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リアクション
パラ実イコンVS働く車2
ゴォゥッ!
と、渦巻く炎が大地を舐め熱風が駆け抜ける。
働く車に乗らずに戦いに出ていたチーマーがたまらず逃げ散っていった。
「あのヤロウ! 卑怯だぞ、降りてこい!」
チーマーが釘バットを振り回して空に怒鳴った。
それを静かに見下ろすナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)。
彼女の眉が不快げに歪む。
「卑怯? ここはもうマイロードの領地ですわよ。無粋な侵略者を排除して何が悪いのです?」
今度はブリザード。
氷の嵐にさんざんに打ちのめられるチーマーが、慌てて働く車の陰に避難する。
「てめぇ……上等だァ!」
クレーン車とはしご車がナコトを囲むように接近してきた。
ナコトは「機械には……」と呟くと、天のいかずちを落とす。
働く車を操るチーマーから奇妙な声があがったが、クレーン車やはしご車はまだ動かせるし、動くようだ。
戦線が迫ってきたことと強敵が現れたことで、ミゲルは待機中のチーマーを投入することにした。
指示を出した後、あえて無視していた視線の主を見やる。
「待たせてすみません。何か、ご用ですか?」
用件などわかっているのにわざと尋ねるミゲルに、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)も何事もないように返した。
「エル・キホーテ……ライオンの騎士よ、珊瑚の機晶姫シーマ・スプレイグが決闘を申し込む」
「ほぅ。いいでしょう。あなたはそうとうな実力者のようです」
それには答えず、シーマはレーザーブレードを構えるとミゲルへと駿馬の走らせる。
一方のミゲルもショットランサーの切っ先をシーマに定めて迎撃姿勢をとった。
両者の武器がぶつかり合い、火花を散らし、弾く。
シーマはオートガードとパワーブレスで自身を強化している。
ミゲルがどんな対処をしているかはわからないが、実力伯仲といったところだ。
よそ見をする暇はないので確認することはできないが、自分とミゲルとの戦いが長引けばそれだけ牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)がレンと戦う時間を稼げると思った。
ナコトとシーマにより開かれた道を進むアルコリアに、何か名案を思いついたような顔でラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が手を挙げる。
「轟雷閃と抜刀術でどっちが効くか試して、良いほうを攻撃の中心にしようよ」
「いいですよ」
アルコリアの手がプリンス・オブ・セイヴァーの柄にかかる。
ラズンはアルコリアの前に出ると、龍騎士のコピスを抜きレンと対峙した。
レンもやる気満々で金属バットを構えた。
ラズンはひどく歪んだ微笑で呪うように言った。
「痛いことしてくれる? 無様に死んでラズンの胸を苦しめてくれる?」
「死ぬのはてめぇだ」
ラズンが力強く地面を蹴ると、レンはその分引いた。
ニヤッとレンが口の端を吊り上げた時、ラズンの頭上が突然翳り、アッと思った時には彼女は金属の何かの中に閉じ込められてしまっていた。
真っ赤なグラップルタイプのショベルカーにラズンを掴んだ支倉 遥(はせくら・はるか)は、そのまま運転してどこかへ運んでいってしまった。
「あらあら困りましたねぇ」
と、言いつつもあまり心配はしていなさそうなアルコリア。
だが、レンはラズンに対していた時のようには笑っていなかった。
油断できない強敵だとわかっていたからだ。
アルコリアは宙に浮いていた身を下ろすと、抜刀の構えをとった。
「いきますよ……」
「来いよ」
一瞬にして間合いを詰めたアルコリアの手元が動いた──ように見えた。
レンは反射的にバットで身を守る態勢をとる。
