そこには蓄えもないので、更に領地へ入り込み、拠点化すべく砦を攻め落とした。 「あーそびーましょー!」 逃げ散る相手に切り込んでいくのはミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)。 「……」 砦の壁上には、魔鎧のアリウム・ウィスタリア(ありうむ・うぃすたりあ)が立ち、剣を上げ制圧を示す。「……一人はもう嫌です」 砦内を、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が回っている。「にひにひ。食糧はたくさんあるようにゃのー。しかしここの軍閥は圧政で領民を苦しめて搾り取っているらしい。ひな、まずはその辺を上手く処理できるかじゃの、んむ」 「ふふふ内務は勿論、任せてですっ。こう見えて実は国興しにはけっこううるさいですよー?」 そしてもう一人が、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)である。 今回、桐生組は吸血鬼を率いる程の貴族になってみたいという、オリヴィアを主に担いで一国を持とうという。 そのために、コンロンの一軍閥を落とすつもりでやって来た。 最も東寄りの軍閥に狙いを定めたのだが、そこは…… ともあれまずは拠点を確保せねばならない。というわけだった。 * 「ひなくん、珍しいものが手に入ったんだ、遊びにきなよ」 というやり取りが行われていたのは、騎凛先生や、冒頭でマリーとロザリンドが会うより前の、ヴァイシャリー。 円はそう言って、ひなを誘った。 謎の魔道書。 ヴァイシャリーで使うと、不味い気がする。シャンバラ大荒野の誰もいないところで魔法陣を描いてみよう。 「夢の続き、見れるかな?」 オリヴィアは、そんな夢の続きが気になってはしゃいでいる円を可愛いわね、と思いながら、自身の見る夢にも思いを馳せる。 ――私も吸血鬼を率いる貴族になってみたいわー。 偉くないと三百歳で若造呼ばわりですものー。 パパの代わりに会合に顔を出すと、ヴァイシャリーの田舎吸血鬼扱いだしぃー。と……。 これが、今回の桐生組の大義名分となる訳であった? ひならが、やってくる。 そんなオリヴィアことおりぷーに会うや、ひなに付いてきたナリュキは、抱きついたり擦り寄ったり揉みしだいたり濃厚アリスキッスしたりしてやろーと、思っていた通り早速実践に移した。 「ちょっとー、ほどほどにねぇー」(のっけから全然ほどほどじゃない!) ナリュちゃんことナリュキの(これからこれが日課となる)絡みにちょっと顔を赤らめて、恥ずかしそうに。だけど、全然嫌いではない様子。 ひなは、円と、ライバルであって親友であると、そう語る仲だ。桐生同士切磋琢磨しているうちに、邂逅を遂げたってやつですよ〜〜、と。 こうして桐生組の旅は始まった……とは言え、最初はコンロンという文字はどこにもなかったのだが。 大荒野に着いた桐生組。 円は、謎の魔道書を取り出す。 「円がヘンな本持ってきた!」 ミネルバは取り上げて見てみる。「エッチな本ではないよね、何これよくわかんない。『ヒラニプラ南部戦記』?」 ミネルバは、円が真面目に怒っているのを見て、「返す、返すよぉ」 円は大荒野に魔方陣を描くと、魔道書を開けた。 ……そう、違う世界の自分。 そんなものを信じたこともないが、よくとある夢を見る。 砂漠で魔物の王となり、その一帯の国全てを滅ぼし。 自分も夢のなかに消えていった……そんな夢を毎日のように見ていた。 円は、魔道書を読み返していく。 ……まぁ、それはただの夢だ、普段なら気にしない。 朝起きたらある筈のない本を持っていた。夢のなかの召喚呪文の魔道書。それが今この手元にある…… 大荒野が一瞬、昼であるのに、まったく夜の暗さに包まれる。これは…… 立ち上る炎。 未来か、それとも過去か。 何が起こる。 魔方陣の中央に現れたのは、 「に゛ゃー」 目付きの悪いぶちぬこだった。 「……」 魔力を消耗した円が黒いドレスのスカートを引きずってそのぬこに近付く。 「に゛ゃー。だれにゃおまえ」 「え゛」 「いやにゃ」 目付きの悪いぶちぬこは魔方陣をとことこと出ていき、ひなのひざにもふっとくっついた。 こ、このぬこ!! 円は紅い瞳を滾らせてぬこを見る。 「もふもふもふ」 「ああっ、何か思い出しますーっ。でもこれって私の夢で見たような……」 ひなはぶちぬこをなでなでした。 円は何だか消耗して、風に吹かれる魔方陣の片隅で座り込んでいたのだが、すると、荒野を流れてきたある弱々しいロボットが、教導団がコンロンへ出向くようだと話しかけてきた。そして、去っていった。円は魔力がなくなってただの本になったその書を読んでいる。 「『南部戦記』そのモデルとなったのかな? 騎凛セイカ。 さきの噂によると、コンロンに何かあるみたいだね」 教導団が出兵ということは、南部を平定したようにまた、コンロンを治めにいくつもりなのだろう。 それなら、ちょうど欲望が叶えられるチャンスに乗れるかもしれない。 「よかったね、オリヴィア」 こうして六人といっぴきのぶちぬこは、コンロンへ向けて大荒野を渡っていったのであった。 |
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