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パラ実占領計画 第二回/全四回

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パラ実占領計画 第二回/全四回

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キマク商店街の戦い


 前回、地球の商売というものに興味を示したキマク商店街の店長達に、今度は商売についてもっとわかりやすく説明しようと酒杜 陽一(さかもり・よういち)は店長達に呼びかけた。
 志位 大地(しい・だいち)もまた、商売の成り立ちから話してみようと思い、またここに来ていた。
 趣旨が同じなら、と行動を共にすることに。
 店長達のための青空講習会である。
 集まった店長達に、大地が先に講義を始めた。
 最初はキマクでもお馴染みの物々交換。それから貝殻などを使った現代の貨幣経済の原型へ。
 この後は陽一が引き取る。
「貨幣取り引きと物々交換の違いは、同じ価値の物と物を交換するのではなく、同じ価値の物と貨幣を交換する点だ。物と違い貨幣なら遠い国の物とも交換……購入できる。首領・鬼鳳帝は貨幣で各方面から大荒野の消費者が欲する物を買い付け、安価で供給し、その収益でさらに物を買い、人を雇い勢力を増してきた。……ここまではわかるか?」
 店長達は頷いた。
 貨幣を使っての買い物も知っているので理解が早い。
「この前のコンサートも、ファンが対価に相応と認めた貨幣をサービスと引き換えに払ってくれたわけだ。貨幣制度はあなた方の可能性を広げてくれる。様々なサービスと引き換えに貨幣を得る商売によって、金と力を蓄えていかねばキマクはこの先、生き残ることはできないだろう」
 すでに地球の企業ひしめく空京から視点を移し、首領・鬼鳳帝以外にもこの荒野に目をつける者が出てくるかもしれない。その時にキマクの住人が何も知らなければ、食い物にされて彼らの未来はあまり明るいものではなくなると思われる。
 さらに、と大地が続けたのはキマク本来の文化があることについてだ。
「この荒野には大まかに分けて二つの客層があります。略奪上等な荒野の民の魂を持っている者と普通に買い物をする一般人」
 大地はここで言葉を区切り、次に少し人の悪い笑みを浮かべた。
「前者については首領・鬼鳳帝へ向かうようにしてもらってもいいですね。御人良雄主催、大略奪会……なんて」
 店長達から拍手と笑い声が沸き起こる。
「ま、首領・鬼鳳帝の店員はモヤシみたいですから、この商店街も巻き込んでお祭りにする手もありますね」
「親父やお袋が敵か……腕が鳴るぜ。チーマー相手とは違う意味で盛り上がるな!」
 いつの間に集まっていたのか、パラ実生の一団が講習会に来ていた。何をしているのかは知らずに、とにかく人が集まっているからとやって来たようだ。
「クソガキ共には干し首一つやらん」
「へっ、てめぇが干し首になれや」
 ぎゃあぎゃあと言い合いを始める親子。
 パラ実生達はその勢いのまま、首領・鬼鳳帝略奪大会への準備に取り掛かった。
 陽一と大地による講習会を、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は冷静に見ていた。
 前回アイドルユニットをデビューさせた時にはまだ社名は決まっていなかったが、【キマクプロ】と命名して今日もコンサートをする予定でいる。
 ライバル社の亜魔領域の動向については、今のところ静観である。
「そういや聞いたか? チーマーとの戦いのこと」
 パラ実生同士の他愛ないおしゃべりが美由子の耳に入ってくる。
「あそこすげぇらしいな。様子見に行ったけど、もうドカーンでボカーンだった」
「アタシも行ったよ! 良雄様の勇姿を見に行ったんだけど、ちょっと遅くて見れなかったけどね。あちこちに残骸があって、そうとうやり合ったんだなって」
 大地の耳にもこの会話は届き、彼は自分達が立ち上げたネット販売会社亜魔領域に注文された品の配達に行ったシーラ・カンス(しーら・かんす)は無事だろうかと心配になった。
 彼女は試みとして配達手段としてトラックやトレーラー以外に、パラミタ虎に騎乗して運ぶのはどうかと考え、軽い荷物を抱えて出て行った。
 争いが起こるとそれに乗じて利益を得ようとする者が出やすい。
 シーラの実力は誰よりも知っている大地だが、それでも気になるのは仕方ないだろう。
 と、もやもやしているところに本人が戻ってきた。
「ただいまぁ。あ、大地さん。道の悪いところはトラックよりも断然パラミタ虎だよ。名付けて虎ック。我ながらいい名前だと思うんだ〜」
 掠り傷一つなくピンピンしていて、呑気に配達法の名前を考えている。
 トラックと虎ックでは聞いた時に紛らわしいだろう、とかいうことは置いといて、大地は無事に帰ってきたシーラを労った。
 ほのぼのとした空気を漂わせている二人とは対照的に、レン・オズワルド(れん・おずわるど)ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)は難しそうな表情で低く呻いていた。
 それは、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が捕まえたチーマーの一人から聞き出した話の内容による。
 ザミエルが首領・鬼鳳帝にパラ実イコンとは違うダメージを与えてやろう、と彼らの物流拠点襲撃計画を立てたことから始まった。
 メティスが捕まえたチーマーの一人にこのことを聞くと、
「そ、倉庫ならヒラニプラにある……っ」
 と、敵勢に囲まれたため焦った口調で答えた。
 さらに続けることには、その倉庫にはシャンバラ教導団の厳しい警備がついているとか。
 ルートは、空京に運ばれてきたものを首領・鬼鳳帝に送るためにヒラニプラ鉄道を利用し、倉庫は鉄道沿いにあるとのことだった。
「教導団の警備か。襲うにはそうとうの戦力を整えないとダメだよなぁ」
 椅子の背もたれにグッと体重をかけてぼやくザミエル。
 首領・鬼鳳帝を撤退させることで店長達に精神的余裕を持たせてやれるのでは、と考えていたレンからも苦笑がこぼれた。
「一応、警備の状況を調べてみたけど……」
 と、氷月千雨ことメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)がおずおずとレンとザミエルに声をかけた。
「詳細はわからないけど、私達だけで乗り込んだところで返り討ちにされるのは確かね」
 千雨は亜魔領域のインターネットサイトについて、パラ実生のモニターから得たアンケートの集計の合間にこれらを調べたのだった。彼女はこれから、集計をもとにwebサイトをもっとユーザーに合ったものにデザインを変えていくつもりだ。
 と、こちらの話が聞こえてしまったのだろう店長の一人が、困ったような顔をして言ってきた。
「確かに首領・鬼鳳帝のせいで店は潰されたけど、教導団とまで事を構える気はねぇから」
 あっちもこっちも敵だらけでは商売どころではない。
 レンとザミエルは、やれやれとため息をつくしかなかった。
 こうなったら本来の亜魔領域の仕事を、と気持ちを切り替えようとした時、この場に不似合いな重厚な音が響いてきた。それに紛れて憎々しいあの店のBGMも。
 何だありゃあ!?
 と、素っ頓狂な叫び声が店長の一人からあがる。

