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パラ実占領計画 第二回/全四回

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パラ実占領計画 第二回/全四回

リアクション

 基地を見渡せる小高いところでデジタルビデオカメラを回していたフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)に、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)から呼び出しがかかる。
 誰かが基地を破壊して回っているのか、各区画の建物から黒煙が立っていた。
 後で撮った映像をオンライン上にアップロードしようか、と考えながらフィーグムンドはパートナーのもとへ引っ張られた。

「ミゲル・デ・セルバンテスは、スペイン無敵艦隊の水兵崩れなのだ──」
 イコン格納庫の様子を窺いながら遠い過去を思い出し、けれどどこか冷めた声で話しだすグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)
 ローザマリアとエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)秋月 葵(あきづき・あおい)が周囲を警戒しながらも耳を傾ける。
「432年前、妾が差し向けた連合艦隊の迎撃にあい、無敵艦隊はアルマダの海戦で壊滅。つまり、この妾、エリザベス一世が彼奴めの職も地位も奪った張本人に他ならぬ」
「でも、本人は自分のことドン・キホーテだと思ってるみたいだよ」
 ミゲルがミゲルとしてあったなら、グロリアーナに対してどんな感情を持ったか……本人にしかわからないが。今のミゲルでは特別敵意を覚えることはないだろう。
 葵は格納庫内に目を向ける。
 そこにはパラ実イコンとは大違いの、天御柱学院にあるようなイコン二機と、それとは別の量産型と思われる同種のイコンが並んでいた。
 警備も数十人いる。
 正面から乗り込んでいった者達が暴れているために、こちらの警備も厳重になったのかもしれない。
「こういうシチュエーションて、救出対象が洗脳されて敵として出てきたりするよね〜」
 パラ実総長さん達、大丈夫かな。
 無邪気な顔で縁起でもない言葉を続ける葵。
 幸い久もロアも鏖殺寺院の勧誘をはねつけていたが、彼らとは別のグループで勧誘を受けていた四天王の中には受け入れる者もいた。
 目の前の警備員やイコンのパイロットの中にいるかもしれない。
「監視カメラを壊したら、乗り込むわよ」
 ローザマリアは狙撃銃型の光条兵器を出現させると、入ってすぐのところの監視カメラを狙った。
 その時、見張りの一人の声が響く。
「了解しました。ただちに二機をそちらに向かわせます!」
 殴り込んできたパラ実生と脱走しようという四天王達へ差し向けるとしか考えられない。
 ローザマリアは出動前で慌しくなる格納庫内を利用して、監視カメラを一つ壊した。
 その音に殺気立って集まってきた警備の寺院兵に、エシクが乱撃ソニックブレードを放つ。
 ローザマリアに続いてグロリアーナも真空刃で監視カメラを殺していく。
 葵はヒプノシスで眠らせようと奮闘した。
 寺院兵達もただの地球人ではないようで、契約者特有の攻撃や防御をとったり、中には強化人間もいるのか壊したカメラの破片が飛んできたりした。
 なかなか突破できずにいると、二機の鏖殺寺院のイコンが動き出す。
 敵も味方も踏み潰していきそうな勢いに、寺院兵達は悪態をつきながらバラバラと散っていった。
 チャンスだ、とローザマリア達と葵が格納庫内へ駆け出す。
 気がついた寺院兵が銃やら魔法やらで彼女達の侵入を阻止しようとした時、ローザマリアが名を呼んだ。
「フィー!」
 寺院兵達の背後に唐突に現れる青い髪の女。
 掲げた彼女の手から高濃度の酸の霧が放たれ、不意をつかれた寺院兵達を苦しませた。
「待って! 四天王さんもいるかもしれないから、やりすぎないでっ」
「甘いわよ。それに私達の目的はここのイコンの奪取なの」
 返ってきたローザマリアの厳しい返答に、葵は言葉を詰まらせる。
 その間に彼女達は残された量産型イコンのほうへと行ってしまった。
 葵も慌てて後を追う。
 それなら、そのイコンで四天王達を助けようと思って。
 一人で動かせるかな、との不安もあったがちゃんと起動を始めたイコンに葵の口元に笑みが浮かぶ。
 ローザマリアとエシクの二人が乗り込んだイコンも、問題ないようだ。
 と、さらに二人組がやって来て、寺院兵を倒してイコンを奪った様子がモニターに映し出された。そのうち一人は頭に布袋をすっぽり被っていて、あからさまに怪しい。

