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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


第十二曲 〜Beyond Re-Animator〜


(博士はなぜ、こんなときにベトナムへ向かうのでしょうか?)
 富永 佐那(とみなが・さな)は後ろに座っているホワイトスノー博士達に、常に気を配っていた。
 用意したコスプレイヤーの自前衣装で、本来この飛行機に乗るはずだったパイロットに成り代わった。
 操縦は自動操縦。イコンに比べればなんということはない。
 それに、まだ博士達に自分が天御柱学院の生徒だと気付かれていないようだ。
 だが、出発するときに言われた言葉が引っ掛かる。
『パラシュートは、手筈通り準備しておけ』
 元々のパイロットと何を示し合わせてたのか、佐那は知らなかった。


(・潜入)


「誰だ?」
 天御柱学院パイロット科教官、五月田 真治は何者かの気配を察知した。
 撃墜されて三日。
 逃げ回りながらも、ようやく基地が見える場所まで辿り着いた。
 明け方頃に何かが爆発するような音が聞こえたが、それが何かは分からない。
 がさ、と草むらが揺れた。
「はわ、こんにちわ、なの」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)だった。
「子供? なぜこんなところに?」
 しかし、エリシュカが身につけているのは軍用の迷彩服だ。
 彼女に続いて、二人の人影が現れる。
「味方よ。助けに来たわ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)と、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)だ。
「どういうことだ?」
 五月田は、なぜ彼女達がここにいるのか疑問に思っているようだった。
「極東新大陸研究所の、イワン・モロゾフ氏からの依頼よ。単なる現地調査のはずだったのだけど、その基地の話を聞いてね。偵察にここまで来たら、ちょうどあなた方を見つけたの」
 ローザマリアは説明した。
 その間に、エリシュカがナーシングを学院勢に施す。
 特に右腕を失った教官は、怪我のこともあり相当疲弊しているようであった。
「ローザ、なにやら基地の方が慌しい」
 森の中から基地の方に視線を送り、ライザが知らせた。
 黒い装甲の強化人間達は、それまで撃墜したはずの偵察部隊を探していたようだが、今は必ずしもそうではないらしい。
「……あの爆発は、何か関係あるのかしらね」
 ローザマリア達も、その音を聞いていた。
 最初は、上空で煙が上がったが、それが何かを確かめることが出来なかった。
「それで、皆はどうするつもりだ?」
 ライザが偵察部隊に確認を取る。
 敵の基地は目前だが、まだ彼女達は、特攻野郎Aチームの面々が基地へ潜入しようとしているのを、直接聞いてはいなかった。
 教官がそのことを説明する。
「今なら、もしかしたら森を抜けることも出来るかもしれないわよ」
 ローザマリアは、この人数で敵拠点に乗り込むことをあまりよく思わなかった。
「いや、彼らを無事に海京まで送り届けるにはその方がいい。どちらにせよ、街に出たところで乗り物は得られんからの」
 彼女達三人は基地潜入に協力することにした。

「これでいいかしらね?」
 潜入前に、最低限の準備はする。
 エカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)が、基地に入るための迷彩塗装を施す。
 とはいえ染料はないため、接近できるように葉っぱ等を利用した程度ではあるが。
「侵入するにしても、一番敵が少ない場所から行く必要がありますわ」
 オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)が、基地の周囲を見渡す。
 正面入口の前には、黒い装甲服――アサルトライフルを構えた――が、いる。
「少し待っておれ」
 ライザが、森の中を巡回している装甲服の兵士へと接近する。
 彼女だけではなく、ローザマリアも同様だ。
 ローザマリアは光学迷彩と隠行の術で気配を消し、ライザもまた隠行の術の気付かれないように近付き――首を刎ね飛ばした。
「さすがに数は稼げないわね」
 敵の死体から装甲服を剥ぎ取り、彼女達二人と、エリシュカの三人が着込む。サイズが合わず、多少違和感があるがやむを得ない。
 ヘルメットを奪う際に敵の顔を見たが、全員特徴を削ぎ落とされた同じ顔であることに驚きを隠せなかった。
「クローンの強化人間か」
 榊 孝明(さかき・たかあき)が呟いた。
「戦う道具として生み出された強化人間。そんな気がするよ」
 益田 椿(ますだ・つばき)が嫌悪感を示した。
「それにしても、まだ頭が痛むわね……」
 青いイコンと遭遇してからというもの、精神感応に敏感になっている。そのため、頭痛が抜け切らないらしい。
「椿さん、青い機体が出てきたとき、通信で苦しそうにしてましたよね? どんな感じだったんですか?」
 リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が椿に問う。
「はっきりと、思念のようなものを感じたよ。だけど、特に感情のようなものはこもってなかった。純粋な精神波、かな」
「感情がなかった、ですか」
 同じ顔した強化人間たちが、基地を守っている。おそらくはそういう風に作られたからだろう。
 ならば、あの青いイコンのパイロットも、そうやって作られた存在なのだろうか。
 シャンバラで人の子として生まれ出でたニーバーは、やや複雑な心境であるようだ。
「裏口があるわ。まずは、私達がこの格好で潜入して、敵を遠ざける。その間に入って頂戴」
 ヘルメットを被り、ローザマリア達が敵兵になりすます。
 そして、基地の裏手に回り、敵兵を誘導しながら侵入ルートを確保する。
「危険な感じは、大分弱くなってきたぜー」
 桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)が、女王の加護によって危険を感じ取っていたが、それが弱まった。
 今がチャンスだ。
「まずは内部を把握することが先決だな。地図が入手出来ればいいが……」
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が言う。
 侵入したとしても、中がどうなっているかは分からない。
「まずは、コンピューター類を探した方がいいかもな。おそらく、技術者も基地の中にいるはずだから、青いイコンやあの強化人間のことはその人達から引き出せばいい」
 孝明はそう提案した。
 