♪怒怒怒 首領鬼ー♪ 首領・鬼鳳帝♪

 ブルドーザーに設置したスピーカーから首領・鬼鳳帝のBGMを最大音量で慣らしながら、シャッター商店街を目指す志方 綾乃(しかた・あやの)
「ここを更地にして、二号店の土地確保といきましょう」
 綾乃の目には迫り来るブルドーザーに騒いでいる商店街店長達の姿が映っている。
「逃げないと大怪我しますよ〜!」
 椅子を蹴立てて立ち上がったザミエルが店長達やパラ実生達に向けて声を張り上げる。
「あのブルドーザーを分解して売り飛ばすぞ!」
「そのまま使ってもいいかもな!」
 突如、ザミエルの隣に現れた『良雄』。
「良雄様!? どうしてここに? 首領・鬼鳳帝を潰しに行ったのでは……?」
「商店街がピンチと聞いて駆けつけたのだ!」
 良雄のコスプレをした大地である。
 しかし、パラ実生達はあっさり良雄と認識して士気をあげた。
 対し、綾乃が怯んだ様子はない。
 サイコキネシスでアウタナの戦輪を操り、血煙爪を振りかざして突進してくるパラ実生へ飛ばした。
 ギャッと弾かれたところに後続に雪崩れ込まれる前にブルドーザーを突っ込ませ、パラ実生をまとめて押し返していく。
 レンとザミエルは銃でパラ実生達を援護した。
 一対多の戦いだが、バランスとしてはほとんど差はない。
 パラ実生が口汚い罵りの声を吐き出せば、綾乃は涼しげに嫌味を返す。
 いきり立ったところにアウタナの戦輪を背後から襲わせれば、運転席に乗り込み綾乃を引き摺り下ろそうとする手が伸びる。
 その手の主を蹴飛ばした時、ブルドーザーが不吉な音を立てて最後にボスンと実に嫌な振動の後、ウンともスンとも言わなくなってしまった。
「嘘……!」
「ぶっ壊せー!」
 目を見張る綾乃と勢いづくパラ実生。
 綾乃は危うく捕らわれるところだったが、技を駆使してどうにか切り抜けることができた。
 そしてブルドーザーを止めたパラ実生達だが、この戦いによる怪我人が続出したため略奪大会は延期となったのだった。