「天御柱学院のものとは違う……?」
 プルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)の呟きは、正確には言葉通りのものではなく、思っていたような性能とは違う感じがしたことからのものだった。
 かつて学院の学生だったからわかることだ。
「まあ動くんだからいいだろ」
 被っていた布袋を取ったグンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)は、息苦しさから解放されたからか大雑把になっていた。
 プルクシュタールの起動チェックが終わると、グンツがニヤリとして言った。
「せいぜい基地を壊してやるか……」
 彼らの操るイコンは、先に出て行った二機のイコンを追った。
 葵とローザマリアもすぐに動き始めると、寺院兵達もイコンで応戦しようと次々に起動を始める。
 その中にアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)もいた。
 操縦席に乗り込もうとしたところを襲い、乗っ取ったのだ。
「歩行タイプで武器はないようです」
「そのようですね。作りもやや単純なようですし……ですが、学院にこのまま持ち帰りましょう。スバル、泳ぎますよ」
「Yes、マスター」
 アルテッツァのやや無茶な注文にも、すばるは疑念を挟まずに頷いた。

 ぶん取ったイコンで先に行った二機のイコンに追いついた時、基地に乗り込んだラルク達や捕まっていた久達が必死に抗戦しているところだった。
 最初に追いついたグンツのイコンが一機を突き飛ばす。
 もう一機には葵が体当たりをして阻止した。
 その間に久達パラ実生は、待っているだろうOBの漁船へ走った。
 邪魔された二機がグンツと葵に向き直る。さらに後ろから寺院兵の乗った量産型イコンが数機迫ってきていた。
 葵は困ったように眉を寄せ、グンツは好戦的な笑みを浮かべた。
 別のところから脱出をはかる魅世瑠達にも量産型イコンが一機立ちふさがっていた。
 対抗するにはここまで走ったり戦ったりしてきた彼女達にはきついだろう。
 と、その時。
「そ、こ、を、ど、けーッ!」
 何故か頭上から声が急速接近してくる。
 全員が空を見上げた。
 全員が逆光のせいで真っ黒な機体を見た。
 そこからの記憶はブツブツ途切れてひどく曖昧になった。
 けれど、一つだけわかったのは、潰れたトマトや生卵より目も当てられない有様になったパラ実イコンと量産型イコンらしきものの残骸があること。
 空から落ちてきたのがパラ実イコンに間違いない。欠片から見てリーゼント型だろう。
 そして、奇跡的に全員生きていた。
「ハハハ、生きてる……」
「お前ら無事だったか!?」
「お前のせいで死ぬかと思ったけどな」
 こんな事態を招いた張本人の姫宮 和希(ひめみや・かずき)に、魅世瑠は乾いた声と遠い目で答えたのだった。
 そこに、量産型イコンのパイロット二人が和希を怒鳴りつける声が響く。その声には若干の怯えも含まれていた。
「何なんだお前は!? 空から降ってくるたァどういう了見だ!」
「うるせぇ! 耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
 それ以上の大声で和希が寺院兵の口をふさぐ。
「俺がパラ実生徒会会長、姫宮和希様だ! 俺のダチを傷つける奴は許さねぇ!」
「パラ実の生徒会長だと!?」
「こいつさえ言うこと聞かせりゃ、パラ実は俺達鏖殺寺院に従うんじゃねぇか……?」
 鏖殺寺院の名に、和希の眉がぴくりと反応する。
 やはりそうか、とも思った。
 不穏な噂を聞いた時、謎の奴らというのは鏖殺寺院の連中ではないかと思ったのだ。
 メニエスやティアもここにいるのだろうかと気になったが、確かめている余裕があるかどうか。
 その時、それほど離れていないところから立て続けに大きな爆音が轟き、爆風に塵が舞った。
 基地のどこかが爆発したのか、イコンが壊されたのか。
 と、激しく罵りあう声や喧嘩するような音が近づいてくる。
 それは魅世瑠達とはぐれてしまったパラ実生達だった。
 他にも数名いるようで、彼らがいろいろ騒いでいるようだ。
 さらに後ろからは、寺院兵が追ってきているのだろうか?
「全部壊しちゃって、どうしてくれるんですか!」
「みんな生きてたんだから問題ねぇだろ」
「私達まで巻き込むなんて!」
「たまたまだ、たまたま!」
「敵機も壊れて助かったぜ」
「思ったより脆かったなぁ」
 などなど。
 誰が何を言っているのかわからないが、とにかく地響きのような足音をさせながら近づいてくる。
 そのうち向こうもこちらに気づき、声を上げて呼びかけてきた。
「おーい、後ろの奴ら片付けて脱出だ!」
「任しとけ!」
 和希は盛夏の骨気を打ち鳴らしてすれ違うように駆け出した。
「俺が相手だ!」
 寺院兵が構える前に、和希は等活地獄を叩き込んだ。
 この場で一番元気な和希が素早く動いて寺院兵を掻き乱し、その間隙をつくように銃弾や魔法で応戦する。
 寺院兵も統率を乱されながらも魔法や超能力で攻めてきて、そう簡単にこの基地から逃がすつもりはないことを示してきた。
 パラ実生徒会長として必ず仲間を助けてみせる。
 和希の思いはそれだけだった。