澄んだ金属音の後、バットは斜めに切られた。
反動で後ろに倒れそうになる体をどうにか持ちこたえさせたレンは、がら空きになったアルコリアの胴にバットを叩きつけようと横に払ったが、切られて短くなった分届かずその代わり……。
スカートが切り裂かれ、勢いでまくれ上がった裾は下着が見えるか見えないかのギリギリだった。
二人の戦いに思わず見入っていたチーマーから、どよめきがわく。
「惜しいっ」
「そうじゃねぇだろっ。何者なんだあいつは! レンさんを押すなんて」
「強すぎだろ。どこの奴だ?」
「ドージェの妹じゃねぇか!?」
最後のセリフがやけに響く。
一瞬の間の後、チーマーから異口同音の叫びがあがった。
「ドージェの妹があんなにかわいいわけねぇだろっ!」
アルコリアは薄い笑みを浮かべると、レンにとどめを刺すように剣を突きつけた。
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
言った直後、彼女は強いを気配を察知し、考えるより先に動いた体で飛んできたナイフを叩き落した。
チーマーの間から小型結界装置を巻きつけた男が現れる。その背に龍の刺青を見た一人が驚愕の表情で男の名をもらした。
「大和田さん……!」
大和田道玄はレンより前で立ち止まると、腰に差していた長ドスに手をかけ穏やかな口調で言った。
「お強いお嬢さんで。あまり坊ちゃんを可愛がってやらないでくださいよ」
「大和田、何でここに」
「坊ちゃん、敵は大勢いやす。そちらに指示を」
レンではアルコリアに勝てない、と言外にいわれていることがわかったレンは面白くなさそうにしたが、舎弟達をまとめるために大和田の言葉を聞き入れた。
いよいよ首領・鬼鳳帝も戦場になろうとしていた。
建物の屋上の一角に、ヨハン・サンアンジュ(よはん・さんあんじゅ)の小型飛空艇オイレで運ばれてきたアルバティナ・ユリナリア(あるばてぃな・ゆりなりあ)が降りると、飛空艇は再び上昇する。
それを見送るでもなくアルバティナは狙撃にちょうどよいポイントを探した。
眼下のチーマーに気をつけながら場所を定め、スナイパーライフルに弾をこめる。
スコープから戦場を覗き、小さなグループで動くチーマーの中、指揮をとっている者に狙いをつけた。
当てはしない。
標的は携帯で指示を飛ばしている。
(あれを狙いましょう)
アルバティナの撃った弾は見事に男の携帯を貫き、驚かせた。
そこにちょうど良くヨハンのオイレが降りてくる。今度は笹咲来 紗昏(さささくら・さくら)を連れて。
アルバティナは次の目標をスコープから定めながら紗昏に言った。
「うまくいきましたよ、紗昏さん」
「……うん」
いつもと変わらない、何も映していない瞳で平坦に返した紗昏は、店内への扉を押し開け姿を消した。
アルバティナの表情は浮かない。
「本当にこれが紗昏さんのためになるのでしょうか……?」
「サクラは自分を解放しに行くのです。ご心配には及びませんよ」
ヨハンの答えに、納得していないような顔をしながらも、アルバティナはトリガーを引いた。
一階まで駆け下りた紗昏は、わざと屋上にいることをわからせるようなアルバティナの銃撃にいきり立つチーマーの進路をふさぐ位置で、彼らが雪崩れ込んで来るのを待った。
自動ドアが開くのももどかしく駆け込んでくるチーマー。
「あいつ、八つ裂きにしてやる!」
「……ん? 何だお前は、どこから入った? 今日は休業だぜ。帰った帰った!」
シッシッと手を振る不良に、無表情に綾刀の切っ先をわずかに上げる。
「ここ……通るんでしょ」
不良達は紗昏の態度を挑発と受け取った。
「とっととそこどけや!」
紗昏は商品棚をうまく盾にして姿をくらまし、物陰から刀を突き出して一人ずつ倒していく。
彼女は少しずつ屋上へ続く階段へ誘導していった。
そして、刀を合わせるたび目の色に残忍な光が灯されていく。
チーマーの人数が多く、いずれ押されてしまうことがわかっていても、先ほどの紗昏とは別人のようになった彼女は狂ったように笑う。