 一行は、静かに裏口から侵入した。
「こっちには誰もいないみたいだぜー」
 景勝が危険のなさそうな部屋の方を見遣る。
 中には、これといって目ぼしいものはなかったが、一応パソコンはあった。事務机や工学系の資料があることから、技術者の個室らしい。
「風花、ハッキング出来そうか?」
 紫音が綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)に聞く。
「なんとか……これどすなぁ」
 パソコンの画面に、基地内の見取り図が表示される。
「広いな。だが、イコンハンガーの場所は分かった」
 すぐにそれを紫音が銃型HCに移す。
「誰だ、何をしている!?」
 白衣を着た男が入って来た。
「声を出すな」
 孝明が、すぐにその男を取り押さえる。
 どうやら契約者ではないらしく、彼の力で簡単に組み伏せることが出来た。
「そうか……お前が、今排除対象になっている侵入者か」
 どうやら、逃げ回っていたことをこの男は知っていたらしい。
「質問に答えてもらおう。あの青いイコンはなんだ?」
「素直に答えるとでも……」
 孝明が力を強める。
「あの青いイコンで俺達の教官が一人死んだよ。そのパートナーも。俺達生徒を逃がそうとしてな。別に恨み言が言いたいわけじゃない。ただ、お互いに人を殺しておいて誰かのためだんてふざけてると思わないか?」
 その間に、他のメンバーはコンピューターを調べている。
「あるのは見取り図だけですわね。せめて、あの青いイコンがどこにあるのか分かれば……」
 だが、オリガが調べてもその情報は出てこない。
 操縦方法についても、機体そのものについても。
「ぐぐ……あのイコンなら、まだ他の機体と一緒に、格納庫にあるはずだ。だが、はっきり言おう。私もあれについてはほとんど知らない」
「本当か?」
 嘘をついているようではなかった。
「本当だ。そこにデータがないのが、その証拠だ。私はシュバルツ・フリーゲとシュメッターリングの性能向上のための研究しかしていない。主任なら全てを知っているはずだ」
 主任、その人物が青いイコンの開発者らしい。
「あの人は天才だ。かつて世界の科学を統べたと言われる『新世紀の六人』の一人の血を引き、クローン強化人間、イコンの量産、そしてあの化物を完成させた」
「その主任は、どこにいる?」
「探せばいい。滅多に表に出てこないから、私も普段主任がどこにいるのか知らんがな」
 それ以上の情報は得られなかった。
 研究員を眠らせて、横たわらせる。
「どうする?」
 孝明が尋ねる。
「俺と風花は、イコンハンガーに向かう。脱出用の機体を確保しておきたいからな」
「わたくし達も、ハンガーに向かいますわ。青い機体もある、とのことですので」
 紫音と風花、オリガとエカチェリーナ、そして五月田教官彼のパートナーは、ハンガーに向かうことにした。
「……この感じ。多分、あいつだ」
 椿が、精神感応で青いイコンのパイロットらしき波長を感じ取る。
 まだ、あまり近くではないらしい。
「俺達は、あの機体のパイロットを追う。会えれば、主任という人物のことも分かるかもしれないからな」
「パイロットがどんな人物か、気になるしな。まだ話が出来ないって決まったわけじゃねーし」
 孝明と椿、景勝とニーバーは青いイコンのパイロットとの接触を試みるようだ。
「気をつけて下さいね」
「そっちもなー」
 ここから先は、二手に分かれて基地内部の探索に入った。