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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


(・薔薇十字)


 指令室に近付くに連れ、敵は手強くなっていった。
 黒い装甲服の強化人間はもとより、傭兵も強い者ほど奥を守るように配置されていたらしい。
「東シャンバラから雇った傭兵……何故事前にそこまで備えることが出来たんだ?」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が訝しんだ。
「……誰かが情報を流してる?」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がその可能性を述べる。
「おそらくはな。だが、今回の作戦、東西の各学校もPASDも昨日知らされたものだ。そこから流れたとして、一日でこれほどの準備は出来ないだろう」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が推察する。
「それよりも前に知られていたのだとすれば……」
「クレア様、敵が来ます!」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が禁猟区と殺気看破で気配を感じた。
「そこか」
 クレアが雷術を何もない空間に繰り出す。
 直後、それが歪み、黒い兵士が姿を露にした。
 敵は一人ではない。
「三人か」
 刀真の前にも、敵は現われた。
「今回の敵も、やはり自爆するらしい」
 即座に刀真は神子の波動で装甲服の超能力を封じる。そうなれば、ただの身体能力が高いだけの兵士だ。
 敵のナイフを受け止め、弾いた直後にソニックブレードを敵の首筋に繰り出し、首を刎ねた。
 自爆する隙を与えずに、何とか倒すことが出来た。
「首を刎ねれば爆発はしないか」
 クレアは敵に向かって雷術を放って一時的に動きを止めようとする。
 しかし、敵は気絶しない。
 次いで、ハンスがチェインスマイトを繰り出した。
「顔を見せてもらおうか」
 今度は、魔道銃でヘルメットを破壊する。
 だが、それが砕ける瞬間、
「――――!」
 敵は自爆した。
 すぐに後退し、身を伏せたため、なんとか爆発に巻き込まれずに済む。
「機密保持のためか、顔が見られそうになったり行動不能になると、そうやって自爆するようです」
 刀真は首を刎ねた死体を抱え、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)に渡す。
「正悟、これでいいか?」
「ああ、助かる。すぐに戻って調査に回すよ」
 正悟が死体を受け取ると、来た道を戻っていく。
 その前に、ヘルメットを外し、中の顔を刀真達が写真に収める。
「さて、君は何処の誰かな?」
 特徴のない顔だが、いずれ調べれば分かるだろう。
 刀真がこのようなことをしたのは、前もって正悟から「死骸を持ち帰ろうと思うから協力してくれないか」と頼まれたからだ。
 その正悟も、ロザリンドにそのことを伝え、調査協力を依頼していた。
「調査結果については、後ほど伝えます」
 クレアにはそう告げる。同じ西シャンバラのロイヤルガードということもあり、情報共有はさほど難しくはない。
 なお、この段階で正悟の推測は伝えられている。
 自爆する際は、脳信号が送られて、それによって爆発する。だから、首を落とせば大丈夫だという。
 だが、これはあくまでも仮説だ。全ては調査後に明らかになるだろう。