「アハハハハハッ! モット、モット楽シマセテヨ!」
技の切れもよくなっていた。
その頃屋上のヨハンは、階下の剣戟が近づいていることに気づき、アルバティナに避難するよう勧めていた。
「乗ってください。巻き込まれてはかないませんから」
「は……はい」
紗昏を気にしつつも、そういう作戦だったのでアルバティナはオイレに乗り込む。
ヨハンはというと、紗昏のことなど念頭にもない様子で、扉を見やることもなくオイレを発進させた。
安全な場所で休憩しようと言うヨハンにアルバティナは紗昏のことを切り出す。
「大丈夫ですよ、姫」
「ダメです、紗昏さんを放っておくなんて! 私は……あっ、あのバイクで逃げますから、ヨハンさんは紗昏さんを迎えに行ってください」
言うことを聞かないと飛び降りそうなアルバティナに、ヨハンは仕方なくオイレを地上へ下ろす。
付近にはアルバティナが見つけたスパイクバイクがあった。乗り捨てられたもののようだ。このバイクの持ち主がどうしたのかはわからないが、キーはかかったままだしタイヤがパンクしたわけでもなさそうだ。
充分走れることを確認したアルバティナは、もう一度念を押すとエンジンをかけた。
ヨハンが首領・鬼鳳帝の屋上へ戻ると、ちょうど紗昏が扉をあけて走り出てきたところだった。
だいぶ苦戦したようであちこちに切り傷や痣を作っている。
わずかの間の後に飛び出してきたチーマーも、似たようなものだった。中には商品を絡みつかせている者もいる。紗昏のサイコキネシスで何かされたのだろう。
縁に駆けて来る紗昏へオイレを急接近させたヨハンは、腕を伸ばして彼女を抱え上げ、旋回しながら首領・鬼鳳帝から離れていく。
「逃げる気かー! こっちへ来いやァ!」
そんな声が聞こえてくるが無視して先に行ったアルバティナを追いかけた。
首領・鬼鳳帝前では空飛ぶ箒で乗り込んできたアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)のブリザードにより、一部凍るような寒さの中の戦闘となっていた。
呪文の詠唱の合間には紙ドラゴンを放ち、ブレスで時間稼ぎをする。
「紙のドラゴンが何だってんだ!」
「あいつ、パラ実の教師か!?」
消防車のホースから水を噴出させ紙ドラゴンを水浸しにして飛べなくさせた不良に続き、別の不良がアルツールのいでたちを見て叫んだ。
アルツールがイルミン崩れの魔術師の姿をしているのは、司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)の意向による。
アルツールと仲達は、旧生徒会の影響力を低下させない、という点で一致していた。
「鷹山君はもうキマクなどどうでもいいと考えておるかもな。だが、何もせんというのも存在感が低下していかん。彼は空京からこちらに来るわけにはいかんからな。余計なお世話だろうが、茶々を入れるなら我々しかおらんということさ」
仲達はこんなことを言っていた。
はたして旧生徒会会長の鷹山剛次が聞いたらどんな顔をするだろう、と思っても相手はここにはいない。
本当に余計なお世話だ、と皮肉げに笑いながら答えたか。
そんなことをアルツールが思い出していると、不意に消防車から水が飛んできて慌てて避ける。
お返しに、とブリザードを叩き付けた。
チーマーは車の陰に隠れたが、車体には氷の礫が降り注ぎ窓ガラスにヒビを入れた。
そうして邪魔なチーマーのいなくなったところを、ユニコーンに跨ったシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が駆け抜けていく。
彼らがアッと声をあげた時にはもう遅く、シグルズはミゲルに一直線に向かっていた。
シーマを退けたミゲルがシグルズに気づき、舌打ちしてショットランサーを再び構える。
シーマが切り札に隠していた蹴りの後の六連ミサイルポッドからの攻撃に、片腕と脇腹を傷めていた。