 基地脱出のための最後の戦いと言ってもいい戦闘が行われている頃、パラ実生達の帰りを待つOBの漁船では非常事態が発生していた。
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の襲撃を受けていたのだ。
 万が一を考えて吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が武器を隠し置いて行ったが、刹那の攻撃は隠れ身などを使っての不意打ちだったため、すっかり取り乱してしまったのだ。
 船長と船員数名が刹那に手傷を負わせて退散させた頃には、船の計器類は散々に破壊された後だった。
 急いで機能のチェックをしたが、漁船はウンともスンとも言わなかった。
「まいったな……」
 船長が弱り果てた唸り声をあげた時、連れてきたパラ実生達が仲間を取り戻して帰って来た。
 もう誰も追いかけて来ないことを確認した刹那は、基地周辺の岩場に隠れて小さく笑う。
「これで島に閉じ込められたな……ック」
 傷つけられた箇所に痛みが走り、顔を歪める。
 乗組員を倒すことはできなかったが、船を壊したことで良しとしておこう、と思い、今は少し休むことにした。
 そして、帰る手段を失ったパラ実生達はしばし愕然とした後、また言い合いを始めた。
「せめて俺のイコンを残しておけば乗せて帰ってやったのに!」
「真っ先にあの普通のタイプのイコンにやられたでしょう?」
「しょせんは量産型だもんね……」
「転んでたくせに」
「ああもう、まったく!」
 追っ手がいてもいなくてもぎゃあぎゃあと収まりのつかない争いに、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)そっとため息をついた。
「これからどうするにしろ、少し傷の手当てをして休みましょう」
 彼女の提案に、トマスが同意して休む暇もなかった追っ手との戦いで、あちこちに傷をつくったテノーリオの手当てを始めた。
 ミカエラとラルクも怪我人を診ていく。
 漁船の船長の具合を診るミカエラに、彼は沈んだ面持ちで謝った。
「すまねぇな。武器まで預かっててこのザマだ。すばしっこい奴でな……いや、醜い言い訳はよそう」
「軽い怪我でよかったと思うわ。あまり落ち込まないで」
 元気付けるミカエラに船長は力なく笑んだ。
 その間、魅世瑠と豊実とドン子は手に入れた資料を周りに見せていた。
「鏖殺寺院と日本の犯罪者……」
 ミカエラがわずかに眉を寄せてトマスを見ると、彼も同じように難しい表情をしていた。
 その時、船長が「あいつはどうした?」と言った。
「吉永がいねぇようだが?」