* * *


 内部制圧の最前線を行く者達は、あと少しで指令室というところまで辿り着いた。
 通路の途中ではあるが、ホールのようになっている場所だ。わずかだが、灯りがついている。
 そこに、一人の男が立っていた。
 闇に解け込みそうな黒の長髪、黒い瞳を持つ怜悧な容貌に、さらに漆黒のローブを纏っている。
「よくぞここまでいらっしゃいました」
 慇懃に頭を下げる。
「俺はロイヤルガードの樹月 刀真。テメエは誰だ?」
 男に敵意を向ける、刀真。
「私はローゼンクロイツと申します。近しい者からは、『影の錬金術師』と呼ばれております。以後、お見知りおきを……と申し上げたいところでありますが」
 次の瞬間、ローゼンクロイツは刀真の真横にいた。
「総督殿から、内部の侵入者を排除せよとの令を頂きましたので。お引取り願いますか?」
 刀真が瞬時に斬りかかる。
「何?」
 だが、刃が触れようとした瞬間、その姿が霧のように離散した。幻影だろうか。
「これは失礼致しました」
 男は、元の位置に戻っていた。何事もなかったかのように。
「皆さん、ここはボク達に任せて下さい!」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)がローゼンクロイツを見据える。
「早く、総督を押さえるんだ!」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が二挺の魔道銃を構える。
「させませんよ」
 ローゼンクロイツが動き出そうとしたところで、後衛のミューレリアが弾幕援護を行う。その隙に、他の者達は指令室に向かって駆けていった。
「私も運がありません。お強そうなレディのお相手をすることになってしまうとは……」
 困りましたね、といった調子でローゼンクロイツは複数のカードを手にした。
「力で何もかも解決するのは好きじゃない……けど、ここで貴方を何とかしないとボクの大切な人達や多くの人達が危険に晒される……
 百合園の騎士、真口 悠希。ミューさまと共に参ります!」
 栄光の刀と花散る里の二刀の構えをで、ローゼンクロイツとの間合いを取る。
『悠希。あの男、口ではああ言ってるけど……掴みどころがないわ。手強いわよ』
 彼女が纏っているカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)が告げる。
「仮に倒せなくても、少しでも力を削ることが出来れば……」
『少し目標が低いわね……結果のことは後で考えて、倒す気でいきなさい!』
 ローゼンクロイツが、カードを室内にばら撒いた。
「それでは私も参りましょう。『影の獣』」
 カードが地面に着く前に、姿を変えた。
 黒い、四本脚の獣だ。「黒狼」のようである。
『ミュー、いくですよ!』
 ミューレリアの魔鎧、リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)がサイコキネシスを放つ。「影の獣」がどういうものか、まずは確かめる必要がある。
「あいつらは任せろ、ゆっきー!」
 どうやら、闇黒属性を持つ気体――スモッグのようなものらしい。それが、動物の形を取っているのだ。
 弾幕援護から、スナイプで獣を狙い撃つ。
 彼女の放った魔道銃のエネルギーが当たると、敵は四散した。数は多いが、一体一体の力はそれほど高くはないらしい。
 その間に、悠希はローゼンクロイツに斬りかかる。
「―――っ!!」
 敵の前に、バリアのようなものが張られていた。
『ギャラハッドの盾』
 ローゼンクロイツはただ、手を身体の前にかざしただけだった。
 掌には一枚のカードが張り付いており、ルーンと思しき文字が書かれている。
『アゾット』
 そしてもう一方の手でカードをつまみ、振り下ろしてきた。
 それを、受太刀で防ぐ。
 まるでカードが鋭い刃のようになっていた。
「やはりお強い。さすがに一人では辛いですね」
 その割りには、ローゼンクロイツの芝居がかった態度はまるで崩れていない。
「こいつら、キリがないぜ!」
 悠希の後ろで「影の獣」の相手をしていたミューレリアは、苦々しげに声を上げた。
 敵は、撃ち抜けばすぐに離散する。だが、すぐに復活してしまう。
『ミュー、分かったのですよ』
 リリウムが博識で敵を分析し、それをミューレリアに伝える。
「そういうことか」
 改めて、影の獣を狙う。
 敵は、ローゼンクロイツの放ったカードから出現した。となれば、それが核だ。
 だが、それが体内のどこにあるのかは分からない。
「なら、これでどうだ!?」
 ファイアストームを放つ。
 核が分からなくとも、炎で包み込んでしまえば関係はない。
『影の巨人』
 だが、敵の約半数を消滅させたところで、「影の獣」が一つに融合していった。
 今度は、五メートルほどの人型の巨体となる。
「闇黒、そして強力な毒を放つゴーレムです。いかがなさいますか?」
 下手に触れると、こちらが深刻なダメージを負うだろう。そのゴーレムを、ローゼンクロイツは後ろから操っている。
 しかも、その大きさから、並みの攻撃では核ごと打ち消すのは難しそうだ。
『悠希。闇には光――光術よ』
「はいっ!」
 敵の腕が伸びてきた。
 それに対し、最大明度の光術を放つ。
 その形が戻る前に、敵に飛び込んでいく。だが、何も彼女が単身仕掛けるわけではない。
 後方から、ミューレリアが全魔力を込めたファイアストームを繰り出した。
 影の巨人は、その形が崩れていく。
 室内全体を炎の嵐に包まれているため、実体を持たない敵はその空気の変化による影響をモロに受けているのだ。
 おそらく、あのカードがこの空間、大気中の何らかの成分を集め、あのような「影」を生み出しているのだろう。
 博識によって、そこまでの推察は出来ていた。
「これが私達の連携技だぜ! いけえ、ゆっきー!」
「はい! 名付けて……ファイアレス・リリィ!」
 もちろん、それだけ広範囲なファイアストームなだけに、前衛の悠希もそれに包まれている。
 だが、ファイヤリングとフォースフィールド、さらにエンデュアで炎を耐え凌ぎ、影の巨人へと突き進む。
 そして、爆炎波で影の巨人を内部の核――数枚のカードごと吹き飛ばした。
 さらに、そこから続けざまに、巨人の後ろに控えていたローゼンクロイツに疾風突きを繰り出す。
 だが、再び「ギャラハッドの盾」に阻まれかける。
「ゆっきー!」
 見えない障壁に向かって、ミューレリアが魔道銃を乱射する。炎の一部を、サイコキネシスで晴らし、スナイプで狙う。
 いくら強力でも、度重なる銃撃と、金剛力とドラゴンアーツで、さらに限界まで高めた悠希の渾身の一撃によって、それが破壊された。
「……お見事です」
 ローゼンクロイツの胴体が貫かれた。
「貴方の敗因は……それほどの強さを持っていても、一人だったことです。ボクは……ボクもかつては一人でした。
 けど……今は信頼する、友達のミューさま達がいるから……ここまで、戦えたんです!」
 静かに、ローゼンクロイツと顔を合わせる。
「いえ、残念ながら……私は弱い人間ですよ」
 次の瞬間、敵が影となって霧散した。
『それでは、機会があればまたお会いしましょう』
 どこからともなく声が響いてきた。
「くそ、逃げられたか!」
 ミューレリアが唇を噛んだ。
 そして、命のうねりを施し、悠希も含めて回復する。
 悠希の刀には、一枚のカードが刺さっている。ローゼンクロイツが戦いの中で使っていたものだ。
 いつ身代わりを使ったのか。それとも、始めから「本人」ではなかったのかは定かではない。
「『影の錬金術師』ローゼンクロイツ。一体何者なんだ?」
 彼の使った不可思議な力は、魔法か、超能力か。
 相手が本当に本気だったのかも含め、敵に対する謎が彼女達の中には残った。