それでも騎士として挑まれたからには受けて立つという姿勢に、シグルズも誇りある戦士として本気で戦う気でいる。
シグルズはユニコーンの足を止めると、ミゲルに向かって名乗った。
「我こそは不死身のジークフリート。ミゲル……いや、ドン・キホーテだったか。悪いが少しお相手願おうか」
「不死身のジークフリート……聞いたことがありますね。邪悪な魔法使いに魂を奪われた戦士だとか。私はドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ。手加減は無用です」
ミゲルのシグルズに対する認識は、聞いた噂にだいぶ思い込みが加味されている。
その辺は聞き流したシグルズは、ユニコーンに合図を送りミゲルへ駆けた。
レプリカ・ビッグディッパーに轟雷閃を乗せて振るうと、ミゲルは受け流してやり過ごす。
「静電気程度では効きませんよ」
と、言うものの、体の切れは悪そうだとシグルズは気づいた。
事実その通りで、ミゲルからの攻撃はほとんどない。
確実な一撃を与えるため、シグルズは武者人形を放ち、邪魔をするように命じた。
すぐに倒されてしまうかもしれないが、その時こそ決定的な隙が生じるだろう。
ミゲルを助けようと、店内に誘引されなかったチーマーが田植え機を動かして加勢に来るのを、シグルズは視界の端に捉えた。
直後、誰が唱えたのかサンダーブラストの攻撃が降ってきた。
運の悪いパラ実イコンも数機巻き込まれていたが……。
「大丈夫……よね?」
中空でそうこぼしたのはシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)。合成獣のような得体の知れない生き物に乗っている。呪術師の仮面で顔はわからない。
ミゲルの加勢に出ようとしていた田植え機や中継車、リリーフカーがまとめて煙を噴く。
だが、こちらも実はとばっちりで、本命はレンを助けるために走ってきていたリフトカーや冷凍車、救急車などだった。
直撃をまぬがれた者も、激しい落雷に思わずブレーキを踏み込む。
その騒ぎに紛れ、ひっそりと小型飛空艇ヘリファルテが首領・鬼鳳帝の屋上に降りた。
ホッケーマスクで素顔を隠した国頭 武尊(くにがみ・たける)が素早く飛空艇を離れ、光学迷彩で姿をも隠す。
地上の様子を窺うと、担いでいた巨獣狩りライフルを下ろし狙撃の準備を始める。
レンを探すと、ヤクザらしき者達に周りを固められながらあちこちへ移動していた。舎弟へ指示をだしているのか携帯を耳にあてている。
武尊は、護衛のヤクザを狙いをつける。
シーリルの魔法が放たれると同時に撃った。
衝撃に吹き飛ぶヤクザを見て、すぐに移動する。自分の居場所を特定されないために。
そして、再び狙う。
二人目が倒れた時、ヤクザ達の口から屋上が怪しいという声があがった。
数名が見上げたことで武尊は見当をつけられたことを悟り、また移動する。もう少し減らさないと猫井 又吉(ねこい・またきち)がきついだろうと思ったからだ。
ミゲルはどうした、と探せばまだシグルズと決闘の最中だ。レンにまで手を貸す余裕はないだろう。
こちらのほうを見上げた数名のヤクザが店内に駆け込んでくる。
「捕まりはしないさ……オレが捕まったらギャグにしかならないからな」
それも最高につまらないギャグだ、と胸中で呟く武尊。
ギリギリまでねばり、ヘリファルテで逃げるつもりだ。
それに首領・鬼鳳帝は広いので当然屋上も広い。姿を隠している武尊を見つけるのには時間がかかると思われた。
レンの拉致を計画している又吉は、じっと機会を窺う。
シーリルの魔法で働く車はだいぶ減り、武尊の狙撃でレンの護衛も一人ずつ倒されている。
だが、何人かが店内へ駆け込んでいったことで少し焦れていた。
(一気にいくか……)
又吉は火炎放射器に手をかける。
ここに来た時から周囲に視認されない工夫は施してある。
立ち止まっていたレンが、又吉に背を向ける形で足早に移動を始めた。