 余計な敵に会いたくないがために光学迷彩で姿を消して基地内を探っていた吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が、探している人物の居場所を知ることができたのは、和希がパラミタからパラ実イコンでダイブして量産型イコンをぺしゃんこにした頃だった。
「パラ実生共にあのでかいのをぶつけてやれ! 改造はもう終わってんだろ?」
「ああ。だが調整がまだらしい。不具合を起こすかも」
「やつらを潰したらまたやればいいさ。俺達のほうに来ないなら殺しちまえ」
「わかった。言ってくる」
 あのでかいの、という言葉に竜司が駆けていく寺院の男を追うと、そこはちょうど基地の中央部で巨大な建物があった。
 ブラックコートで隠れながら竜司についていく上永吉 蓮子(かみながよし・れんこ)は、その背を見ながら胸にもやもやしたものを抱える。
(ガイアって、どんな奴なんだろう……)
 女友達と聞いたが気になって仕方がないので、竜司に「助けるのを手伝う」とだけ言ってここまで来たのだ。
 乗り込んだパラ実生の基地破壊とイコン同士の戦いが激化して爆発の連続が起こり、一時移動を止めた時、獣の咆哮のような声が大気を震わせた。
 壁に亀裂が入り、天井が崩れてくる。
「いったん出よう!」
 サイコキネシスで瓦礫を弾きながら蓮子が竜司を引っ張る。
 割れた窓から外に避難すると、建物を突き破って百メートル超の巨体が立ち上がった。
「ガイア!」
 竜司が反射的に名を呼ぶ。
 しかしガイアは頭を抱えて苦痛の叫びをあげるだけ。
「ガイア、オレだ! 吉永竜司だ! 何をされたんだ!」
 こんな内容の声を何度放っただろう。
 突然、ガイアの腕が伸びてきたかと思うと、竜司と蓮子を掴み上げた。
 ガイアの顔の位置よりも高く上げられた竜司が、再び呼びかけたが彼女からまともな反応は返ってこなかった。
 やがて叫ぶのをやめたガイアは、ふらりと歩き出す。
 彼女が解放しないため一緒に連れて行かれる竜司と蓮子は、海に向かっていることに気づいた。
 その先に見えるのは、天沼矛。
 時折苦しげに唸りながら、ガイアはゆっくりと歩いていった。

卍卍卍


 パラ実生がキマクや太平洋の孤島で戦っている頃、東京では。
 石原肥満校長の無罪を証明しようと、ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)がインターネットを使って呼びかけていた。
 校長逮捕の事件で意見交換を行っている各掲示板を巡り、特に親パラミタ派の人達が集まっているところに『石原肥満は国にはめられたんだ!』と訴え、検察に抗議デモを起こそうと触れて回ったのだ。
 さらに別方面では、弁護団を結成しようと活動もしていた。
 話を持ちかけたのは、若手で国の息のかかっていない優秀な弁護士達。
 ブルタ自身も法律の知識はあるため、交渉の際はそれが役に立った。
 抗議デモは起こらなかったが、声をかけた弁護士の何人かからは色よい返事を得ることができ、校長の無罪証明のために動き出した。
 結果、校長は釈放されたのだが……。
「はて、もう少し揉めると思ったんだけど」
 ブルタの予想より早くに釈放が決まったことに、何故か素直に喜べない。
 彼は直接校長に接触して聞いてみた。
「ぐふふ、うまく立ち回ったみたいだね。その中にボクの協力があったこと、覚えておいてほしいな。ところで校長、今回の早い釈放といい、全部予定通りのことなの? わざわざ地球まで来た本当の目的を聞かせてくれるかな?」
「おもしろいことを聞くやつじゃのぅ。予定通りに逮捕されるなんてことがあるわけないじゃろう。そこまで暇人じゃないわ」
 苦笑する校長が嘘をついているようには見えない。
「やれやれ、酷い目にあった。今日はゆっくり休むとするかの。お前さんもご苦労じゃったな」
「お礼なら、かわいいパラ実生を紹介してくれたらいいよ」
 ぐふふふふ、と笑うブルタに校長はおもしろそうに笑う。
「恋は自分で見つけるものじゃよ。パラ実はかわいい子ばかりじゃ。ではの」
 親ばかとも取れるようなセリフを残し、校長は去っていった。