ヤクザの壁も薄くなっている。
又吉は、シーリルの魔法が働く車を破壊する音に紛れてレンへ走った。
背後から急接近する又吉の気配にヤクザの数人が気づいた瞬間、彼らは炎に包まれた。
火達磨になって地面を転がるヤクザに気が向いているうちに、レンに近づき素早く担ぐ。
「なっ、何だ!?」
「坊ちゃん!? おい、何かいるぞ!」
空中でジタバタしているレンの姿に、ヤクザ達は見えない敵がレンを狙っていたことに気づいた。
又吉に彼らの相手をする気はなく、さっさと逃げるため今度は目晦ましに火炎放射器のスイッチを入れた時、殺気と共に肉薄した何者かに強く突き飛ばされた。
アルコリアと戦っていたはずの大和田だった。
彼女が負けたのかと思われたが、そうではなく、決着がつきそうにないので煙幕を張って強引に切り上げてきたのだ。
何より、パラ実勢のほうが優勢だったから。
投げ出されたレンを起こした大和田は冷静にレンに撤退を提案した。
「──お前もそう思うか。あいつらにもそう指示してある」
「悔しいでしょうが、ここは我慢です。次は百倍にして返してやりやしょう」
「百倍? 足りんな。皆殺しだ……!」
大和田に隙がなく反撃に出られない又吉の前でこんな会話を交わした後、レンはどこかにいるミゲルに撤退を呼びかけ、去っていった。
パラ実勢後方。
リーゼント部分に赤と白で十字マークを描いたパラ実イコンが、それに見合った大きさのリアカーを引いて戦場から戻ってきた。
そこにはテントの張られた簡易救護所があった。
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が設けたものだ。
この戦いで怪我人が多くでると思ったため手当てのために用意した。
パラ実本校はドージェに壊されて以降再建されていないので、テントはパラ実生徒会会長の姫宮和希を通してイリヤ分校から借りてきた。
巨大リアカーはイコンを借りた時に話をしたらつけてくれた。
テントの傍でイコンを停めたロザリンドは、素早く降りてリアカーから怪我人をテントに移していく。
「おーい、こっだこっち!」
軽傷だったパラ実生がテントの一角から呼びかけてくる。
ロザリンドが救護活動を始めてしばらくすると、こうして軽傷だったパラ実生が手伝うようになったのだ。
他にも数人が担架を担いですれ違っていく。
「この人達の手当てが終わったら、もう一度行きますね」
「それはいいけどよ、少し休んだらどうだ?」
「いえ、大丈夫です」
「……あ、こいつ渋谷じゃん。また連れてきたのかよ、ほっとけよ」
ロザリンドに手を貸したパラ実生は、ぐったりしている怪我人が敵の者だとわかると、嫌そうに顔をしかめる。
ロザリンドは黙って首を横に振った。
「それはできません。……お願いですから、さっきみたく喧嘩はしないでくださいね」
「そそ、それはもちろん……」
真剣な表情で頼むロザリンドに、パラ実生は異様に怯えて何度も頷いた。
ロザリンドが初めてチーマーの一人をここに運んできた時、喧嘩をしたのが彼だった。
止めたのはロザリンドで、目の前の争いを悲しく思い傷が増えてしまうことを憂い、龍騎士のコピスで手近な岩を真っ二つにすることで自身のやるせなさを静めた後、喧嘩はやめてくださいと誠心誠意お願いしたら彼らはわかってくれたのだった。
ここで喧嘩をしたらお前ら真っ二つだぜ、というメッセージだとパラ実生とチーマーは受け取ったとか。
運んできた怪我人にまとめて治癒魔法をかけた後、他の怪我人の様子を診て回る。
(日本でありました漫画みたいに、夕方まで殴り合ったら仲良くなるとかになるといいのですが……)
垣間見た戦場を見る限り、現実になるかどうかはまったくわからなかった。
「では、行ってきますね」
「次に戻ってきたら休めよ」
ロザリンドは曖昧に微笑みを返し、イコンに乗り込んだ。
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